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12話 農業倉庫は村の墓場だった

ジャンル別の月間1位になれました。

お読みになって頂き、誠にありがとうございます。




 村にある家々の厨房を中心に回ってみたものの、食べ物はほとんど残されていない。それに家の中はゾンビの姿がすくなく、たまにおじいさんやおばあさんが潜んでいたくらいだ。


 その理由は村の外れにある農業倉庫にあった。



 倉庫の前に築かれた簡単なバリケードが崩されてしまい、開けられたシャッターに入ると床には腐乱死体がいくつも横たわっている。村がゾンビに襲われてからしばらくの間、生き残った村人がここへ避難したと思われた。



 精米前の米が袋ごと積まれていて、村人たちは精米機を使って食い繋いできた痕跡が残されている。


 倉庫の隅にゴミ置き場を発見し、その中にはレトルト食品やお菓子の袋が大量に捨てられていた。どのくらいの人がここにいたかは知らないけど、少なくてもゾンビの襲撃を凌いできたはずだ。


 なぜ全滅してしまったのだろうか。



「ねえねえ、ここに()()()()()が死んでるよ」


 奥にある部屋を覗いたグレースに誘われて、その部屋へいくと室内の現状でなんとなく最後の光景が目に浮かんだ。


 ちなみにグレースのいうゾンビっ子は、ゾンビになった動物の総称らしい。



 窓の外にあったアルミ格子が外されていた。


 床に補強しようとした木の板や工具が散らかっていて、何体かの頭が砕けたゾンビとゾンビ犬にゾンビタヌキの死体が腐乱している。ペットボトルやレトルト食品の箱、粉ミルクや各種の菓子が置かれているこの部屋へ窓からゾンビが侵入してしまったのだろう。


 ここに立て籠もる村人たちは慌てて窓を塞ごうとしたが間に合わなかった。それで倉庫のシャッターを開けて逃亡を図ったものの、外で待ち構えていたゾンビによって生き残った村人が全滅した。そういう風に頭の中で想像してみた。



 部屋にある食料品に撒き散らされたゾンビの体液らしきものがあったため、これは衛生面と精神面を考えて、放置することにした。たぶんだけど、村人がゾンビを殲滅しようとしてその体を叩いたために飛び散ったのだろう。


 幸いというべきか、積まれていた上部の米が入った袋は汚染していなかったので、精米機や使えそうな農耕具を収納して、アイアンゴーレムに倉庫にあった一輪運搬車を使わせて死体を焼却中の仮設火葬場へ運ばせた。



 倉庫の外に放置されているフォークリフトや軽トラはなにかに使えるかもしれないので、中で備蓄されてるガソリンタンクと一緒に空間魔法で収納した。




 村の家を回り、使えそうな道具や食品は確保する。たまに家の中で現れた爺さん婆さんゾンビはアイアンゴーレムが潰した。


 回収した物でとくに調味料のさしすせそは助かるし、大きな農家の裏庭に今時ながらの薪が置かれていたので、横にあった大きい五右衛門風呂とともに後でありがたく頂戴するつもりだ。



 グレースと言えば、本を中心に将棋やゲーム機などのがん具や娯楽用品ばかりを集めてた。それは構わないけどゴルフバッグを抱えてどうする? お前、ゴルフなんてしたことないでしょうに。



「だってえ、暇ですることがないんだもん。あなた、夜のお勤めは()()()し」


「お好きなだけジャンジャン持っていってください!」


 エッチするのは嫌いなわけがない、それでも()()というものがある。一人で遊んでくださるのなら囲碁でもサッカーボールでもなんでも、俺が許すからどんどん持っていくがよい。



 村の畑に野菜や果物が自生している。


 生鮮食品はいくらあっても困ることがないので、もったいないからあるだけ収穫していく。より多くの食べ物を確保するために山間部の村や街を回って、ひとまずは地方の都市へ目指す方針を立てた。



「養鶏場や養豚場へ行ってみたい。ただね、放し飼いならともかく、餌をやってないからもう餓死したんじゃないかな」


「牛はあ?」


「そだね、行ってみないとわからないけど。とりあえず回ってみようか」


「うん……」


 ポータブルゲーム機でなにやらカチャカチャと遊んでるグレースは、ゲームに夢中になっているために無気力な返事しかしない。


 インターネットがまだ生きてたとき、色んな情報を収集したこいつは俺以上に世の中に詳しいので、今に必要な情報はこいつが握っている。


 なんだか負けた気分になった俺、空に流れる雲を見たら気がまぎれるのかな。




 村での用事は済ませたので、アイアンゴーレムはインゴットに戻した。


 ゾンビとゾンビ犬は掴んでからの噛みつきという物理的な攻撃しかしてこない。それを完璧に阻止するには異世界で使っていた物理バリアの魔道具を起動させる。


 バリアは体や馬車の外側に薄い膜を張るもので 155mmりゅう弾砲程度なら軽く防げるはずだ。



 敵となるのはなにもゾンビ()()じゃない。


 こんな世の中は間違いなく自己中で暴力上等世紀末ヒャッハーさんがたくさん発生している。法で縛られない世界は()()()()()()()


 テンプレで考えるのなら、銃器の管理ができてない今、犬も歩けば銃弾に当たるというわけだ。


 まあ、確かにゾンビ犬は射殺の対象として考慮しなければならないだろう。



 今夜はバリア付きのコテージで一泊してから明日の出発だ。


 インプレッサには物理バリアの魔道具を装着させて、異世界で使っていた大型ゴーレム車を点検する。



 前に見ていたゾンビのネット小説によると、道路に放置された車で道が塞がれてると考えたほうがいいかも。ゴーレムに邪魔な車を排除してもらう。


 荷物は魔法で収納するが、家畜と家禽は異世界で愛用してた屋根付き大型ゴーレム車に積ませる。


 大型ゴーレム車は元々は異世界にいるとき、討伐部隊が移動するために作ったもの。百台以上は収納してあるので、今後は生き物を運ぶのに便利なはずだ。牛とか豚とか鶏とか人間とかね。


 人間は家畜枠に入らないけどね。



 断言できるのは、大型ゴーレム車ははっきり言って異常だ。あれは特殊車両にすら見えない。それでも必要があったら使用することをためらわない。


 自重するだあ? なにそれ美味しいわけ? 生き長らえることが最重要の目的、魔法を見られたからってなんなのさ。世紀末は無視と返り討ち上等がデフォだよな。




 夜空を眺める五右衛門風呂は初めての体験、グレースを先に入れてやったのはゆっくりしたかったためだ。


 月明りの下でこれからのことを考える。


 絶対健康というユニークスキルをもらってる俺は病気にかからないし、多少の傷ならすぐに自己修復する。ゾンビによる伝染が病原体ならスキルで防げるだろうと予想してる。


 ただ、とてもじゃないが自分の体で試す気にはなれないから、ゾンビに噛まれないことが一番だ。



「いずれはどこかで落ち着かないとな」


 このまま列島をさまようというのはアリかもしれないが、ただそれをする意味が見つからない。スローライフしたかったのは荒んだ異世界の生活に対するリハビリみたいなもの、心が癒せばいつかは社会の中で人並みの生活に戻ろうと決めてた。



「物を集めて拠点作り……それがいいかもな」


 ゾンビがはびこる世界で今後の食糧事情については熟考しなければならない。


 グレースにとって食事は嗜好品みたいなもので、豊かな魔力があるこの世界で餓死することなんてありえない。でも俺はグレースと違って飯を食っていかないと死んでしまう。


 ゾンビの世界で餓死するなんて嫌だな。



「これ、気持ちいいねっ」

「……」


 先に入れてやったのにまた五右衛門風呂に入ってくるグレース。大きめとはいえ、大人が二人入れば狭いんだよ。


 注意するのも面倒だから好きにさせるけど。



 ——米は農業倉庫を回れば、たぶん俺とグレースが食べる分だけなら一生分は確保することができるだろう。


 ただ現代の食生活に慣れてる俺はやっぱり野菜や肉類とかは食べたいから、それを視野に入れた拠点作りを考えなければならない。


 それに食糧は交渉において、有利な武器となれる。札束だあ? テンプレでいうならトイレットペーパーにも使えない紙だな。



「ショッピングセンターや学校はテンプレすぎ。しかも食いつぶしたらその後にまたどこかを探さないといけないし、食べ物って、賞味期限があるのよな……」


「え? なになに」


「うん、ちょっと待て。今後のことを考え中……

 そうなると農地とかの土づくりを視野に入れる必要があるわけだし、お魚なら漁に出ることも考慮しないといけないし……

 うん! ここはあえて自分の力を活かせる場所がいい」


 適切な空き地があって、ゾンビや世紀末ヒャッハーさんを防ぐことができ、なおかつ設営に手がかからない。そんな場所なんてあるのかな……



「――()()だ! それならやっていけそう」


 お城なら防御施設となる城門や塀の設置にウッドゴーレムを使えばいいし、俺に木工と建築のスキルがあるので一から作らない限り、改築にそんなに時間はかからないだろう。


 大事なのは拠点にしようとする城跡に農業ができるだけの土地が備わっていること、あとは水堀があることだ。


 ゾンビはもちろんのこと、人間も仮想敵となるから簡単に侵入を許しては困る。



 そうと決まれば計画と準備が大事だ。


 工場やホームセンターで使えそうな機械や太陽光発電などの設備を調達して、各種の工具を取っておくのも後々で役に立つはず。鋼板とセメントといった建築用建材も確保したほうがいい。


 山でウッドゴーレム用に適当に木を切って、倒れてる木を拾うというのもありだ。木材加工場をマップで検索して、木材はもちろんのこと、加工用の設備も手に入れたい。


 それにガソリンは劣化するので、今のうちに貯め込めるだけ収納しなければならない。空間魔法の収納空間なら入れた時点の品質が保たれるから助かる。



 要するにあれだな、必要と思った物は全部頂けってことだ。金属類はゴーレムにも使えるので、回収すべき重要な資源だ。


 俄然とやる気が出たぞ!



「うしっ! 頑張るぞぉ」


「まあ、嬉しい。ポッ」


 これこれ、頬を染めて太ももをつねってくるんじゃない。やる気といっても()()()()()()ではありませんよ、グレースさん。



 お湯が冷めてきたのでそろそろ風呂からあがろう。


 これから忙しくなりそうだから、今のうちにグレースを()()()()おいたほうがいいよな。





ご感想、ブクマとご評価、誤字報告して頂き、誠にありがとうございます。とても励みになります。

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