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53話 ゾンビの進撃はこれまでとは異なるものだった

 徳島空港の近くにある製薬会社の工場でゾンビの生態を研究する施設が作られ、そこに自衛隊が捕獲したゾンビが試験体として扱われてる。


 ゾンビは環境の変化による影響を受けにくい。


 大型冷凍庫に入れたところでゾンビたちは凍ることがなく、いつもと変わらない動きを示していたし、室温を上げたときも汗を流さずに平然と試験室内で佇んでいた。



 ゾンビには知恵があるように観測され、片言ながら言葉を話すことがある。


 言葉を使うことはコミュニケーションを取るというより、自己の意思を示す場合に使われてる。研究者たちはゾンビとの対話を試したが、まともな回答を得ることはできなかった。



 正体不明なゾンビウイルス。


 第1次ゾンビ災害直後に感染された試験体から得た体液と肉片を分析した結果と同じく、ウイルス自体は発見されてる。だがウイルス感染のメカリズムが解明されないまま、感染症対策チームがいくら試験を重ねても、抗体を作ることは叶わなかった。



 色んな研究が対策チームで実施されてる中、ゾンビは自己回復するというショッキングなレポートが医療対策チームから政府のほうへ届けられた。


 メカニズムはわかってないものの、傷つけられたゾンビが一定の時間をおくと治療行為がなくても、緩やかな速度で傷が勝手に治っていく。



「ゾンビって、前に異能を持つ民間人が魔法を使うって情報があったけど、これは魔素というもので治してるかもしれないな」


「お前なあ……こんな時に非科学的なことを言うなよ。

 頭がおかしくなるような小説は家に帰ってから読め」


 ファンタジーが大好きな医者がしみじみと呟いているところ、隣にいる同僚が呆れ顔して彼を窘めた。



 実は彼が正解にたどり着いたのだが、魔法という非現実な空想を対策チームはだれ一人として本気で信じてはいなかった。


 それはともかく、前線から届けられた情報に基づいて、政府は簡単に入手できる水という資源を中心に放水装置の開発や設置などのゾンビ対策を打ち立てた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「お疲れさまです」


「ご苦労様です」


 橋にある検問所で警備に当たってる自衛官へ街を行く人たちが気軽にあいさつする。


 市街地に多く存在するゾンビと接敵する場合、近接戦闘のスキルが欠かせないことはこれまでの経験で明らかになった。


 特殊作戦群に所属する、対ゾンビ戦の特殊戦闘部隊である小谷隊がもたらしたこれまでの報告で、水と併用する戦い方は極めて有利な運びでゾンビを撃退できると伝えられた。


 そのために市内にある公共施設を初め、各所にある防衛陣地には放水装置が設置された。



 その一方で従来の防弾チョッキでは手や足が噛まれる可能性が高いことが発覚した。セラフィ・カンパニー社から納品されてる硬度がある革製の鎧が対ゾンビ部隊の標準装備として、防衛に当たる自衛官と警官に配備された。


 見た目が軍人や警察というより、アニメで見られる異世界の冒険者に近いために、革製の鎧を着用した自衛官たちは市民からよく声をかけられるようになった。



「あ、ギルド長だ! こんにちは」


「よう、坊主。走るのはいいがこけるなよ」


「はーい」


 年齢の割にはいかつい風貌と冒険者みたいな身なりが子供たちから親しまれ、徳島市の守備を任されてる佐山隊長は子供たちからギルド長の愛称がつけられた。



「隊長。冒険者野郎チームじゃないですから、その呼び名で返事しないでください」


「いいじゃないか、熊谷君。こうして市民から親しまれるなら、こちらも頑張ってやろうって気になるものだ。

 それにファンタジー小説が面白くてなあ、この頃は夜更かしばかりだ。

 ――そうだ。ギルドならクエストを配布しようかと思うが、どうだね」


「もう……

 バカを言ってないでセラフィ・カンパニー社との会議に遅れますよ。

 新任社長の保谷さんはすっごくきついんですから、今日は隊長に頑張ってもらいますよ」


「受付嬢をイジメるとはとんだ商人がいたものだな。

 このギルド長に任せろ。ギャフンって言わせてやる」


「はいはい。ちゃっちゃと行きますね」


 鎧を着用する長官を急かす熊谷も芦田に作ってもらった女性用のレザーアーマーを着ているため、受付嬢というよりは若手の冒険者に近いことに彼女自身は気付かなかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 和歌山市では生存圏として確保した保護地域へ、紀の川を越えた市の北部地区から侵入を試みるゾンビの襲撃が日に日に増えてきた。


「やつら、なにを考えとる?」


「さあ、どうですかね」


 新垣大隊長と前川中隊長は夕暮れ時、辺りが薄暗くなってから橋を渡ってくるゾンビの群れを訝しむように視線を向ける。



 先週の初めから始まったゾンビの定期便と呼ばれた一連の襲撃。


 それは農作業を終わらせた人々が満載されたバスの通過を待ち、ゾンビたちが乗用車から剥がしたドアや鉄板などを盾にして、検問所の観察塔へ投石や弓矢による攻撃がくり返されるというもの。


 自衛隊による放水が始まると、ゾンビたちは市内に放置されてるワゴン車などの車両へ乗り込んで、襲撃に加わらないゾンビたちがそれらの車を後ろから押すように防壁へ近付く。



 攻撃担当のゾンビたちは簡単に作られた金属製の鎧の上にレインコートまで着用し、盾の後ろに体を隠すなど、これまでにない動きをみせるようになった。


 前川中隊長たちがショックを受けたのは、ゾンビたちが石と矢に自分たちの体液を塗りつけてる行為をやってのけたということだ。


 すでに十数人の自衛官が感染して、ゾンビになる前に殉職することを選んだ。



()()()()後退していきます」


 攻撃はキッチリと1時間しか行わない。


 退却する時間になったら、水に濡れて不気味なダンスをくり返すゾンビたちは動けるゾンビがなげ縄で捕縛され、踊り狂ったまま引きずられ、近くにある車の中へ放り込まれる。


 橋で待機するゾンビは車両に括りつけた縄を引っ張り、車両に乗り込んだ攻撃隊のゾンビを退却させた。


 明らかに連携が取れてるゾンビたちが和歌山市へ襲撃を仕掛けているため、新垣大隊長は撮影した映像は司令部のほうへ転送した。



「橋を落としたほうがいいと思いますよ」


「ああ、私もそう考えるのだがな……

 感染症対策本部からもうしばらくの間、観測を続けるように総隊本部へ意見したみたい。

 なんでもゾンビの行動パターンを解析したいから研究員がこっちにくるとのことだ」


「行動パターンって……

 やつらが本格的に攻撃してきたらどうするつもりですか?」


「……」


 呆れたような表情をみせる前川は新垣に質問してみたが、新垣は沈黙したままゾンビが去っていく橋の上を見つめている。



「総隊本部から増援は来ますか」


「……再来週には連隊がここへ派遣される。

 それまで持ちこたえろとのお達しだ」


 紀の国大橋から北部地区のほうへ去っていくゾンビの群れに目をやり、新垣大隊長は前川中隊長の問いかけに眉をひそめたまま返事した。


 四国の都市部からゾンビが消えたため、各地からの要請で多くの自衛官が支援活動に派遣されている。そのためにすぐに動かせる部隊がないことに雑賀防衛大臣が頭を悩ませてると、相談した総隊司令官から打ち明けられた。



 ゾンビには知恵があり、ゾンビを指揮するドラウグルという恐ろしいゾンビがいるとことを前川は芦田青年から教えてもらってる。


 現場のほうでは危機感が高まっているものの、政府のほうからは武器弾薬の補充と感染症対策本部の人員が派遣されると通達された。



 新垣大隊に和歌山県警と自警団からゾンビの撃退についての協力が申し込まれた。しかし新垣大隊長と前川中隊長は協議を重ねた上、お断りの旨を小林知事と有川市長に伝えた。


 ボクシングで例えると今の定期便はジャブみたいなもの、それが本格的な攻勢にならないとはだれも保証できないことを二人の隊長は強い懸念を抱いている。





ゾンビの行動に異変が生じました。しかし同様の前例がないため、政府と自衛隊は対策に追われてるような状況にあります。


ご感想と誤字報告、ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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