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78話 最終決戦は隠された奥の手で挑むものだ

 異世界でも中位魔法なら問題なく拒んできた術式による自慢のバリアが一発で壊されてしまった。


 脳内によぎったのが恐怖。


 臨時で作ったバリア付きの避難所がこの時点で()()()された。先のことなんてもうどうでもいい。ここでドラウグルと決着をつけておかないと、俺の仲間たちに明日はない。



「グレース、やれ!」

「はいな、ヒカルン」


 手にひらに乗せた黒く光る玉のようなものがグレースの得意とする上位の爆発魔法、投げるように放った魔法がドラウグルの本陣へ向かって飛んでいく。


 轟音ととも起きた大爆発。


 距離によって魔法の威力が落ちてしまう。眉山からあいつらをおびき出したのは近寄らせるためだ。


 これであいつらを消滅させられなくても、肢体の欠損くらいの被害を受けたはずだ。殲滅させることは初めから狙ってない。



「そんな……」

「おいおいおい……

 チートだろこいつら!」


 爆発が収まり、目の前で現れたのが光る強力な()()魔法防壁(バリア)だった。



 本丸でバリアによる防御、砲撃や武者ゾンビが通用しないことを知らしめる。


 その後にドラウグルの進攻に対し、上位魔法で近くまで来たドラウグルの本隊をグレースの魔法で崩壊させ、本陣に突っ込んだ俺が大将となるドラウグル野郎を捕獲する。


 それが俺の考えた戦術(シナリオ)だった。



 でも異世界で俺が知っているのは魔道具か術式によるバリアを、こいつらは()()()()で防壁を構築してみせた。窮地に追い込まれるのは俺のほうだ


 俺が想定した策は根本からくつがえされた。



「もういい、乱戦に持ち込む。

 ――グレース、セラフィ、上位魔法を連発させろ」


「この世界にもこんな強き敵がいただなんて……

 ――退屈しないわね!」


「はいっ、ひかる様」


 すでに大手門付近の建築物は上位魔法の威力で焼滅した。


 城門があったところへ出た俺は目の前にいるドラウグルの軍勢に目がけて、上位魔法で攻撃するようにグレースとセラフィに命じた。



 撃ち続ける上位魔法はやつらがバリアの構築に専念させるため。上位魔法を防げるバリアが作れるのなら、上位魔法くらいは撃てると想定したほうがいい。


 グレースとセラフィには魔法耐性はあるものの、さすがに上位魔法は怪我を負わされてしまう。



「ごめん、魔法攻撃は切らすな」


「あとどれだけ撃てるかは知らないけど、撃ち放題ってのは楽しいよ」

「……」


 今でも笑ってるグレースに比べて、上位魔法を使ったことがないセラフィの表情に辛さが浮かんでる。こんなことなら、海で練習でもさせておくべきだった。



 二つの疑問が脳裏に浮かぶ。


 一つ目はドラウグルが使うバリアの()()()()()()()はなんなのか。二つ目はあのドラウグル野郎の居場所どこなのか。この二つが解明できなければ先に進まない。


 幸い、バリアを張るドラウグルの陣は目の前にある。


 部下を切り捨てられたらやつも出てこざるを得ないだろう。やつにとって、ハーレムメンバーがライオットのように使い捨てのドラウグルでないことを祈るほかない。



「きっついわね……」

「……」


 ()()()()()グレースを見るのはかなり久しぶりのこと。セラフィに至っては起動して以来、初めて表情を崩したように苦しい顔をしている。



 ――もう時間がない。このバリアはどんなやつだ?


 目の前にある光る壁へメイスを振り下ろして、なんの抵抗を受けることもなくメイスが地面を叩きつけた。


 ――こいつは対魔法タイプのバリアか!


 メイスを構えなおした俺は前方にいるドラウグルへ目を向ける。



 ほとんどのドラウグルたちがバリアを維持するかのように両手を掲げる中、最前方にいる古風な大鎧を着た一人が左右へ手を伸ばす。


「撃てええっ!」


 やつが叫んだ意味がわからないがあのドラウグル野郎だ、()()を見つけた。


 俺が動こうとする前に左右から起動された魔法が強い光りを放った。



「ヒカルン! あれは()()()()よ!」

「ひかる様!」

「——バリアを起動させろ!」


 極位魔法は異世界でも限られた使い手しか使われなかった。集団魔法とはいえ、まさかドラウグルたちが使ってくるとは思わなかった。



 とてつもない魔力が込められた魔法が左右にあるドラウグルの陣地から撃ち込まれる。


 極位魔法じゃ気休めしかならないが、避ける暇を与えられないまま、俺はグレースとセラフィに携帯させた個体用の魔道具を起動するように命じた。



「――おれの勝ちだ。

 凍りつけ、()()っ」


 辺り一面の気温が急速に冷え込み、バリアを形成させているドラウグルたちが後ろへ下がって、俺たちを中心に眩しい光と共に巨大な氷が形を成されていく。


 人類なら死んだのかもしれない。だけど魔力を生体のエネルギー源とするグレースとセラフィは死ぬことなく、氷の中に封じ込まれるだけ。



「うおりゃあああーー!」



 メイスを握りしめた俺はドラウグル野郎へ向かって、全力で駆け出す。やつが初めて見せる驚愕の表情に俺はとても満足した。


 これまで数多のゾンビ軍団で進攻し続けてきたドラウグル野郎が、最後の最後で隙を見せてくれた。



 ――ヴェナ師匠が丹精を込めて創りあげた生涯の傑作をナメるな、ドラウグル野郎! この魔道具が作り出すバリアは魔神の神位魔法すら無効化させてみせたんだ。


 それにクソッたれの人神からもらったオリハルコンのプレートアーマーはあらゆるダメージを減軽させてくれる。万全な体勢で一対一の戦闘なら、俺がお前に負ける要素など初めから存在しないんだよ、ドラウグル野郎おっ!――



 俺の前でやつを守ろうとする女ドラウグルたちをまとめてメイスで殴り飛ばした。



「にんげーーんっ!」


「チェックメイトだあああ! ドラウグルぅううっ!」


 ドラウグル野郎に体当たりをかました俺は、倒れたやつの上で馬乗りの体勢で跨った。


 メイスを横へ投げ捨てると、流れるような動作で腰から愛用の双剣を抜き放ち、ドラウグル野郎の首筋に当てた。



「俺の勝ちだ!」


 ドラウグル野郎の首を挟む愛用の双剣が太陽の光でまばゆく輝いてる。


「ああ、そうだな。油断したよ……

 お前を封じるつもりで作った魔法が通用しないとは思わなかった。」


 ――極位魔法を創りあげるとは恐れ入ったぜ。異世界へ転移したら、きっとお前は最強の不死者(アンデッド)になれるよ。



「――お前らああ! 戦闘終了だああ!」


 剣や刀を手にした女ドラウグルたちが助けようと近付いてくる中、やつは大声で終戦を宣言した。


 すべての不死者(アンデッド)が行動を止め、焼け原となった戦場に強めな風が吹いていく。




「……そのまま剣を薙ぎ払わないのか?」


「そうしたい気持ちは山々だがな、お前に()()()()()のが初めからの計画なんだよ」


 死を恐れないドラウグル野郎は日常会話するかのように質問してきた。その答えを俺は決戦すると決めたときから持っていた。


 ——グレースが止めてくれて本当によかったよ。ゲームと聞いたとき、キレた俺は勢いだけでこいつを倒したかもしれなかったぜ。



「ほう……理由は聞かせてくれないか」


()()()意志を持つドラウグルの源と俺は思ったんだ」


 こいつが今まで出会ったドラウグルを操ってると俺はずっと疑念を持っていた。


 もしそれが当たりなら、()()を持つこいつを滅するのは悪手だ。指揮系統を失ったドラウグルは人間にとって、ゾンビ以上の災厄でしかない。


 グレースにしか理解してもらえないだろうが、今の俺は自分の先見の明を褒めたたえたいくらいだ。



 沈黙を保ったやつは俺の顔をジッと見つめてくる。冴えないおっさんに見られても嬉しくないので、できればすぐにやめてもらいたい。


 フッと下から突き上げる力が働いて、やつを跨ったままの俺がはね飛ばされた。



「お前の勝ちでゲームオーバーだ」


()()()()へ帰還させてくれるのかよ」

「は?」


「……こっちのくだらない呟きだ。気にすんな」


 立ち上がったやつは地面に座り込んでる俺へ不審そうな表情をみせる。



 こいつがパンデミックを起こしたわけじゃないというのはわかってるし、こいつも元をたどれば可哀そうな()()()の一人だ。


 それに願ったところでゾンビ災害以前の世界へはもう戻れない。


 ただちょっとだけ、ほんの少しだけゾンビがいない世界に帰れたらいいなと、今も平凡で退屈だった日々が懐かしく思える。



「交渉するのはいつにするか」


「……五日の時間をくれ」


 激戦の後で戦闘とは関係のない感傷にひたる俺にドラウグル野郎が声をかけてきた。



「わかった、勝者のお前に従おう。だが先に言っておく……

 ――多くは望むな、人間。

 おれたちはいつでも戦える用意はしてあるし、お前の()()()はすでに見せてもらった」


「……」


 今も数多くの武装ゾンビが市外で控えていることは知ってる。こいつがその気になったらいつでも進攻は可能なんだろう。



「それまでに交渉に立ち会うメンバーを残して、戦った同類はすべて本州まで引き上げさせよう。

 六日後の午前中に眉山公園で()()()3()()とまた会おう」


「……ありがたい配慮に礼を言うよ」


 ドラウグル野郎は配下たちを率いてこの場から立ち去ろうと、辺りに響かせる鎧の音がやけに耳障りだ。


 去り往くドラウグルたちから視線をそらした俺は、氷漬けにされてるグレースとセラフィへ目をやった。



 二人には悪いがしばらくの間にこのままでいてもらうつもり。


 セラフィはともかく、もしグレースを解き放ったら間違いなくドラウグル野郎へ襲いかかるだろう。


 誇り高き悪魔のサキュバス(フレンジー・グレース)は受けた屈辱を放っておくわけがない。


 氷の中で鋭い眼光を向けるグレースからサッと顔を背けることが、今の俺にできる精いっぱいの拒否だった。





 主人公の最大なチートは最強の防御(バリア)で、ものすごく魔力を消費するために常用できないのが玉に瑕な魔道具です。集団魔法ではあるものの、極位魔法が使えるドラウグルは作中で無敵を誇る武装グループとなります。バリアを用いての初見殺しがなければ、グレースとセラフィを封じられた主人公が敗北する可能性はありました。作中で主人公は最強のバリアを持っているため、異世界組だけが生き残るバットエンドルートは避けられました。


 これで作中で最後の山場となるドラウグルとの決戦が終わりました。エピローグまで楽しんでいただければ幸いです。


ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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