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40話 口を挟まないのができる男だ

『オーライオーライ!

 ――汝らに命ず。そのまま受け止めて』


 ゴーレムクレーンを巧みに操り、徳島城の本丸で鋼板塀を設置する沙希さんはアイアンゴーレムを使いこなす。


「あの子、すごいわね。ゴーレム使いと呼ばれたあなたでも上達するのに時間がかかったはずよ」


「うっせい、ほっとけ」


 グレースは感心するような口調で沙希さんのことを褒めている。



 お前にスキルはあるけど才能がないとヴェナ師匠から言われてたし、実際にゴーレムを自分が思うように操れるまで1年以上はかかった。それを沙希さんはわずか2週間でマスターしてしまった。


 でも俺はへこたれない。なにせ、セラフィは3日でゴーレムの使い方を覚えたから沙希さんが特別というわけじゃない。


 ――そもそも沙希さんはスキルがないのに、どうしてゴーレムが使えるのかが全然わからん。



「この子たちの声が聞こえるのよ。ほら、使って使ってってね」


 ゴーレムはホムンクルスと違って魂がないはずなのに、沙希さんのいうことが怖すぎる。



『最後の一枚は設置したよ。後は輝ね』


「了解ぃ」


 セラフィがヴェナ師匠の得意技である、魔道具を発動機にした試作ゴーレムを作り上げたのはこの前のことだった。


 打ちのめされた俺がめそめそと泣いてたのに、魔道具による音声操作だけで沙希さんまで簡単にゴーレムを手足のように操ってみせた。


 異世界の仲間たちからゴーレム使いとうたわれた俺は、二つ名を返上したほうがいいかもしれないと真剣に悩んだものだ。


「融合ぉ」


 もっとも、金属を接合させる技はヴェナ師匠でもできなかったから、天才錬金術師の二つ名は保持したままでもいいと、俺は独りよがりな解釈で自己満足に浸る。



「船を飛ばしてくるね」


「晩飯までには帰って来いよ」


 クルージングに夢中になってるグレースは俺にまとわりつかないので、港のほうへ走っていくグレースを喜んで見送ってあげた。



 セラフィが採炭へ出かける前に成し遂げた偉業がもう一つあった。


 それはゴーレム車の発動機で使われてる魔道具が、空中で漂う魔力を取り込めるように改造できたことだ。


 その斬新的な性能で、魔力の回復が必要とされた停車時間は不要となり、ある意味では目に見える資源を使わない、永久機関が出来上がったというわけ。



 ただし、そのことは秘匿するとセラフィに厳しく言い渡した。


 そのことが行政側に知られてしまうと、すべてのゴーレム車とゴーレム船に永久機関を取りつけろと、政府のほうから言われてしまうかもしれない。下手したら永久機関そのものを引き渡してほしいと要請される可能性がある。


 何度もくり返すが異世界の物は俺が保管するので、決められたルールの中での貸与はしても譲渡するつもりがない。



「ねえねえ、今日はどこへ行く?」


「あー、ごめん。今日は温子さんと約束してるんで、午後は空いてないんだ」


「そう……」


 すっごく残念そうな表情で沙希さんの声が小さくなった。



 温子さんにはいつもお世話になってるので、前からスナックの改装工事にお手伝いすると伝えてある。


 カウンターの後ろを裸体女性のレリーフで飾りたいのが温子さんの強い希望。スキルを持つ俺ならすぐにできる技だけど、茅野さんたちではとても時間がかかる。


 改装工事はほとんど終わってるので、今がレリーフを設置するタイミングだ。



「……仕事だからあまり構ってあげられないけど、一緒に行きます?」


「いいの? お邪魔じゃないの?」


 上目遣いで見てくる沙希さん、俺には抜群の破壊力なのでやめてほしい。


「昼からの作業は俺らだけでできるからさ。

 行って来いよ、お嬢」


「そ、そう……

 じゃあ、ちょっと行こうかな」


 ニヤニヤした顔で十河さんが近付いてくる。


 さすがにこれだけしつこく押されたら、十河さんの企みは俺にもわかってしまってる。彼は沙希さんと俺をくっつけようとして、今まで色々と手を焼いてくれてた。


 ――ナイスアシストだぞ、つよしさん!




「――そこは諦めるしかないのよ。

 あの子はね、魔法は使えるけど考えがまだまだ子供のままなの。

 大人のあなたがイニシアチブを取らないとどうするのよ」


「温子さん。アタシはそういうことを聞きたいのじゃなくて――」

「いいこと、沙希ちゃん。ひかるはいい子なの。

 でもね、臆病で優柔不断なんだから、物事と人のことで()()()場合が多いの」


 ——温子姉さん、聞こえてるんですけど。


「勘違いされてるけど、あの子は魔法とグレースちゃんたちがいなければただのダメ男ね」


「輝はダメ男かあ……」


 今はレリーフを作ってる場合じゃなくて、すぐに泣いてもいいじゃないかなと思えてきた。



 人が頑張ってる後ろで、温子さんと沙希さんが俺の話題で盛り上がってる。


 それは全然かまわないし、女のトークを邪魔するほど俺もヤボじゃない。ただ本人がいる場所で、そこまで言うことはないと俺は断定したい。



 ――いい子以外にいい所がまるでないじゃないか、温子姉さん。グレースとセラフィがいなければダメ男というのは否定しないけどよ……

 それはそうと沙希さんもダメ男の言葉にうっとりしない!



「あはははは、形無しだね、ひーくーん」


「うるさいわ、サトミさん」


 昼間からお酒を飲んでいるサトミさんはダメ女のお手本だ。


「ねえ、()()()()()? サトミおねえちゃんが気持ちよく抜いてあげるわよ、うりうり」

「ブラジャーが見えてるからやめろよ」


「見えてるじゃなくて、ひーくんにぃ、み・せ・て・る・の。うふふ」


 可愛らしい顔と気さくな性格でだれとでも仲良く話せるサトミさんは、拠点に住んでた野郎どもの女神(アイドル)だ。



「あのね、沙希ちゃん。こういうご時世だから迷わないほうがいいわよ。

 おねえさんの良い人なんて、みーんなゾンビになったと思うの」


「良い人がみんな?」


「そう。お店に来てくれて、いーっぱいのお金を落としてくれた良い人ばかりだったわ」


 しみじみと温子さんがなにか言ってるが、きっとそれはお客さん(いいひと)だと思うから、沙希さんも一々困惑しないことだ。



「とにかく、迷うなら()()()()()って、おねえさんは言いたいの。

 男は度胸、女は愛嬌っていうけれど、こんな時代だからこそ女も度胸よ」


「あ、うん……」


「そうそう。男は読経、女も度胸ね!」


 意味ありげに温子さんが俺へ視線を向ける隣で、沙希さんが赤ら顔で俯いてしまってる。酔っ払いのサトミさんがなにかほざいてるがそこは無視するのみだ。



 ――沙希さんの反応をみると、ひょっとして、俺にチャンスがある? ドキドキしてきた。


 それはそうとサトミさん。あなたのそれはたぶん字が違う。





ご感想と誤字報告、ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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