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77話 反撃する前の準備は大事だ

「やはり砲撃は効かないか」


「はい。なぜかはわかりませんが空中でなにかに当たってしまい、勝手に爆発するんです。

 昨夜に配下が報告した()()()()()()()()()()同じように思われます」


「駅構内の時と同じ現象だな――思った通り、あの人間はやはり大規模な魔法防壁が使える。

 ――もういい。砲撃は中止、同類を後退させろ。

 これ以上は無用な戦いで同類を失ってばかりだ、おれたちで戦いを終わらそう」


「「「はい、仰せのままに」」」

「――アジル様!」


 今回の攻撃を計画したメリッサが前に進み出る。



「なんだ、メリッサ」


「なぜあの人間は最初から魔法防壁を張らなかったのですか?

 午前中から張っていればこちらだって違う方法を取ったのに」


「さあな。人間の考えることなどわからん。

 ただ最初から魔法防壁を張られたら、こっちも今のように観戦してなかったのだろう。

 それにな、メリッサ。おれはあいつが直接対戦を望んでるように思えるんだよ」


「アジル様! 対戦はウチらに――」

「いいんだよ、メリッサ。招待されてるなら、出向いてやるのが礼儀というものだ。

 あの人間はまだこっちの力を把握しきれてないはず、勝てる見込みは十分にある」


「アジル様……」


「さて、城攻めだから長引くかと思ってたが、案外今日で決着はつくな。

 ――行くぞ! お前たち!」


「「「はい、仰せのままに」」」


 午後となり、眉山公園から戦況を眺めていたドラウグルのアジルは、ハーレムメンバー750人と本陣を護衛する1500体の武者ゾンビを連れて、()()との決着をつけるために徳島城へ本隊を進めさせた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ねえねえ、砲撃が止んだよ」


 バリアの外で爆発していた砲撃が止まり、あれだけ攻め寄せてきた武者ゾンビも下のほうから叫ばれてる後退の号令に従って、占領した城の曲輪から下っていく。



 当初は東二の丸のほうで天守閣を再建するという話を取り消して、建築せずに櫓だけに留めておいてよかった。


 本丸にある隅櫓を除いて、城内に建てられた櫓群がほとんど砲撃で屋根が壊れされてる。壁だけは外側に鋼板を張っているので、屋根なしの櫓がそこら中にあるというわけだ。



「ひかる様。予測された通り、本丸からドラウグルが下山してます」


 双眼鏡で眉山公園を観測するセラフィから、ドラウグルたちの進軍が告げられた。


「うん、わかった――少し早いがお茶にしようか」


「はい。今日は紅茶とコーヒー、どちらにされますか」


「そうだな……

 この前にセラフィが作ったケーキが残ってるし、ブラックコーヒーにしようかな」


「わかりました。少々お待ちください」


 コーヒーと言ってもインスタントもの。


 すでにあらゆるものが海外から輸入されることがなく、物資が止まった世界で豆から挽くコーヒーは超貴重の嗜好品だ。いつかコーヒーノキを栽培する計画を立てたいので、そのためにも今日はここで強敵を撃破する。




「ねえねえ、下まで来たわよ」


「……あ、うん……

 ふぁああ、眠いな」


 午後のティータイムを楽しんでから眠気に襲われて、少しウトウトしたところにグレースからドラウグルたちが到着したと教えられた。


「もうぶっ放していい?」


「待て待て。まずは相手の出方を見てみよう」


 戦意十分なグレースはウキウキするそぶりをみせる。



 たぶん、川瀬さんたちが死んでもグレースにとっては家畜を飼ってくれる奴隷がいなくなったくらいしか思わないだろう。共に過ごしてきた人たちのことよりも、思いっきり戦えるドラウグルたちのほうが今の彼女には興味を持つ。




「敵勢、三つの集団に分けました」


 大手門前にある交差点の辺りを中心に、三つに分かれたグループが即席の陣地を敷いた。


 城の真下にいるドラウグルが率いる集団の動きは俺から見ても手に取るようにはっきりとわかるものだが、指令に忠実なセラフィは今でも双眼鏡で監視を続けている。


 彼女の忠誠心を報いるためにも、俺からは一言もツッコむつもりがない。



「あ、魔法を撃ってきたよ」


 幾筋もの火炎がバリアに目がけて飛んできた。


 だが最大限の出力させたバリアに下位魔法が効くはずもなく、バリアに当たった瞬間に魔法そのものが霧散してしまった。


「やはりバリアがあることは知られてるな」


 以前に地下で遭遇したとき、女ゾンビから魔法防壁の言葉が聞いたことがある。


 バリアで砲撃を防いだことですでにドラウグルたちにバレてもおかしくはない。もっともバリアそのものはドラウグルを誘い出すための罠だから、別にドラウグルに知られてもいっこうにかまわない。



「動きが止まったわね」


 断続的に魔法や迫撃砲で攻撃を試みるドラウグルの集団。


「マジでゲームのつもりで戦争してやがる……」


 やつらは賢明にも俺が期待する城攻めをしてこないので、仕方なくドラウグル野郎の姿を双眼鏡で探す。ただやつらはなにを考えてか、戦国武将のような鎧を着用した上に全員がお面をつけてる。これではどのドラウグルも同じのように見えて、野郎の居場所がまったくつかめない。


 ――らちが明かないなあ。こっちから()()()()()か。



 温存した50体の金属ゴーレムと117体のストーンゴーレム、それに朝から消耗を続けてきたウッドゴーレムは146体を残すのみだ。


 ドラウグルの本隊を誘い出した時点で、本丸というよりは徳島城拠点の役割は終えた。あいつはゲームのつもりだがこっちはみんなの人生がかかった生存競争だ。


 負けるわけにはいかない。



「上位魔法でやるぞ、グレース」


「え? やたー! 任せてよ」


()()()()()はちゃんと覚えてるよな?

 魔力を使い果たすなよ」


「わかったわかった」


 飛び跳ねるグレースは本当に嬉しそうだった。隣で双眼鏡を左手で握るセラフィは右手にトレイを持ったまま、俺の顔をジッと見てくる。


「あ、ああ。セラフィはグレースのバックアップだ。

 たぶんグレースだけで終わるかもしれないけど、ここであいつに勝っておかないと後々が厄介なことになる」


 ドラウグル程度ならグレースがいればすぐにでも片付けられることだろう。



 俺が恐れていたのはアリシアが従える、参戦していないドラウグルたちのことだ。


 国中のゾンビを集められて、絶え間なく攻め続けられてしまえば、いつかは異世界組(おれたち)だけを残して、大切に思う人たちがゾンビの波に飲み込まれてしまう。


 そのためにここにいるあのドラウグル野郎を逃がすつもりがない。



「バリアはこのまま残す。出撃だ」


 俺たちの行動を悟られないためにバリアを残して、マテリアルライフル型魔弾ガンを貴重な戦力であるミスリルゴーレムに持たせた。


「汝らに命ず。魔石の魔力が切れるまで援護射撃しろ」


 別に当たらなくてもいい、本丸からの攻撃でやつらの気を逸らす目的で射撃する。その間に俺たちがグレースの上位魔法で崩れたやつらの本陣へ切り込む。



 対魔王戦に備えて、人神からもらったオリハルコン製のプレートアーマーは対魔神戦でも活躍してくれた。ナメたマネをしてくれたドラウグルに、俺が持つ最高の装備で悔やませてやる。


 久々に使うオリハルコン製のメイスを握りしめ、腰には愛用の双剣を差した。



 ――ナメたことをしでかしたバカめ。異世界帰りの力を思い知れ!



「ヒカルン! ()()()()がきたよ!」

「――なにっ!」


 俺たちがこもってる櫓へ目がけて、巨大な火球が一直線に飛んでくる。



 ナメたことを考えてたのは俺だった。


 こっちの世界にいるドラウグルは俺が予想すらし得なかった()()()()を放ってきた。





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