第09話 ワイバーン討伐
冒険者登録をしてから3か月、驚異的な速度でランク10にまでなっていた俺たちだったが、今でも相変わらずギルドに通って掲示板を眺めていた。
そんなある日、今日もまたいつものように朝からギルドに向かった。
ギルド内に入ると受付から声をかけられた。
「ファルターさん、フィーナさん、来ていただけますか」
「ん」
「えっ、なに」
俺たちは呼ばれた通り受付に向かった。
「お2人に特別依頼が来ております。いかがいたしますか?」
「特別依頼?」
冒険者ギルドには2種類の依頼がある。
1つは俺たちが今まで受けてきたもので、掲示板に貼ってある依頼を自分で取り受付に持っていき受けるという通常依頼。そして、もう1つが受ける冒険者をギルドや依頼者が指名する特別依頼というわけだ。
そして、この特別依頼はランク10以上になってようやくもらえるようになる。
そのためにこの特別依頼を受けて初めて一人前の冒険者ということになる。
「どんな依頼なんだ」
俺はとりあえず話を聞いてみることにした。
「ワイバーン討伐です」
ワイバーン、前世でもファンタジー物でよく目にする魔物だ。
その姿は物語と同じく大型の鳥、ドラゴンの亜種ともいわれている。
強さはドラゴンとは比べ物にならないため、別物であるというのが一般的な認識だ。
それでも簡単に倒せるというものでもなかった。
「ワイバーンってランク10じゃないよね」
そう、今フィーナが尋ねたようにワイバーンはランク10ではなく12あたりに出る依頼だった。
「はい、確かにこちらは本来であればランク12以上の方に出すものですが、依頼人の指名もあり、お2人なら問題なくワイバーンを討伐できるだろうと判断いたしました」
ということらしい。
「まあ、確かに俺たちならできないこともないと思うけどな」
「うん、でも、その依頼人ってどうして私たちを指名したのかな」
フィーナがもっともな疑問を投げかけた。
「それについてはわかりかねますが、お2人の実力は有名ですから」
「そうなのか、まぁ、直接聞けばいいか。それで、場所は?」
「西門から馬車で南西に2日の場所にあるクリアルブ村です、出発は明日でよろしいでしょうか」
特別依頼の場合、距離があるとギルドが馬車を用意してくれる場合がある。
通常依頼だと自分で用意しなくてはいけないので助かる。
「ああ、いいんじゃないか」
「そうね、準備する必要もあるし、それでいいと思うわ」
ということで明日、俺たちは馬車で件のクリアルブ村に向かうことになった。
次の日、俺たちは準備を整えて西門までやってきた。
「えっと、私たちの乗る馬車はどれ?」
あたりには馬車が複数あり俺たちが乗る馬車がどれかわかりずらかった。
「おーい、お前さんたちがファルターとフィーナかい」
すると50代ぐらいの、人の良さそうなおっさんが俺たちを呼んだ。
「ああ、そうだけど」
「あはは、やっぱりそうか、若いって聞いていたからねぇ、よし、乗ってくれ」
俺たちは導かれた馬車に乗り込んだ。
馬車の旅は一言で言うならめちゃくちゃ揺れた。
もし車酔いがひどい人がいたら今頃あちこちが大変なことになるだろう。
幸い、俺もフィーナも武術のおかげか全く酔うこともなく馬車の窓から見える外の風景を楽しんでいた。
「考えてみたら、最近は走ってばかりで風景を楽しむ暇なかったよね」
「そういえばそうだな」
そう、俺たちはフィーナの『ブースター』訓練のために依頼場所まで結構な速度で走って移動していた。
だから、今回の馬車の旅でゆっくりと風景を眺めていることができたのだった。
「あっ、ねぇねぇ、ファルター、見てみて、あれ」
そういってフィーナが少しはしゃぎながら指をさした先には、草原を走る野生の馬の姿だった。
「野生馬か」
「ここらには結構いるからよく見かけるぞ」
「へぇ、あっ、あれって子供かな、可愛い」
フィーナはこの馬車の旅をかなり楽しんでいるようだった。
そんなのんびりした旅を続けて2日、ようやく件のクリアルブ村が見えてきた。
「あれが目的のクリアルブ村だ」
クリアルブ村、動物や魔物除けの木柵に囲まれ、特産物は小麦、話によればここの小麦は品質が良いようで、街などでも高値で売れているということだった。
しかし、あまり量が取れないようでほかの農村とほぼ同じぐらいの収入しかないそうだ。
「それじゃ、俺はこの村の宿で待っているから依頼、頑張んな」
「うん、ありがと、おじさん」
「すぐに終わらせてくるよ」
ここまで御者をしてくれていたおっさんの仕事は、俺たちの送迎、つまり俺たちが依頼を達成してセルミナルクに戻るときにも御者をしてくれるということだ。それまでは宿でノンビリ休日だそうだ。
それから俺たちはとりあえず依頼内容を確認するために村長の家を訪ねることにした。
しかし、向こうの世界のゲームだと、目的の人まで矢印が出ていたり、初めての街でもマップ表示されていたりと親切設計されているが、実際にはそんなことはあり得ない、そのため歩いている人に尋ねながらの捜索となった。
「村長の家? ああ、それならあそこのちょっと高くなっている家がそうだよ」
さすがは村長の家、あっという間に見つかった。
当たり前だが苦もせず村長の家までたどり着いた。
扉をたたくと中から中年の女性が出てきた。
「はい、どなた?」
「えっと、私たちは冒険者のフィーナとファルターですが。ご依頼の件できました。村長さんはご在宅ですか?」
俺が言うより先にフィーナが尋ねてくれた。
「えっ、あなたたちが……え、ええ、おりますよ。どうぞ」
俺たちを見て驚いていたようだった。
「あなた、冒険者の方が来てくださいましたよ」
どうやらこの女性は村長の奥さんのようだった。
俺たちが通された場所には執務机と、簡易的な応接セットが置いてあった。
どうやら、村長の執務室のようだった。
「いやぁ、よくお越しくださいました。私は村長をしているミグルスと申します」
そこで待っていたのは中年のすらっとした男性だった。
村長というからには恰幅のいい爺さんが出てくると思っていただけに少し驚いた。
「初めまして、ファルターといいます。こっちは相棒のフィーナです」
相手は依頼者ということで俺は敬語で話しかけた。
「おお、あなた方が、お噂は聞いております」
そういいながらも奥さんともども驚いていた。
「今回は俺たちを指名していますけど、それは……」
俺はさっそく最初の疑問を投げかけた。
「えっ、ええ、その、実は、調査に来ていただいた冒険者の方にお2人のことを伺いまして、その、今回は指名をさせていただきましたが、その」
どうやら俺たちが思っていた以上に若いと思っているようだ。
まぁ、実際そうなんだけど……
「あ、あの、失礼を承知で伺いますが、その、お2人のご年齢は?」
「14です」
フィーナが答えた。
「14!! ちょっと待ってください、ではお2人は……」
「一応ランクは10ですよ、といってもなったのはこの間ですけど」
「ま、まさか、あっ、いえ、申し訳ありません、その信じられず……」
「まぁ、しょうがないですよ私たちだってまさかこんなに早くにランク10になれるとは思っていなかったわけだし」
「でも、間違いなくランクは10ですよ」
俺はそういいながら自身の冒険者カードを示した。
「た、確かに、ランク10です……あっ、いや、失礼しました」
「いえ、気にしていませんから、それじゃ、依頼の内容について伺いたいのですが、いいですか」
「は、はい、えっと……はい、その、わが村にほど近い場所ですが、そこにワイバーンが出没しまして、それを退治していただきたいのです。今はまだ近くに来るだけですが、いずれこの村を襲うとも限りませんので、村の者たちもおびえております」
村長は恐縮しながらそう話した。
「なるほど、確かに、俺たちぐらいならワイバーンはそこまで脅威じゃないけど、普通の人にはかなり脅威だからな。わかりました、それでは明日にでもその目撃のあった場所まで行ってみます」
「よ、よろしくお願いします」
村長は最後まで恐縮していた。
たぶん俺たちの強さは噂で聞いた程度だし、何より俺たちがついこの間冒険者になったばかりという不安もあるのだと思う。
俺だったら間違いなく思うだろうから、フィーナもそれを感じていたようで何も言わなかった。
それから俺たちの歓迎会が軽く行われ、次の日俺たちはさっそく聞いていた現場に向かった。
ちなみに今現在現場にいるのは俺とフィーナの2人きり、案内はいざというときに守り切れないからと断った。
「ねぇ、ファルター、何かおかしいと思わない」
「ああ、まぁ、確かにな、腑に落ちない点があるんだよな」
俺たちは昨日の村長や村民の様子に違和感を覚えていた。
「だよね、ワイバーンって普通の人には脅威だよね。なのにその依頼を調査に来たっていう冒険者から聞いたからってことで依頼を出すかしら。もし、私たちが失敗したら村の存続が危ないって言うのにね」
「ああ、それは俺も感じていた。俺たちを見た時点で断ることもできたよな。まぁ、その分金はかかるけど、村の大事を考えるとその決断をしてもおかしくない」
「うん、それだけ切羽詰まっていたって線もあるけど」
「そうなんだよな……」
俺たちがそんな会話をのんびりとしていたまさにその時だ。
「ぐぅごぉぉおおおわああ」
突如ものすごい地響きとともにけたたましい方向があたりに響いた。
俺たちはその声の咆哮を振り向き唖然とした。
「……」
「……」
「……なぁ、フィーナ、いつからワイバーンってあんなでっかくなったんだ」
「……し、知らないわよ、って、あれは、違うわよ」
「……だ、だよな。はぁ、マジ勘弁してくれよな」
そう、俺たちの前に現れたものはワイバーンですらかわいいと思える魔物、ドラゴンの登場だった。