43話 銃を撃つのは気を付けるべきだった
高松遷都。
巷で話題になっているのが臨時政府が高松市へ移るという噂だ。
「今日もいっぱい飛ばしてるな、航空自衛隊さん」
「本当ね」
川内町は製薬会社に造船所などの大きな工場といくつかの公共施設を残して、そのほかは農地に整地することが決定された。
会社が業務依頼を受けているため、沙希さんと一緒にゴーレム重機でコンクリート造の建物を解体している。
俺たちの上を徳島空港から飛び立った航空自衛隊の戦闘機が轟音を立てて、西のほうへ飛び去って行く。
「ちゃっちゃとやっちゃって、昼からツーリングへ行く?」
「いいですね。今日は山へ行きますか」
「うん? 今は自衛隊が山にいるゾンビを爆撃してるので山はダメじゃないの?」
「――え?」
「え? 知らないの?」
俺が驚く様子に驚いた沙希さんが質問してきた。
先の飛行機は山中にいるゾンビを爆撃するために出撃したということ。それでこの頃は燃料のことを気にせずに戦闘機が飛び回ってたと理解できた。
「会社の告示板に書いてたはずだけど……」
「ごめん、沙希さん。俺、会社へ行ってないんですよ」
とんでもない会長がいたものだ。
でもセラフィ・カンパニー社は会長と社長がいなくてもちゃんと運営されてる。
だれか会長職や社長職をやりたいというのなら、俺とセラフィは空席が当たり前になってきた椅子を喜んで譲ってあげよう。
「いっそうのこと、海を渡って本州でも行ってみるか」
「え? それって行けちゃうわけ?」
「え、えっとお……
行けちゃうんじゃないかな?」
冗談のつもりで言ったのに、沙希さんの喰いつきがすごかったので、その気迫に思わず頷いてしまった。
大毛島には自衛隊が駐屯している。一応は佐山さんあたりに声をかけたほうがいいかもしれないと、背中のほうで冷や汗を流す。
「うーむ……民間人が同行かあー」
「あのう、俺も民間人ですけど」
「芦田さんは規格外の民間人ですよ。
安全対策ならこちらの依頼を受けてもらいたいくらいです」
佐山さんと熊谷さんは失礼なやつらと俺は憤りを感じる。
これでもしっかりと提示された税金を納付し、政府や地方政府からの仕事を契約通りにこなしてきたのに、この扱いはひどいじゃないかなと俺は思う。
「なにしに行くつもりかは教えてくれるだろうな」
「ツーリ――」
「ああっ?」
「釣りじゃなくて、製鉄所から製品と材料を取って来ようかなと改心しました!」
「おーし。白川君に連絡するから依頼を受けに行ってこい」
「ありがとうございます!」
ものすごい睨みつきの佐山さんにビビってしまった。
魔道具を使用しての実力なら完全に俺が上だけど、威厳というのは長年で培ったもので、そればかりは佐山さんに勝てそうになかった。
「いらぬ心配かもしれんが、民間人を同行させるから安全には気を遣ってやれよ」
「もちろんであります、隊長!」
見よう見まねの敬礼が正しいかどうかはどうでもいい。この場合は沙希さんの心配をしてくれる佐山さんに最上の敬意を払うべきだ。
製鉄に必要な物を回収するということで、白川さんはすぐに大鳴門橋を渡れるように手配してくれた。
本州へ行く大鳴門橋と明石大橋の上には放置された車両とゾンビがいっぱいと言われた。
大毛島内までの範囲は自衛隊が車道から車両とゾンビを排除してるらしいが、それ以上はゾンビの多さで断念したと白川さんが説明しながら、ちらちらと視線を俺に向ける。
しまいにはお互いに睨み合いを始めてしまったが、白川さんの堂々とした威圧感に押されてしまい、本州までの間、車道から車両とゾンビを排除させることが契約に入れられた。
依頼のほうは中村さんが保谷さんと打合せすると言ってくれたから、俺の帰りを待つ沙希さんの所へ急いだ。
「――芦田ああ! てめえお嬢を危ない所を連れていくつもりかあ!」
「つよしくん、やめなさい! アタシが輝にお願いしたことなんだから」
元高校のグランドで十河さんに襟元を掴まれて、川瀬さんと良子さんたちが見守られてる中、なにやら青春の活劇を演じさせられてる。
――これ、なんの茶番?
「十河さん。俺だってちゃんと考えてるですって」
「アホかお前、本州はゾンビでいっぱいだろうがあ!」
「じゃあ、証明してみせますよ」
「ああ?」
十河さんの手を振りほどくと沙希さんの傍まで行ってから、収納から出したバリアの魔道具を彼女の腰に取りつけた。
彼女の安全がきちんと守られることを示すには、やってみせることが一番だ。
「な、なにかな?」
「お守りみたいなものですよ」
きょとんとする沙希さんが質問してきたので、できるだけ優しい笑顔をみせるように俺は笑って見せた。魔道具の起動ボタンを押すと、気にならない程度の回転音が聞こえてくる。
「なにしてんだ、お前」
不審そうな表情をみせる十河さんと状況を見ているだけの川瀬さんたちの前で、俺は沙希さんから距離を取るおもむろに収納からマガジンが装着された小銃を取り出した。
「え?」
「は?」
「「銃?」」
「いきますよ」
あっけを取られたみんなを前にして、銃口を沙希さんに向けたまま連射モードで引き金を絞った。
「きゃあああああ!」
「お嬢おおおおお!」
「「いやああああ!」」
けたたましい銃声とととに撃ち出された銃弾が確実に沙希さんの体へ着弾し、うっすらと光ってる光の膜は銃弾を防いでみせた。
――これでわかったもらえたかな? 物理攻撃では魔法防壁をぶち破れないんだよ。
「な? 大丈――ぶへらっ」
マガジン一本分の射撃を終えた俺は爽やかな笑顔を作り、この上ないサムズアップでしっかりと安全対策を施したことをアピールしてみせた。
その体勢で十河さんの全力右フックを微笑んだ表情のまま受け止めてしまった。
「なにしやがるんだてめええ、お嬢を殺しやがってえええ!」
「ぐへ! ゴホっ――」
倒れた俺の上に馬乗りになった十河さんが拳で連打してくる。いくら体が強くなったとはいえ、魔法防壁がないので痛いものは痛い。
「……」
「死にやがれええ! よくもお嬢をおおお」
「がはっ! ウゲエ」
――だれかタスケテ……
「……そ、十河くん、やめなさい。
沙希ちゃんはおもらししただけだわ!」
「ぐへっ」
「お嬢おおおお!
――良子さん! なんで止めるんですかあ!
こいつはあ、お嬢はこいつが好きって思ってんのに、そのお嬢を殺しやがってええ!
――って、おもらし?」
良子さんに後ろから抱えられてしまい、腕が振るえない十河さんは足で俺を蹴ってくる。
「いやあああ!」
微かに臭ってくるアンモニア臭は俺の物じゃない。俺が流しているのは鼻からドバドバと止まりそうにない鼻血だ。
――でもいいことを聞いちゃった。そっかあ、沙希さんは俺が好きかあ……
殴られ甲斐があったというもんだ。
銃は人に向けてはいけません。おっちょこちょいの主人公が全面的に悪いからきついお仕置きを受けました。
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