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65話 戦いの合間で見かけるのは兵士たちの悲しみだ

 グレースは問答無用の魔法攻撃で建物を丸ごと焼却させてるので、だいぶ前に進んでいるみたいだ。


「じーんげ――」

「人間だよ――うりゃあっ」


 攻撃魔法が使えない俺は、銃撃を放棄して剣や槍などの武器で攻撃してくるゾンビをハルバードで斬り払っていくしかない。


 ストーンゴーレムのほうが網に絡まれてるやつが多く、そのほかは建物内で反撃するゾンビの討伐に向かった自衛官たちの護衛につけた。


 俺の周りを護衛させてるのは射撃を続けるミスリルゴーレムだ。



「引けええ!」


 銃撃音の中で響いた甲高い声。その声に反応して、戦場にいるすべてのゾンビが攻撃の手を止めた。


「汝らに命ず。攻撃やめろ」


 俺の命令で魔弾ガンを構えてたミスリルゴーレムが一斉に銃を下ろす。


「グレース、セラフィ。攻撃を中止してこっちに来てくれ」


『えー、いいところなのにぃ。

 ――わかったわ』

『はい、ひかる様』


 ゾンビが退却し始めたため、すかさず俺より攻略が進んでるグレースとセラフィに合流する指令を出した。せっかくゾンビが引いてくれてるのなら、なにも混戦を続けることはない。


 なによりも自衛隊さんの消耗が激し過ぎたので、ここは一旦戦線の整理に入ったほうがいい。



「ソーサラー! なにが起きたのですか?」


「ゾンビが後退し始めたんです」


「追撃しますか、ソーサラー」


「いや。あなたたちもかなりやられてると思うんで、一旦部隊を立て直したほうがいいんじゃないですか?

 そのことをできればすぐに隊長に確認してほしいんです。

 それと退却するゾンビは勝手に逃げていくから、攻撃しないほうがいいかもしれません」


「わかりました」


 俺のことをソーサラーと呼んできた若い自衛官が敬礼してから後方のほうへ駆け足で去っていく。



「グレース、セラフィ。最初の場所で待ち合わせな」


 足元をゾンビタヌキとゾンビ犬が逃げていく。


 ミスリルゴーレムを収納してから、起点となった堀止交差点へ戻りつつ、途中で絡まった網で動けないストーンゴーレムを回収するつもりだ。




「……ひ、ひとおも……に」

「くそおおっ! ちくしょうおお!」


 通ろうと思った道の歩道で、横たわる自衛官を仲間たちが取り囲んでる。


 戦闘中でも見かけるこの光景は、辛うじて意識が残り、ゾンビになる前の自衛官が仲間に介錯をもとめているものだ。



「ヴー……」


「やめてください隊長! 山本は、山本は()()生きてるんですっ」

「……加山陸士長。山本はもう……ゾンビなんだ。

 一緒に苦楽を共にしてきたんだ、楽にしてやるのが俺たちの務めだ」

「隊長おおおっ!」


 道の向こうでフラフラと歩き出そうとするゾンビの周りに自衛官たちがいた。数人に取り押さえられた男が泣き叫び、一人の自衛官がゾンビの前でその頭へ拳銃を向ける。



 俺は緊急クエストで参戦したので、彼らとは絆がない。魔法でゾンビを浄化することができない以上、俺の出番なんてあるはずもない。


 乾いた銃声が燃えてるこの一帯を響き渡る。


 ――今夜はどれだけ救いのない銃声を聞かなくてはいけないのだろうか。




「芦田君、君の活躍でゾンビを撃退することができた。お礼を言わせてもらいたい。

 本当にありがとう」


「いいえ」


 憔悴しきったような表情しつつも、伊東隊長は俺にお礼を言ってきた。


 まったく連絡が取れない分隊があるらしく、無線で連絡する隊員たちはだれもが悲しい顔で呼びかけを続けてる。



「隊長、ゾンビは和歌川大橋から撤退してますよ」


「そうか……

 ゾンビがいなくなり次第、検問所の門を閉めるように吉原中隊に出動させよう」


「了解です」


 伊東隊長と歳がそう変わらないくらいの自衛官が命令を受けて、この場から立ち去る前に俺へ敬礼してくれた。咄嗟のことだったため、どう対応すればいいかがわからない俺はとりあえずすぐに頭を下げて、返礼とさせてもらった。



「先のは連隊の副隊長だ。後で自己紹介させよう」

「あ、はい」


「君が奮闘してくれたおかげで、かなりの隊員が助かった。こちらとしては感謝してもしきれないんだ」


「いいえ。それは――」

「――隊長! 東側よりゾンビが攻撃を始めましたっ」


「どこだっ」


「大橋方面です。

 今は大隊が対応してますが、数が多いので至急増援してほしいとの急報が入りました」


「わかった。すぐに編成し――」

「伊東さん。俺が先に行きます」


 どうやら今夜のゾンビは休ませてくれないようだ。こうなったらあいつらの気が済むまで付きやってやるしかなさそうだ。



「芦田君……すまんっ」


「いいですよ。すぐに動けるのは俺たちみたいですから」


 上半身を屈めてくる隊長を止めた。お礼を言われるのはいいけれど、年上の人に過分な礼をされるのは恐縮する。



「セラフィ、網に絡まれてないストーンゴーレムはなん体だ」


「94体です、ひかる様」


 こっちは68体と予備の25体がいるから、使えるストーンゴーレムが187体ということ。ウッドゴーレムは銃弾と魔法に弱いため、いざとなったら使い捨てのつもりでセラフィにも持たせる。


「グレース、連戦になるけど――」

「あら、()()()口を聞いてるのかしら?」


 不敵な表情を見せつけてくるサキュバスは異世界で討伐部隊(おれたち)を悩ませた強者だ。



「伊東隊長。それじゃ、行ってまいります」


「ああ、すぐに行くのでそれまで宜しく頼む」


 こんな連戦などどうということはない。でも朝からドラウグルたちに奇妙なことを付き合わされてたから、精神的にちょっとだけ参ってるという感じだ。



 この先はどんな戦いになるかがまったく読めない。俺としてはドラウグルが練ったややこしい策略より、ウーアーと唸りつつ力業で押してくれたほうが対処しやすかった。





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