31話 甘くみすぎて痛い目に遭った
知らない間に武文と生徒会長が仲良くなり、以前に助けた高校生たちは生徒会長に洗脳されたのか、俺らに同行することとなった。
進路上にあるいくつかの市役所などの施設で拠点の強化工事にお手伝いして、大阪城拠点化計画に影響を及ぼさないように、食糧や衣類などの物資を供給した。
川瀬さんは優しげな目。
滝本さんは微笑んだ表情。
同行者たちが熱意で手伝ってくれてる中、供給した分を補填するために倉庫やスーパー、薬局などで物資の補充に努めた。そのせいで車列は亀より遅い速度で進むこととなった。
本音をいえば、市役所で避難する人たちは保護されることに慣れ過ぎて、俺はそんな彼と彼女たちを連れていきたくなかった。
そのために彼らが安全に住めるように、市役所の強化を手伝ったことを、俺は川瀬さんたちに言うつもりがない。
特にお年寄りの扱いに俺は慎重だった。
農業などの生産技能がなければ、悪いとは思うが同行させるわけにはいかなかった。子供は未来へ望みを思い馳せる。だが高齢者のほとんどが過去を見ようとする。
そのお詫びというわけじゃないけど、預かってくれた市役所には多めの食糧を残してきた。
途中で出会ってしまい、食糧がほとんどなくなった生存者は救助して、彼らに二つの選択肢を提示した。
その一、ここで籠城を続けるなら、ある程度の物資は提供する。救援部隊は不明につき回答できない。
その二、近くにある拠点へ行くのなら、最寄りの拠点化された市役所へ護送する。
拠点へ同行することを選んだ人もいたけれど、大抵は保護してくれる最寄りの市役所へ行くこととなった。
大工や農家などスキルがある人たちには、こっそりと大阪城行きを勧誘する。人数こそ多くないものの、53人が加わった頃には進路を西へ切り替えて、ゾンビの集団を撃退しながら生駒山を越えた。
――双眼鏡越しに見る大阪はかなり荒れていた。
「マジか……」
山道を抜けたところで見えてくる大阪平野。双眼鏡の中で焼け落ちた建築物がいくつも見えた。
「やはりネットで見たように都市部は陥落していたんだな」
滝本さんの沈痛な言葉が後ろから聞こえてくる。彼はネットがまだ繋がっていた頃に情報の収集を怠らなかったので、道中でも色々と教えてくれた。
――政府は第1次ゾンビ災害の後にゾンビ対策に乗り出した。
ただ計画の根幹として、人の形をしたゾンビを想定しているため、新たに出現した動物型のゾンビに計画の変更を余儀なくされた。一方で大都市では都市機能を取り戻すために復興を急ぎ、各地から集まってくる大量の物資や建材で都市部の道路網が乱れていたらしい。
そこへ動物型ゾンビを含む第2次ゾンビ災害が始まった。
海から押し寄せてくる難民の群れに政府の対応が混乱したまま、最前線に立つべく陸上自衛隊が、二転三転する命令で右往左往させられた。
ゾンビと動物のゾンビによる津波のような来襲。
それに日本海方面から侵入を図る不法入国者と日本海側に住んでいた避難民の群れにより、自衛隊と警察が苦心して構築した防衛網は、指揮系統の乱れですぐに崩壊してしまった。資源が集中した大都市は、逃げ込む人と襲来するゾンビの波に飲み込まれた――
大阪城は広大な敷地に隣接する河川が好条件。
土壌改良と橋落としが必要だけど、北東には川で囲まれてる場所があるのだ。現地へ赴かないと断言はできないが、現時点では大阪城拠点化計画に変更はない。
「とにかく、行ってみるしかない」
銃弾に弱いウッドゴーレムを至近距離の守備に回して、主要な護衛は魔弾ガンを装備する人型ミスリスゴーレムが務める。ここから先、敵対勢力はゾンビだけじゃないと判断したほうが正しいだろう。
不安そうな表情をみせる同行者たちへ 安心してもらうために声をかける。
「各員乗車。
ここから先は、すべての敵を排除していきますんで」
「それは楽しみだわ」
真っ先に返事したのはグレース。
こいつはやっと許可した見敵必殺の指令に喜んでいるといったところ。でも戦術兵器並みの能力を持つサキュバスに、好き勝手にやらせるつもりなどない。
ゴーレム車の上に設置した砲台型ミスリルゴーレムが、住宅やテナントビルの中から出てくるゾンビへ魔弾を掃射する。
アダマンタイト製のプレートアーマー姿で先頭に立つ俺と、後方で警戒をお願いしたのに、物見遊山するグレースは砲台が撃ちもらしたゾンビを倒していく。
周囲に目を配らせながら、ゆったりとしたスピードで車列が道を進んでいく。
「――くそ、やっぱ多いわ」
砲台型ミスリルゴーレムの射撃は対人なら有力の攻撃手段だ。
ただ相手が頭が弱点のゾンビでは、見た目が気持ち悪い欠損ゾンビを増産させてしまう。
それに火炎放射の攻撃を受けたゾンビは、火だるまのまま動かなくなるまで近寄ってくるので、常に数百体の集団では却って危なくなることが確認できた。
「ウーザーい! ねえ、爆破させていい?」
「落ち着け、アホ」
キレそうなグレースが爆発魔法を使おうとした。
上位魔法は範囲攻撃が多いので、そんな魔法をここで撃ったらゾンビだけじゃなく、俺たちの周りが爆撃されたような惨状になってしまいそうだ。
下手したら同行者たちに被害が出るかもしれない範囲魔法は、敵ではない人が近くいる時は禁止だ。
「ア゛ーヴ――」
「ヴ――」
「ウーザーい!」
両手に火炎をまとわせて、ゾンビの群れへ突進するグレースに目をやる。
火炎放射型魔弾ガンという魔法代用品を使う俺。
多様な魔法を駆使する彼女の後ろ姿に、攻撃魔法が使えることを羨んだ気持ちが今更ながら思い出してしまった。
さすがに都市部の近郊ではタヌキやキツネがほとんどいないものの、ゾンビ犬の数が今までにないくらい多い。
気がついたときに、応戦していた犬型ウッドゴーレムがゾンビに抑え込まれて、その隙に数十体のゾンビ犬が足元まで近付いてきた。
――これって……ゾンビとゾンビ犬が連携プレイを取ってる?
「おいおいおい!」
「ウォン!」
「キャン――」
「グルル――キャン」
すぐに火炎放射型魔弾ガンを投げ捨てて、隣にいるウッドゴーレムから棍棒を奪い取った。
棍棒を振り回して、足元で噛みついてくるゾンビ犬の頭を潰していくが、次から次へとゾンビ犬が湧いてくる。
用意した50体の犬型ウッドゴーレムと100体のウッドゴーレムはすでに応戦させているので、こんな状態では新たに作るよりも、ゾンビの数を減らすことに専念すべきだ。
まさかの混戦にたじろいだ俺は、空いた隙に出したハルバートで応戦しつつ、この危機から切り抜けたら 戦術の変更を再考しようと戦闘中にそう決心した。
ゾンビの進化について:
作中のゾンビは襲撃したときに人間の反応を観察し、行動パターンを覚えることができる設定となってます。そのために人口の多い都市部では今まで人間を襲った経験を通して、同じゾンビと提携するで効率を図ろうとします。
ゾンビが進化する兆しを掴んでるにも関わらず、異世界で下位モンスターになるゾンビは基本的にウーアー攻撃しかしてこないため、甘く見た主人公が苦戦してしまいました。
ゴーレムの使用について:
魔石は異世界から持って帰った分しかありません。そのためにたとえ数があっても、主人公は必要に応じて、使用する予定のゴーレムに起動直前に魔石をはめ込む習慣があります。
金属系ゴーレムは魔法併用のミスリルゴーレムと物理攻撃のアイアンゴーレムを使い分けてます。最大数の利用を考慮して、金属系ゴーレムはインゴットに戻すことが多いです。ウッドゴーレムについては作製が簡単なため、使い捨ての消耗品と割り切っているので、汚れや損害程度によっては廃棄したりします。
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