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挿話7 光り物が好きなドラウグルは気ままに動いた

「あーあ、退屈ね」


「たいくつってなに……」


「なんでもないわ。

 それより後で()()する時間よ」


「「はい」」


 アリシアは後ろに数十体の同類(ゾンビ)を連れている。


 そのほとんどはアジルの横にいるような容姿のいい女性ではなく、彼女たちはアリシアがこれまで人間の住処から()()()()()同類ばかりだった。



「アジルもなにを考えてるかしら。

 楽しいことがしたいならワタシを連れて行けばいいのに」


 街の中にある貴金属店に入ったアリシアは、店内にあるありったけの指輪やネックレスなどをリュックの中に入れていく。


 後ろで控えている同類の大多数は、アリシアの戦利品が入ってるリュックを背負ってる。



「……あら、いっぱいになってきたわね。一度置きに帰ってもらおうかしら」


 アリシアはこれまで集めてきたコレクションを人間に捨て置かれた篠山城の中で保管する。


 篠山城には前にメリッサが鍛えて、武装した数千体の同類が守備についてるので、大事な貴金属類が人間に奪われることがないだろうとアリシアは安心していた。



「エメラルド。後で適当にここら辺にいる同類を連れて、お宝を持って帰ってちょうだい」


「わかった、ありしあ」


「時間になったら呼吸することを忘れちゃ駄目よ」


「はい、ありしあ」


 宝石や貴金属から命名した部下に、外でうろつく同類を荷物持ちで使うことを命じた。


 鼻から()()()を吸うことで、同類が活性化することをアリシアはアジルから聞いていたし、ほかの同類を食べることで、同類が自分のように強くなることはアリシア自身が熟知してる。


 ただアリシアはなぜか同類を食べることに抵抗を感じるので、そういう行為を必要性がある場合以外は、部下に極力やらせようとしない。



「ワタシは街を回ってくるので、あなたたちはここで待っていなさい」


「「はい」」


 貴金属店に部下たちを留まらせてから、アリシアは街へ出かけた。



 人間と同じ外見しているので、自分が元は人間であることをアジルから教えてもらった。


 キラキラと光る貴金属というものが、なぜ好きなのはアリシア自身もわかっていない。たぶん人間であったとき、それが好きだったのだろうとアジルは分析してくれたが、アリシアにはどうでもいいことだった。



 なにかに執着心がある同類は、自分で物事を判断できるとアジルが言ってた。


 競争が好きなライオットという同類は大阪を任されたように、アジルは大阪より西をアリシアに任せると命令した。


 人間を同類にしてもいいし、殺してもいい。


 多くの強い同類を作ったのなら、アジルに戦いを挑んでも構わないと言われた。でもそれはアリシアには興味のないことだった。



 適当に各地を回りながら強い同類を作り、貴金属店からほしいものをかき集めて、篠山城に帰ったときにコレクションを眺めることがアリシアのしたいこと。


 そして()()()()()()()()()人間を同類にすることに、アリシアは面白さを感じていた。




「――動くな!」


 同類が()()()()()を歩いてたアリシアの周りに、散弾銃というものを持った人間の男性が取り囲んでる。


「いい体した女じゃねえか」

「おいおい。ビビッてなにも言えないぜこいつ」

「こんなやつが生き残ってたなんて、おれたちはついてるな」


「ひひひ。飯を食わせてやっからよ、俺らについて来いって」


 横に立った男が無遠慮な手付きで勝手にアリシアの体をまさぐってる。



 人間はセックスという行為で赤ちゃんというものを作ると、アジルから聞いたことがある。そして子孫を残す目的でない行為を好む連中がいることも、アジルが話してくれたことだ。


 実際、ハーレムメンバーの何人かは仲間であるはずの人間に捕まって、長い間に行為を強要されてたとアジルが教えてくれてた。



「こっちにこい!」


「新しい女だ!」

「あいつらはもう人形みたいに足しか開かねえからな」

「でもこいつは抵抗しねえぞ」

「それはそれで面白いじゃないか」

「そうそう。檻に閉じ込められてるあいつらを見たらこいつもビビるって」


 手押し車に乗せられたアリシアを、男たちは乱暴に来ている服を破り捨てていく。


 いくら触られても、なにも感じないアリシアは男たちが集まっている場所にたどり着くまで、抵抗するつもりがなかった。




「今日は大漁だな、ご苦労さん」


 周りにバリケードが築かれた銀行という場所へ連れてこられたアリシアの前に、ガッチリした体格の男が彼女の体をさわりながら卑しい顔でにやけている。


「ふん。大人しくしていれば乱暴はしねえからよ、あいつらのようになりたくなかったら俺らにご奉仕しろ」


 男が指す方向に、ブツブツとなにかを呟く裸体の女たちが檻の中に閉じ込められてる。


「ひゃははは。そうそう、ちゃんとご飯を食べたかったら、こいつらみたいにおれらを愉しませろよ」


 男の後ろにいる別の男が薄い寝間着を着る女性を抱きかかえて、ニタニタと笑みを浮かばせている。



 散弾銃などの武器は扉の近くに置いてることを、アリシアはすでに確認したし、建物にいる男がほとんどここに集まっている。


()りましょうか?」


「んあ? ヤるだあ?

 お前は好きもんか――ぐっふっ」


 初めて口を開いたアリシアに、欲望で濁った眼で笑ってた男の顔は、アリシアの右手が自分の胸板を貫いたことに信じられないような表情へ急変した。


 だがそれもわずかな間だけ。胸に突き刺した腕が抜け、力を失った男は床に倒れた。



「は? どうしたんだ」

「な、な――ゲフっ」


「おい、こいつ――ガッハ」


 ほとんどの男が目の前に起こった光景を理解できないまま、立ち尽くしている。アリシアは魔法で強化した両手を武器にして、男たちの命を雑草のように刈り取っていく。



「じ、銃だ――」

「アイスアロー」

「――うぐっ」


 玄関のほうへ行こうとした男へ、アリシアは魔法で作った氷の矢を飛ばした。


「ちょ、ちょっと――」

「きゃああああ」


 床に座り込んだ男はなにか言う前に、振り払われたアリシアの拳で頭部そのものが爆ぜてしまい、脳漿や血を浴びた隣にいる女性が叫び声をあげた。



「ば、化け物だああ」

「うわああ」

「逃げろおお」


 あっけを取られた男たちが玄関扉へ向かって、一斉に走り出した。



「いやあああ、来ないでええ」

「やめ――えぐっ」

「くるなくる――グっ」


 放り出された女性たちが悲鳴をあげる中、アリシアは逃げ遅れている男たちへ襲いかかり、容赦のない手刀が命を断ち切っていく。




「うぐ……たすけて……たすけ……」


 腰を抜かして号泣しながら、しゃがんでる女性たちの横を通り、アリシアは檻の前に立った。


「ねえ、あなたたちはまだ人間でいたい?」


「やめてやめてやめて――」

「いやいやもういや――」


 檻の中にいる女性たちはだれ一人として、アリシアに返事するものはいない。


 彼女たちは膝か自分の体を抱える形で縮こまっているだけ。



「そう。じゃあ、あなたたちはワタシが同類にしてあげる」


 掛けられた頑丈な鍵を、魔法がかかった右手で握りつぶしたアリシアは檻に入り、動こうとしない女性を一人ずつ噛みついていく。


「――え? ぞ、ゾンビ?」

「うそ……」

「いやあああ、たすけてええ」


 座り込んだまま泣いていた女性たちが、檻の中で苦しみ出した女性を見て、アリシアの異様さに気が付いた。



 そのうちの一人が外へ逃げ出すと、檻の外にいた女性たちは誘発されたように次々と扉の向こうへ消えた。


 女性の動きにまるで興味のないアリシアは、檻の中でもがく人間だったものが、同類になるときを待つように佇んでいる。


 どのみち、外へ逃げたところで同類たちしかいない。


 逃げた人間たちは同類になるか、どこかで野垂れ死にするだろうとアリシアは思ってる。



「……ヴア゛ーア゛ー」

「ア゛ヴーア゛ー」


 しばらくしてから、立ち上がってくる人間だった同類たちへ、アリシアは満足そうにうなずいた。


「ワタシについてきなさい」


「「ヴーア゛ー」」


 檻の外へ出るアリシアの後ろを、囚われていた女性だったゾンビが不安定な足取りでついて行こうとする。



「成りたてなんてそんなものよ。

 慌てなくていいわ、ゆっくり歩きなさい

 服を着る必要性はないんだけど、見た目が裸体じゃしまらないわね」


「「ヴーア゛ー」」


「いいわ、どこかで人間の服を見つけてあげる」


 今日は退屈しのぎができたとアリシアは満足してる。


 彼女の表情を理解できる人間(もの)がここにいないため、アリシア自分自身ですら知らないことが起きている。


 美しい彼女は妖艶そうな微笑みをたたえていた。





変異種ドラウグルに近いアリシアが街を行く挿話です。ヒャッハーさんを潰すのはなにも主人公だけとは限りません。


ご感想と誤字報告、ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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