表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/174

01話 異世界から来たのはゾンビだった

年明けの新連載です。良ければ一読くださいませ。




 とある星でアンデッドに滅ぼされた世界があった。


 寂れてしまった王宮の最奥にある転移陣の上でアンデッドはただ徘徊していた。アンデッドは滅びないし、アンデッドは死ねない。アンデッドに生前の記憶はなく、意識していることは持っていた知識と技能を駆使して、同種のすべてを不死者にするという本能だった。



 地脈からもう使われることのない魔力が転移陣に貯まっていき、膨大な魔力に耐えられなくなった転移陣が誤作動して崩壊してしまった。転移陣の上にいた女官だったアンデッドたちと王女が生前に大切にしていた愛らしいアンデッド犬がどこかへ転移させられた。


 崩れ去った転移陣はその世界が最後に叫んだ悲鳴かもしれない。生き物がいないその世界はかつての繁栄を失い、築かれた文明はだれにも知られることがなく、ただ静寂な世界がそこに残されただけ。



 シベリアに転移してきたそれら(アンデッド)は洞窟の中にいた。


 人里からはるか遠くにある洞窟はそれらが棲む領域となり、だれもここへ訪れることがなく、洞窟の奥底でそれらは転移される前と同じのように、ただただそこで徘徊し続けていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ある時代に偶然にも洞窟へ迷い込んだ人が洞窟の浅い場所で貴金属の鉱石を発見した。運が悪いというべきか、迷い込んだ人は仲間を集めるために奥へ入ることなく洞窟から立ち去った。


 欲望に満ち、鉱脈の独占を目論んだ数十人が試掘するためにそれらの領域に入り込んでしまった。洞窟の奥を灯りで照らした彼らは洞窟の壁にお目当ての鉱石とともに妙齢の女性たちを発見した。



 鉱脈の存在で血気に逸った男たちが歓声をあげて、近寄ってくる裸の女へ群がり、反抗しない女性に男たちはさらに興奮した。


 薄暗い洞窟の中で血走った男たちはなぜここに女性がいるということを気にしようとしなかった。荒々しく唇を求める男に裸体の女性たちは熱い抱擁で応じるようにみえ、女体を遠慮のない手でまさぐる男の舌が女の歯で噛みつかれた。


 横で順番を待つ男の仲間が情けない絶叫を嘲笑い、口元を両手で覆う男を押し退けてすぐさま女を押し倒した。大声で囃し立てる男たちから少し離れた場所で、卑猥さに満ちる宴を冷静に見つめる男たちがいた。


 彼らは貴金属の鉱脈に喜んだが、洞窟の奥底に()()()()()()()()()自体を怪しんだ。



 ――こんな人里のない場所でなぜ若い女性が裸のままでいるんだ? ――



 そう思っている彼らに連れてきた犬の悲鳴が耳に飛び込んできた。


 体格のいい愛犬が見たことのない小型犬に喉を噛みつかれて、振りほどこうと暴れていた。あり得ない事態に犬の飼い主が目を見張った。自慢の犬が小型犬にやられてただ逃げようとしているだけ。


 しばらくしてから力を失ったかのように大型犬が地面に倒れてしまった。



 冷静な男たちは仲間たちが次々と悲鳴をあげる状況に異様さを感じ取った。


 喉を食い破られた仲間が倒れ、後ずさる仲間へ裸体の女性が覆いかぶさる。襲撃されてる男たちはまともなやつじゃないが、だれもが力自慢の悪党ばかりだ。か細い女を嬲ることがあっても、今のように一方的にやられることなんてなかったはずだ。



 助けを求める仲間の声に冷静な男たちは自分たちが襲われている事実をハッキリと自覚し、彼らは岩の陰に隠れて事の成り行きを見守った。次第に静まる救助を求める声に彼らが静かに逃げ去ろうとしたときに、喉を食い破られたはずの仲間と横たわっている愛犬が立ち上がった。


 血の気が引いた彼らは洞窟の入口へ向かって全力で逃げ出した。




 乗ってきた馬車へ乗り込んだ彼らは犬の咆え声に気付き、目を向けると洞窟から愛犬が彼らに付いてきた。恐怖にかられた彼らは大急ぎで馬車を走らせたが、可愛かったはずの愛犬がよだれを垂らしながら走行する馬車の横に同行してくる。


 信じていなかった神へ祈りを捧げながら彼らは来た道の途中にあった森へ突入した。帰り道は狼の群れがいるこの森を避ける予定は脳内から追い払われている。彼らはとにかく逃げることしか考えていなかった。



 忍び寄る狼の群れに気付いたのは彼らではなく、なにかに変わった犬のほうだった。


 大型犬は主人だった人を追わないで目標を狼の群れに変え、アンデッドに変化した犬は狂犬病にかかっている狼の群れへ飛び込んだ。激闘の末に大型犬は立てられないほど体がボロボロになり、代わりに、この森にゾンビとなった狼の群れが出現した。


 狼の群れに助けられた形となった彼らはひたすらこの忌まわしい場所から遠ざかっていった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 洞窟の奥底で徘徊するアンデッドが増え、食いちぎられた体の欠損はいつの間にか回復していた。()()()()たちは暗闇の中で死ぬことも叶わず、時の流れに流されたまま、この暗い場所に居続けるだけだった。





ゾンビものを読んでいたら書いてみたくなってしまいまいた。よろしくお願いします。今日はあと2話を投稿します。

アンデッド女官たちが身に着けた衣類は経年劣化で失われたので裸体です。彼女たちとアンデッド男、それに異世界アンデッド犬は役割が終わったのでここで退場します。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ