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第06話 魔法使いの末裔

「ファルター朝よ、朝食食べましょ」

 早朝、俺の眠りを覚ましたのはフィーナだ。

 フィーナは部屋の外から声をかけてきていた。

 どうせならベッドまで来て起こしてくれて、生理現象を見て顔を真っ赤にする。こんなシチュで頼みたい。

 とまぁ、冗談はさておき

 昨日俺とフィーナは勇者が隠れ住んでいたという勇者の洞を発見。そして、フィーナが勇者の末裔であり、勇者が前世での俺の末裔であることが判明した。

 非常にややこしいことだ。

 そんなことを思いながらフィーナに返事をして部屋を出て行った。

「おはよう」

「おはよう、眠れた」

「ああ、ぐっすりとな」

「そう、よかった」

「それで、今日はどうする、ここの調査をするか」

「そうね、そうしましょう」

 俺たちは朝食を食べ終えすぐに動き出した。


 俺が調査を担当するのはもちろん、今さっきまで寝ていた魔法使いの部屋だ。

「さてと、何から見ていくかな」

 俺はそう思いながら、あたりを見渡した。

 部屋には昨日調べた机とベッド、そしてクローゼットがある。

 昨日調査したときは誰の物か分からなかったので簡単に調べたが、勇者の仲間の魔法使い、ということは8000年前の人のものだ。つまり、今は誰の物でもないということで徹底的に調べることにした。

「とりあえず、机だな」

 俺は、机の引き出しを受けから順に開けていった。

「何もないな」

 机の引き出しは空っぽだった。

「次はクローゼットでも開けるか」

 俺はそう思いクローゼットを開けてみた。

「おっ、こっちは入ってる」

 中に入っていたのは予備の物か魔法使いのローブが数着その下の着るシャツなどが入っていた。

「んっ、なんだこれ」

 中を見ているとふとかかっている服の下に箱が置いてあるのを見つけた。

「開けてみるか」

 中を調べるために、マグルという知らない魔法使いに開けるぞと断ってから開けた。

 すると中には、小さな小汚い袋が入っていて、その下にはメモが入っていた。

『俺の子孫なら、魔法の袋に触れてみろ』

 そんな風に殴り書きのように書かれていた。

「子孫って、どういことだ、それに魔法の袋って、もしかして、これか?」

 俺は思わず小汚い袋に触れてみた。

 すると、突然まばゆい光があふれだし部屋全体を包み込んできた。

「うぉ、な、なんだ」


「なんだ、男かよ、俺としては美少女を想像していたってのによ」

 次の瞬間そんな声が聞こえてきた。

「い、今のは一体」

 俺はとにかく今の状況を調べるためにあたりを見渡した。

 すると俺に目に飛び込んできたものは真っ白な空間で、何もない、あるのは先ほどの声の主だろう、どことなくこの世界での父さんに似ているが、どこか乱暴そうな印象を得る男だった。

 しかし、この男、内包する魔力が桁違いに強い。

 通常、魔法使いだからといって他人の魔力まではわからない、しかし目の前の男は尋常ではない魔力を持っている。

 たぶん今の俺の数10倍は持っているものと思われた。

 だから、その人物がだれか、俺には何となくわかってしまった。

「え、えっと、もしかして、勇者の仲間だった、マグル、さん?」

「おうよ、俺がマグルだ。ていうかお前、俺の子孫だったらそれぐらいわかれよな」

 今、マグルが妙なことを言った。

「えっと、どういう、俺が……」

「なんだよ、知らないのか、まぁいい、とにかくお前が俺の直系の子孫だっていうことは間違いねぇよ」

「……」

 その自信満々に言い放った言葉に俺はさらに混乱した。

 確かにうちの一族は妙に魔力が高い、でも、父さんからは聞いたことはなかった。

「しょうがねぇな、いいか、お前が今いるこの空間はお前の魔力に反応して作られたものだ。お前も魔力の波長が遺伝することは知っているな」

「えっ、ああ、知っている」

 そう、俺が冒険者登録の際、父さんの冒険者カードを使って、登録料を支払った時もこの魔力の波長から親子だとわかったのだ。

「その遺伝もなぜか直系に強く出る。それを利用したのが今回のものでな。お前が触れた魔法の袋にはセキュリティとして俺の直系の子孫が触れた場合のみこの反応が出るようになっている。というか、お前がこの洞穴に入っている時点で間違いないだろうがな」

「どういうことだ」

「この洞穴のカギは俺とコウヘイ2人の魔力でな、俺たちが2人そろわなければ空かない仕組みになっている」

「えっと、ということは?」

「ここには、お前ともう1人いるだろ、そいつがコウヘイの子孫なら、お前は俺の子孫であるということだ。俺もまさか直系の子孫がそろうとは思わなかったけどな。だが、万が一ということもある。その場合、俺の遺産として、この魔法の袋と中身を継がせようと思ったわけだ。感謝しな」

「それは、ありがたいけど、その魔法の袋っていうのは」

 俺はマグルが言う魔法の袋が何か分からなかった。しかし、名前からもしかしたらという期待もあった。

「おう、そうだったな、魔法の袋っていうのはお前が触れた袋のことでな。コウヘイのアイデアをもとに俺と知り合いの魔道具職人とで開発した。こいつは簡単に言えば、とてつもない大容量の倉庫を持ち歩けるってものだ。例えば、大量の狩りをしちまうってこともあるだろ、その場合、持って帰れないものはその場に放置することになる。しかし、こいつに入れちまえばすべて持ち歩ける。しかも、入れたものはその状態でとどまる。つまり、いつでも新鮮な肉を食えるっていう最高の袋だ。当初はそれを売って儲けようって話だったんだがな。これがまた厄介なもので、なにせ、こいつは開発者しか使うことができない。だったら、作り方を売ればいいと思ったんだが、今度は超級魔法を使えるくらいの魔力がなきゃ作ることもできないときやがる」

「超級! それじゃ、誰も使えないじゃないか」

 そう、この世界では超級魔法を使える人間なんてほとんどいない。俺が知る限り、俺と父さんは使える。それぐらいじゃないか。

「その通りだ、だから結局俺しか使えない代物になっちまったってわけだ。ところで、お前、超級は使えるんだよな」

 とここでマグルが当たり前のように聞いてきた。

「あっ、ああ、一応」

「よし、まぁ、その年ならそんなもんだろう、なら、問題ないな。っと、向こうも来たみたいだな」

 マグルがそう言ったとたん俺は何だと思ったが、すぐにその意味が分かった。

 なぜなら俺の隣が突然光り輝いたかと思うとそこに人影が現れた。

 そして、その人影が徐々に見えてくるとそこにいたのはフィーナだった。

「な、なに、今の、えっ、な、なに、ここ、えっ、ファルター?」

「フィーナ!」

「なんだよ、俺の子孫は男だって言うのに、お前の子孫は美少女じゃねぇか、ふざけんなよ」

 マグルがそんな無茶な文句を言ってきた。

 んっ、お前の子孫?

 俺がそんなことを不思議に思っているとマグルの隣に光が現れた。

「い、いや、そんなことを俺に文句を言われても、困るんだけど」

 そんな声が聞こえてきたと思ったら、光の中から黒髪黒目黄色い肌の日本人そっくりの少年が現れた。

「えっと」

 俺がどう声をかけようかと考えていると、それに気が付いた新たに出現した少年が答えてくれた。

「ああ、ごめん、俺の名は上森浩平、まぁ、こっちの世界では勇者って呼ばれてた。俺としてはなんか大昔のゲームみたいで恥ずかしいけど」

「えっ、ゆ、勇者様!」

 その自己紹介にフィーナだけが驚愕していた。

 俺はというと、出てきたとき見た目からそうだろうと思っていたこともあり特に驚かなかった。

「まぁ、そういうこと。それで、ここは俺とマグルの直系の子孫がそれぞれこの洞穴に残した魔道具、俺はグローブと靴で、マグルが魔法の袋、それに触れることで俺たちの記憶にリンクできるっていう魔道具を使っているんだ」

「記憶ですか?」

「そう、だから今君たちの前にいるのは確かに俺たちであることは確かだけど、この洞穴で過ごしていた時のものまでしかないんだけど」

「はぁ」

 フィーナはよくわかっていないようだったが、現代日本の知識を持つ俺にとっては何となく理解できた。

「まぁ、難しい話はそれぐらいでいいとして、肝心な話だけど、えっと、マグルの子孫の君はもう、魔法の袋については……」

 勇者の浩平が俺に尋ねてきた。

「ああ、一応さっき一通り聞いた」

 俺は俺自身の子孫であるというもあり何となく態度に迷っていた。

「そう、それじゃ、こっちの説明すると、えっと、君は……」

 浩平はフィーナに名を聞いてきた。そういえばマグルは俺に名を訪ねてこなかったな、などと思っているとフィーナが答えた。

「あ、はい、フィーナと申します」

「そう、フィーナちゃんね。えっと、それで、君が触れたグローブと靴だけど、それは、俺が冒険者時代から魔王を倒すまで身に着けていたもので、それぞれに強化魔法がかけられているんだ。だからそれを身に着ければ攻撃力などが上がるっていうものだよ」

「えっ、そんなものが……」

 フィーナは驚愕していた、ていうか俺も驚いた、なぜならこの世界にはそんな魔道具はないかったからだ。しかし、同時に納得もした、それは、いくら浩平が上森の末裔でも魔王を倒すほどの力があるとは思えない、肉体的には普通のはずだから、なるほど、そんな魔道具を使えばできるかもな。

 それでも、たぶんだけど扱いには相当苦労しそうだけど、実際。

「そう、でも、これを扱うのは結構難しい。それはそうだよな、なにせ自分が思っているより力が出てしまうんだからね最初はその力に振り回されて大変だったよ」

「そ、そうですか、でも、勇者様はそれを使って魔王を倒されたんですよね」

「まぁね、何とか、マグルの魔法も結構頼りになったしね」

「す、すごい」

 フィーナは素直に感動しているようだった。

「そうだな、強化魔法って最初はビビるからな」

「そうなの」

 俺がそうつぶやくとフィーナが聞いてきた。

「ああ、それはそうだろ、例えばジャンプをするだけでも全然違うんだ。俺は軽くしたつもりでも強化魔法を使うとその数倍の高さまで飛んじまう、制御が難しいんだ」

「へぇ、ファルターでも大変だったんだ」

「それはそうだろ、前世ならともかく、今の俺には武術の才能はないんだぞ」

 俺はフィーナの会話の中で前世というワードを自然に使ってしまった。

「前世だと、お前、もしかして転生者なのか」

 マグルが鋭く聞いてきた。

「えっ、ああ、まぁ、一応」

「へぇ、転生者か、初めて見たよ。君の前世ってなんだたの、話を聞いていると武術をやっていたようだけど」

 浩平もちゃんと聞いていたようだった。

 俺は仕方ないと思いすべてを話すことにした。

 まぁ、この2人に話したところで別に意味はないからな。

「まぁ、ね。俺の前世での名は上森僚一」

「えっ、か、上森だって!!」

 俺が名乗ると浩平がことさら驚いていた。

 それはそうだろうなここは異世界、この地で上森の名を聞くことになるとは俺だって思わなかったんだからな。

 俺はそこで日本語に切り替えて話すことにした。

「そう、俺たちは同じ上森の男型継承者だよ」

「なっ、ま、マジかよ。嘘だろ」

 浩平も日本語で返してきたが本人は気が付いていないようだった。

「信じられない気持ちもわかるけど確かだ。それと俺の没年は2018年、2321年にこの世界に転移したそっちからしたら俺は先祖になるみたいだ」

「なっ、ちょ、ちょっとまってくれ、それじゃ、おかしい」

「ああ、そうだな、時系列がめちゃくちゃだ」

「どうなっているんだ」

「さぁな、俺にもわからない、ただ確かなのは、俺が死んだのは2018年で間違いないし、そっちだって間違いないだろ」

「ああ、確かに俺がこの世界に転移したのは2321年だった」

 でもどうして……

 などということを小声でつぶやいていた。

「ちょっと、ファルター、2人で分からない言葉で話さないでよ」

 とここでフィーナからの突込みがあった。

「まったくだぜ、俺をのけ者とはいい度胸だなコウヘイ」

 マグルまでも突っ込んできた。

「ああ、悪い、久しぶりに同族の人間にあったからつい」

「同族、どういうことだ」

 フィーナは事前に俺と勇者の関係を話していたので驚かなかったがマグルは驚いていた。

「えっと、つまり……」

 浩平がマグルにさっきまでの俺たちのやり取りを簡潔に話していた。

「まじかよ、ってことは何か、お前は、俺の子孫であると同時に、コウヘイの先祖でもあるってことか」

「まぁ、簡単に言うとそういうことになる」

「んっ、ってことは、お前って武術もできるのか?」

「ああ、前世とは比べようもないほどだけど一応」

「ははは、すげぇな俺の子孫、魔法と武術両方できるのかよ」

 マグルはなんだか嬉しそうだった。

「あっ、そうか」

 とここで浩平が何かを思い出したようだ。

「えっと、僚一さん、それともファルター」

「どっちでもいいぞ」

「はい、えっと、僚一さんは継承の儀は受けているんですか?」

 この継承の儀というのは上森の一族に伝わる免許皆伝と技の継承をするときに行う儀式のことだ。

「ああ、12の時に受けたけど」

「えっ、12、早っ、俺なんてこっちに転移するときですよ」

「まぁ、確かに、歴代でも早いほうだからな」

「そうですよ。ってそれはいいとして、継承の儀を受けているんだったら、僚一さんに返さなければいけないものがあります」

「返す、何をだ」

「実は、俺が転移した日、その日に俺と双子の姉が同時に継承の儀を行う予定でした。俺はその時その儀式を行うために親父の指示で持っていく最中だったんです」

 俺は一瞬何のことか分からなかったがすぐにわかった。

「ま、まさか、あるのか!」

「はい……僚一さんがマグルから受け継いだ魔法の袋に入れてあります」

 浩平は申し訳なさそうに話していた。

「そうか、いや、助かった。こいつだと使い勝手が悪くて……」

 俺はそういって腰に差したショートソードを示した。

「ああ、わかります、この世界、刀がないですからね。俺も苦労しました。それで結局グローブと靴で強化していましたから、せめて、転移が継承の儀を終えた直後だったらよかったんですけど」

「確かに」

 俺と浩平はそう言って笑いあった。

 その後は今現在の世界状況や簡単な話をした。

「コウヘイ、そろそろ時間だ」

「えっ、もうそんな時間なのか」

「んっ、時間って」

「どうやら、そろそろお別れの時間のようです」

「えっ、お別れって」

 浩平の言葉にフィーナが食いついた。

「この空間はためておいた俺の魔力で作っている。いくら俺でも底なしってわけじゃないからな」

 それに答えたのはマグルだった。

「そ、そうですか、残念です。もう少し勇者様とお話ができればよかったのですけど」

 フィーナが心底残念そうな顔をしながら言った。

「まぁ、仕方ないさ。俺もフィーナと話しができてよかったよ。自分の子孫と話ができるなんてこれは、マグルに感謝だな。僚一さんもそうは思いませんか?」

「確かに、俺もそうだと思う、逆に先祖とも話はできたし、まぁ、俺の場合これからもフィーナと話はできるけどな」

「それは、うらやましいですね。おっと、本当に時間のようです。僚一さん、いや、ファルターさん、フィーナをお願いします。フィーナ、ご先祖様である僚一さんをよろしく」

「ああ、任せておけ」

「はい、お任せください」

「まぁ、じゃぁな、ファルター、お前はたぶん俺より強くなる。俺でも使えなかった神級なんとしても使えるようにしろよ」

 ここでマグルが無茶を言い出した。神級なんて人間に使えるわけがないからだ。

 でも、それを目指すのも面白い。

「ああ、俺に任せてくれ」

「ふん、その意気だぜ」

 そういいながらマグルは消えていった。

「それじゃね、フィーナ、僚一さん」

 そしてそのあとすぐに浩平の姿も消えていった。

 気が付くと俺は元のマグルの部屋にいた。

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