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第2部外伝その一 救助する目標は派遣中の自衛隊だった

「黒船の到来じゃーい!」


「ねえ、船を黒く塗った意味があったの?」


「バカ言っちゃいけねえぞ、グレースよ。

 ゾンビをビビらせるにはこれが必要なんだよ」


 まったく意味はないが、こういうのは気分的にやるのが大事だと俺は思う。


 総理さんと統合幕僚長さんから、皇居で立てこもってる中隊を救い出してほしいと久しぶりに救助活動の依頼が会社にきた。しかも防衛大臣である雑賀のじいさんからも頼まれたので、しかたなく船で東京湾までやってきたというわけ。



「あなた、中々こりないわね」


「肩はこらないほうだ」


 グレースの皮肉もなんのその。


 佐山さんがチラ見してくるのがとてもウザかったし、出迎えてくれるのはたぶんゾンビしかいないけど、ついでに花の都である大東京見物も悪くないと楽しみを見つけることにした。


「じゃあ、日の出ふ頭で待ってくれな」


「はい、ひかるキラ様」


 今日は光らないあだ名だなと思いつつ、モーターボートをふ頭に接岸させてから俺たちは上陸した。



 セラフィにはここ一帯にいるゾンビを排除して、俺たちが戻ったときに脱走用のゴーレム船を用意しておく役割を担ってもらってる。


 グレースを魔法空間で待機させて、120体のストーンゴーレムを率いるセラフィがメイスでゾンビを相手に無双し始めた光景に目をやり、隠形のローブを被った俺は皇居を目指して走り出した。



 さすがはゾンビの都大東京、街の中にゾンビがうじゃうじゃとうろついてる。


「邪魔な車がいっぱいや。アイアンゴーレムを用意してきてよかった」


 祝田橋を渡る予定の俺は道路の現況を見まわした。


 火事の跡があっちこっちで見られる。通りにある商店はガラスが割られ、食料品を中心としたものがごっそり無くなってた。


 今日は自衛隊を救助したらすぐに引き上げる予定なので、都内で生存者の救助活動を行うつもりはない。目標と目的がある戦術戦略を無視した用兵は三流だと俺は固く信じてる。


 もっとも、救助活動が用兵であるかどうかなど、素人の俺は知るわけがない。




 皇居外苑にはたくさんのゾンビが観光に来ていた。やつらは皇居の風景に魅入られたのか、ただうろつくだけでいつまでも帰ろうとしない。


 それに遊び疲れ果てたのか、正門石橋辺りで今も眠ってる腐敗死体がいっぱいだ。ほとんどが頭に銃創を負う死体なので、だれかがゾンビを撃ち殺したのだろう。



 閉ざされた門を棒で叩いたり、石を投げたりと皇居へ侵入を試みる不敬なゾンビがたくさんいるため、きちんと処罰したほうが社会的な秩序は守れると俺は一人でうんうんと頷いた。


 ――お巡りさーん、こいつら逮捕ですよ。だれも居ないなら俺がやっちゃいますよ。


 よく見たら警棒で門を叩く警官ゾンビがいる。不敬罪の処罰は総理から業務を託された俺がやるしかなさそうだ。



「グレース! 外苑(ここ)にいるゾンビを排除して。

 面倒なら焼却していいから」


「はーい」


 魔法空間から出てきたグレースが嬉々として、火炎魔法で襲ってくるゾンビを焼き払っていく。


 よく見れば写真では緑いっぱいの皇居にたくさんあったはずの木が見当たらない。たぶん皇居で立てこもった人たちが燃料として切り倒したと俺は勝手に推測する。



 グレースが派手に魔法をぶっ放し、外苑にいたかなりのゾンビが退治された。やつらが退却し始めた頃、俺は門のところへ視線を向ける。


「いるなら出てきてくれよ」


 もし中に人がいれば、そろそろ気付いてもいいはずだと門の辺りに目をやる。



「だれだ!」


 正面鉄橋の上から、小銃を持った自衛官たちが俺のいる場所へ誰何してきた。


「内閣総理大臣と統合幕僚長から依頼を受けて、あなたたちを助けにきたものです。

 中に入れてください」


 俺は元気よく手を振りながら彼らへ返事した。




「――すると臨時政府は高松市のほうへ移ったというわけだな」


「はい。陸上総隊は副隊長さんたちのことが気がかりだから、俺に救助の依頼を出したんです。

 これが依頼書のコピーなんで、どうぞ確認してください」


 グレースの魔法で一気に皇居外苑に残ったゾンビを焼却させてから、新たにゾンビが現れてくるまでの間に俺とグレースは皇居の中へ入れてもらった。



 手渡された依頼書に目を通す安井副隊長さん。


 長い間に風呂が入ってないのか、自衛官たちは小汚い制服になにやらきつい体臭が臭ってくる。


 本当は雑賀のじいさんから衛星電話を預かっているので、ここは統合幕僚長か、それともじいさんに連絡しても良かったが、内部で漂っている変な雰囲気が俺をためらわせた。



「あのぅ……

 隊長さんはいませんか?」


「隊長はそのぉ……議員の命令で謹慎中だ」


 気まずそうに返事してくる安井さんは依頼書を返してくれた。



「議員の命令で謹慎中? なんですかそれ。

 なんでもいいですけど、仲間を待たせてあるので、とにかくここにいる民間人と一緒に退却の準備をしてください」


「……その依頼書が本物であるかどうか確認できない。そのために議員の意見を聞いてみないといけない。

 部下が呼びに行ってるから、少しの間だけ待ってもらえないか」


 苦しそうな表情をみせる安井副隊長と彼の部下たち。ここで押してもいい方向に転換できそうにないので、彼らの言う通りに議員さんを待ってみるのがいいだろう。



 閉鎖した場所で人たちがこもってたら、なにかしらパワーバランスが発生してしまうことがある。この場合は()()という権力がここを支配しているのかもしれない。


 でもそれはおれにとって、本当にどうでもいい話だ。



「見たところ、栄養不足しているようですね」


「……ああ、食料品が欠如してきたのでな」


「安井さん。ごめんだけど、ここであんたたちになにがあったかは知りません。

 ただ急いでもらわないのなら、この依頼が失敗したということで帰らせてもらいたいですけど、それでいいんですか?」


「……そ、それも議員に話してもらえたら」


 これはかなりの重症だと感づいた。


 ――その議員というのは何者かは知らないけど、権力を振りかざしてここを支配中。


 どういう人物が現れるかは把握できないとしてもこの後に交渉が控えてるから、まずはそのように仮定することが必要だ。



「ここに民間人がいますよね?

 あんたたちが行けないというのなら、せめてその人たちを助けてあげたいんですけど」


「民間人の代表も議員が勤めている……」


 ――もう打つ手は直接問い合わせてみるしかないということか。


 ここで帰ってしまってもいいのだが、結果無しで帰還してしまったら、この話を聞いた雑賀のじいさんがまた悩みそうだ。



「私が衆議院議員の吉原だ。君かね、救助しにきたというのは……

 ――なんだ若造か。

 国は皇居を守ってきたこの私のことをちゃんと考えてるかね。まったく」


 小太りした身なりがきれいなおっさんが出てきた。


 そのいかにもの態度はこいつが諸悪の根源のようにみえた。





いかにもの議員さんが現れました。

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