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21.帰り道

 帰り道。

 まだ夏なら夕焼け空だというのに、もう真っ暗か。

 月や星が雲に隠れているのもあってか、余計に視界が暗く感じる。道に何かが落ちていたら、多分躓いてしまうだろう。

 僕は二人の男の後ろを接着剤でしっかり固定されてしまったかのように歩く。動きがかたく感じるのは、おそらく寒さとかそういうもののせいだろう。

 僕は肌寒い風を全身に浴び、足や手の先といった箇所が凍傷してしまうのではないかというくらいの気候に、思わず激しく身震いをする。指先がとても冷たくて、感覚がないように思われる。多分、今は指先を服でゴシゴシ擦ったとしても何も感じないだろう。

 ここはこんなにも寒いのに、同じ地球でも他の地域は年中暖かいところとかもあったりするんだよなぁ。羨ましいなぁ。

 と、少し妬ましげに思うと、凍えてしまった指をせめて動かせるくらいには戻さなきゃと、制服のポケットに手を突っ込む。しかし、これはあくまで気休め程度の誤差であったため、指の状態はあまり変化がない。

 くそぅ、指を早く湯にでも浸からせて温めなければ。

 そう思う気持ちが心により焦りを生ませて、余計に寒いということを実感させてしまう。

 はあ、カイロが指先にも貼れたらなぁ。

 そんなことを考えるが、肌に対して直に貼ってしまえば、お外は寒いというのに低温火傷を起こしてしまうし、それにカイロが大きいために貼るのは困難であろう。だから、それはほぼ不可能に近い行為だろうと思う。

 冬って憂鬱だな。

 あっ、僕は年中憂鬱そうにしているからそこまで変わりはしないか。

 と、ついには、そんな風に自嘲気味の一人問答をして、僕は寒いという意識を消失しようとする。よっぽど、僕は寒がっているらしい。


「なあ、ところで善。あのお姉さんは誰だったんだ? 話す素振り的に知り合い、だよな」

「まあ、あの人は知り合いだな。小さい頃はよくあの人と一緒にいたから、所謂昔馴染みってやつ。幼馴染みみたいなもん?」

「へえー、そっか」


 涼介はあまり興味なさそうにのっぺりとしたコメントをする。涼介にしては珍しいとは思う。

 興味を削がれやすいというか、飽きっぽい性格だったっけ、涼介って。

 僕はそんなことを疑問に思いはしたが、特に詮索はしなかった。

 まあ、そういう性格は地球上全ての人間を分析して割り出してみれば、それほど珍しいものではないだろうからな。むしろ、そのような性格の持ち主、あそこにもそこらにもいっぱいいるのではなかろうか。

 僕は青い地球の姿を眺め回すように想像して、手を口元に置き、何か思考するフリをする。つまり、今の僕は何も考えていないということだ。

 元から能天気でちょっとばかしネガティブで自分の住み処が時代遅れな環境だったせいか、それらが混ぜ合わさって、古典的なポーズを取っているのに何処か変に感じてしまう。それは実にシュールでカオスなものだった。

 まあ、僕は何か漫画を読むにしろ、いつも自分が生まれたのより前のものだったりを読むので、考えが錆びついているのは、どうにも否めない。これは、美咲さんに影響されたのもあるだろう。


「で、あのお姉さんの名前は?」

「ああ、いつも名前で呼んでいたから名字は曖昧なんだけど、多分美咲さん」

「多分、ってどういうことだ?」


 僕のその不明瞭な言い方に疑問を覚えたのか、涼介はずけずけとした一直線な感じで僕に訊き返す。

 相変わらず涼介の質問は意表を突いたりするような鋭い質問だ、とそう思った。

 ときどき、涼介が涼介じゃないんじゃないのかと思わされるときがあるが、それはもう昔のままの涼介じゃないんだなぁ、と熟思わされる。

 人は学んで変わっていって進化したり退化したりしていくものであるから、そりゃ、そういう箇所だって随所に見られたりするか。

 そう思うと、僕は何処か寂しいやら、悔しいやら、と気持ちが沈んでいく。

 同一人物ではあるのだが、どうにも少し違って見えてしまうのは、そういうことなのだろう。

 僕だって昔と比べたら少しは変わった。小っぽけなことではあるかもしれないけれど、味覚や体格、年齢などのそういうところは変わっているのだ。

 他にも、小さいときには行けなかった場所、成し遂げられなかったこと等々、小さな変化がたくさんある。成長、というと、全てがそれに当てはまるわけではないが、まあ、それでも、小さい頃よりは成長できているのだろう。前進できているのだろう。と、思う。


「多分はたぶんだよ。ほら、偽名を使っていたりするかもしれないだろ?」

「さすがに俺らみたいな奴等に偽名は名乗らないんじゃないか」

「まあ、そうか」


 高島が口を挟んで僕にそう言うので、僕は頷いて納得した。

 仮にそうだったとするならば、あの人は警戒心が強いんだろうな~と思う。どうみても、警戒心が強いようには見えないけれど。

 僕はあしらうようにそう思いながら、自然と猫背になっていたことに気づき、背筋をピンと張って伸ばす。癖というものはいつまで経っても抜けない。

 第一、癖ってできやすいんだよなぁ。習慣化しちゃうと、もうその時点で治すのは厳しい。

 癖ってものは、自分では無意識下の中でやっていることだから、そもそも認識することが難しいのだろう。

 そうして、僕は延々と癖に対しての一人考察を始める。ぶっちゃけると、これも癖なのだろう。

 癖を考えている中で癖をついつい行ってしまうとは、こりゃ、もう言葉にできないくらいの重度なものだね。

 と、僕は呆れ気味に思う。熱心なことだ。よろしい、よろしい。

 僕は僕に対して上から目線の感じでそう心に一言残すと、靴に違和感を感じたので下の方を見る。

 見ると靴紐が解けていたようだったので、すぐさましゃがんで靴紐を結び直す。結び方は簡単にできる適当なやり方なために、多分かなり見映えが汚いであろう、と思う。

 そうして、靴を爪先から地面にトントンと軽く蹴って足の安全性を確認すると、腰を上げてまた動き出す。

 ああ、指が冷たい。こんなに手が悴んでいるのによく結べたよな。

 と、そんなことを思うと、僕は制服のポケットの中で手をスリスリと擦って温めようとした。


「えっと、名字はうろ覚えだからすぐに流しておいてくれ。確か、三浦だとか六浦だとか影浦だとか、そんな感じだったと思うぞ」

「ああ、ということは名字にはとりあえず『浦』が付くんだな」

「浦……浦……? なんか、そう言われると、段々と自信が失せてきた」

「どっちだよ」


 僕が不安そうにそう言うので、高島がキレッキレッなツッコミで僕を圧倒させる。

 いや、だから僕は保守的に予防線を張っておいたではありませぬか。『流しておいてくれ』と。

 僕は文句有りげな気持ちになると、擦っていた手の動きを少しずつ素早くしていく。

 完全に自分の行動に今の心境が表れている。

 だから、母さんに「もっとゆとりを持って行動しなさい」とよく言われるのだろう。いや、母さんの言いたい気持ちは大いにわかってはいるんだ。だけど、どうしてもそれができないんだ。

 と、僕は言い訳がましい考えを頭に巡らせる。

 うーん、これはちょっとないな、と自分の考えを否定して、母さんの意見を酌んでみることにする。そうは思うが、正直、多分言い訳をしている自分がなんとなく情けないなぁ、と思っただけなのだろう。そういうことに関してはよくわかっていた。


「まあ、それは置いておいて。もう一人のあの女の子。あの娘、この前の娘だよな? 何、善ってあの娘ともうそういう関係の仲になっていたのか。俺、すっげえ悲しいぞ! ぞ!」

「……そんなわけないだろ。成り行きでなんかああなっただけだ」


 涼介からなにやら嫌なムードが漂い始めていたので、僕は少し返答を止めはしたが否定をする。

 危うく、肯定の意に捉えられてしまうんじゃないかと肝をヒヤヒヤとさせると、僕は少し不快そうな面構えをした。

 返答に困るのは、あんなことやこんなことが起こったのを脳がフラッシュバックしたからだろうか。

 恐怖と少しの明るみ。それを思い起こさせられたのだろう。

 僕は思い返して、苦々しくてしょっぱい気持ちになると、口からするりと息が漏れた。

 まてまて、これはもう封印しておくべきことだ。人というものの流行が廃れて、世界が朽ち果てて、辺りが焦土化して孤独になろうが、この過去の出来事は思い返してはならない。そう、そーっとして蓋をして閉じておこう。

 僕はそのようなことを心に決めるとすぐに、頭を僅かばかりの痛みで締めつけられているような、そんな感覚に陥った。

 僕は前にも思ってはいたが、ロマンチストな性格ではないのだ。だから、それっぽい言葉を出せやしないし、出せたところでおかしすぎて笑いが堪えられなくなってしまうだろう。

 僕にはロマンチック道は極められないのだ。だって、そんな言葉は僕には似つかわしくないのだから。


「確かにあいつは可愛いかもしれない。だけど、性格は残念なやつなんだ。僕が言えた義理じゃないけど」

「そっか。善から『可愛い』なんて言葉が出るなんて俺は驚きだよ」


 僕が頭を抱えた感じで涼介に桐勢の詳細を言うと、涼介は言葉の割りには平坦な感じで喋って僕の方を一瞬見る。

 そっか、そんなに意外だったかな。

 と、僕は涼介の言った言葉を真っ直ぐに捉える。

 まあ、最近の僕は何処かピリピリしているところがあっただろうから、そういう反応が返ってきてもおかしくはないんだろうな。それに、避けてもいたし。

 と、僕は落ち着きを払って物事をしっかりと受け止める。

 ここ最近の自分は、涼介から見たら変だったってことなのかもしれない。

 そうか、他の人の目線から考えたら、自分のことを更によく知ることができるのか。知れて、理解できて、なんだという話ではあるのだが。


「僕もそれくらい、言うときは言う。ただ、普段からエネルギーを消耗していないだけで」

「そっか、そっか。善の心から元気そうなところを見れて、俺はもっともっと安心したよ。もしかして、あの娘がお前に元気をくれたのか?」

「…………」


 嬉しそうに涼介が僕に訊くので、僕は少しだけ硬直したがその後照れ笑いをして返答を詰まらせた。


 そして――。


「……そうなのかもしれないな」


 と、間を空けて、僕は小さく呟いた。

 この宵闇の中にその言葉は静かに消え去っていく。

 そろそろ帰路が各々別方面に別れるので、僕もここらの通りの道を曲がって帰ることにしよう。

 そう思って、歩を止めて身体をくるりと回すと、靴の音が静かにこだました。


「じゃ、また学校で」


 そう二人に簡潔に言って、僕は足早に家へと帰った。

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