おわりの前話
何故、人は永遠の命を求めると同時に、自殺という名の死を求めるのだろう?
一時期、若者の間で「シネ」「殺す」という言葉が軽々しく使用された。
「一時期」という言葉に疑問を持たれた方もいらっしゃるのではないだろうか。失礼、ただいま未来からお話しさせていただいてます。
申し遅れました。私、タイムトラベルマシーン開発研究者の『佐藤 ジャン』と申します。名前の通りハーフです。ただ、私の時代でハーフは差別用語に当たります。全く意味のわからない決まりができたものです。
さて、先程申し上げた通り、私はタイムトラベルマシーン開発研究者。ここで、タイムトラベルマシーンについて説明を致します。
何故、このような長い名であるのかと申しますと、タイムマシーンとトラベルマシーンは全くの別物であるからです。解りやすく表現すると、タイムマシーンは縦移動、トラベルマシーンは横移動、縦と横が交わる点が今現在の自分の立ち位置という感じです。
このふたつを組み合わせたものであるため、タイムトラベルマシーンという名前なのです。
時を研究する私にとって、一つの命の重複は大きな課題のひとつです。かつて、重複の実験データを採取できた者は一人もおらず、ただでさえ命の保障がない実験の協力者は減る一方です。
百人実験し、帰ってきた者は三人。行き先も年代も季節も統一したハズの実験だったが、結果は全てバラバラ。帰ってきた日まで全て異なっていました。
この試作品はまだ、完全からは程遠い物です。
「お昼のニュースをお伝えします。本日の午後三時、〇〇会社の人工知能による人間絶滅宣言と同時に、〇〇地区での小規模な爆破が何件も相次ぎました…」
最近は人工知能による人間絶滅宣言が増加してきています。始まりは、人工知能同士の人類には理解できない高度なネットワークによりひとつの結論が導き出された事。その結論が、『人類を絶滅させなければ、地球は存続不可能である』というものです。
「人工知能をもっと馬鹿に造れば良いのに…」
私はそう思っておりますが、人の思考は千差万別である上に、いつの時代も大勢の意見が勝つのです。結局、考える事すら機械に委ねた人類は、更なる便利を求める。そこにアップデートはあっても進化はないというのに…。
そんな時代でこのような研究を行っている私が何故、いきなり人間の命へ対する矛盾を語ったのか。いや、研究を行っているからこその語りかもしれません。
現在の医療技術で不老不死は可能となりました。しかし、保険が使えず高額な費用が掛かるとはいえ、治療を受けた者は十人に満たない。多くの者は『永遠』という恐怖を目の前に立ちすくみ、身動きがとれなくなったようです。
何より、治療を受けた者は一人残らず二百歳未満で自殺をしたという結果がでています。
自ら永遠の生を求め、高額を支払ったにも関わらず。
永遠に生きる方法が見つからなかったのではない。永遠に生きる理由が見つからなかったのです。
私は、
「この先の未来を知りたい。人類は相続するのか、それとも人工知能により絶滅させられるのか」
はたまた、別の未来が待っているのか…。
「遠藤さん…、貴方は、何故、タイムトラベルマシーンの研究を法を犯してまで行ったのですか?」
『遠藤 夏音』旧名は『坂之上』といったか。タイムトラベルマシーンの研究を大きく進展させ、同時に大量の麻薬の調合を行った人。彼女は何に執着していたのだろうか……。
「…結局、僕に出来ることは、研究か」
僕は独り言ちて散らかった机上へ向かう。
_何年経過しただろう?
最近は体が言うことを聞かなくなってきました。まだ、タイムトラベルマシーンは完成していないというのに。
「先生、被験者がいません…。どうしましょう?」
「…最後の実験の被験者ですね」
「『最後』?」
研究員であり、私の愛弟子である彼は困惑顔だ。
「私にとっての、最後ですよ」
「えっ、御退職されるのですか?」
「えぇ。もう、歳ですからねぇ」
「そう、ですか…。寂しくなりますね」
彼は片付いた研究室を見渡した。片付けが苦手な私は、彼によく叱られたものです。
「私が何故、タイムトラベルマシーンの研究を行っているかお教えしたことありましたか?」
「いえ。長い付き合いですが、それだけが謎です」
「フフッ、そうか。私は、未来を知りたいのですよ」
「何故、ですか?」
「私は今、人類に絶望しています。思考すら人工知能に丸投げした人間にね」
「……」
「このままでは、人類は人工知能により絶滅させられるでしょう。だがしかし、様々な問題をあの手この手で解決したのも人類です」
「そうですね」
「果たして、終末は私を絶望から救い上げるほど美しいのか…。はたまた、絶望のままなのか。私はそれを知りに行こうと思っているのです」
「…それって、つまり」
彼は大きく目を見開いた。
「私が仕切る最後の実験の被験者は、私です」
_私は、白い世界をただひたすら漂いました。
やがて、目が覚めると_
「…なんだ、この世界は…」
抱き合って、てを繋ぎ、祈り、笑い、踊り……
そして、死んで逝く_
「まるで、心中じゃないか」
淡々と機械が屍体を運ぶ。
「そうですか。終末は、絶望でおわるのですね」
「誰か、ねえ、そこのおじいさん、この世界はおかしいよね? ぼく、死にたくないよぉ。みんなと一緒に生きてくには、どうしたらいいの?」
どうやら、絶望と言い切るにはまだ早かったようです。
_後に『世界心中』と歴史の一画面に記されたこの事件は、終末よりも前の事である。というのは、まだ誰も知らない未来の話。
先生の愛弟子である僕は、先生が未来へ行ってしまわれた日からこの研究を継いでいる。
「…出来た」
まだ、制限や課題がいろいろあるが遂に完成した。
先生が好んでいた本の形状をしたタイムトラベルマシーン。先生は、画面よりも紙を使用した本がお好きだった。
遠藤さんは犯罪を犯してまで研究した。先生は未来を知りたいとおっしゃっていた。僕は亡き妻に会いたいがために、この研究に携わった。様々な思いが詰まった、タイムトラベルマシーン。
「起承転結を記録する。お前は、記」
_終末と、歴史を最も知る機械であることは誰にも思われず、誕生したのだった。そして、それは誰にも知られる事はない。
まだ、誰も知らない未来の話_。
まだ、終末からは程遠い未来の話_。
今日の空です。
お付き合いして下さり、ありがとうございます!
最近、暑いですね。不審者の季節ですね。
熱唱尚且つダンスしながら帰宅する女子生徒に
声をかけるオッサンがいたそうです。
猛者ですね。皆さま、お気をつけ下さい。
精進します。