第54話 魔王軍幹部
「……」
「……」
今、俺たちは息をひそめていた。
どうしてそうしているかというと、魔王がいる城の中にいるからだった。
そう、俺たちは現在、城に忍び込んでいた。
メンバーは、俺とフィーナはもちろん後は愛美とエニスの4人だ。
事の始まりは今朝の作戦会議だった。
アルディとともに作戦会議を開く侯爵の天幕に向かった。
周囲には多くの兵士や奴隷兵たちがいたが、今ではみんな俺たちを見ても気にもしなくなった。
まぁ、それなりに力を示したから当然といえばそうなのかもしれないが、それでも最初のころは絡まれて物だった。しかし、侯爵が俺に対しても貴族として接し、ほかの貴族たちも俺たちに普通に接し始めたことでそれがようやく周知され始めたためだった。
そんな中、ようやく天幕にたどり着いた。
「アルディオンです」
「シタナエールです」
天幕の前で自身の名を告げた。
「うむ、入られよ」
中から侯爵の声が聞こえた。
「失礼します」
そういって中に入ると中にいたのは侯爵だけだった。どうやらほかの人たちはいまだ来ていないようだ。その証拠に、俺たちが席に座ってすぐにほかの参加者も続々とやってきた。
「それでは、作戦会議を始める」
こうして会議が始まったわけだが、まず話し合ったのはやはりどうやって城壁を越えて攻め込むかというものだった。
今回は前回のバラック要塞のように俺たちが侵入して門を開けるというわけにはいかない。その理由は、要塞は門を開ける機能が要塞内にある部屋に設置されていたけど、街の城門となると門の内側にある車輪を回すことで開けることができる仕組みだ。つまりたとえ侵入できたとしても開けている姿がもろに見えているし、何よりその間無防備となってしまう。
そこで今回は、通常の攻城戦となる。つまり、破城槌や櫓、はしごなどを用いて、城壁を越えるというものだ。
もちろんそうなるとこちら側に甚大な被害を出すことになる。
「やはり、そうなりますな、今回ばかりはシタナエール殿にお任せするわけにはいきますまい」
「うむ、だが、別のことを頼みたいと考えている」
侯爵がそんなことを言い出した。
「頼みですか?」
「うむ、この戦いはおそらく、いや、間違いなく総力戦となる。もしその間に魔王に逃げられては元も子もない、そこで、シタナエール殿にはあの技を用いて魔王がいる城、そうさな、魔王城としようそこに乗り込み魔王の討伐を頼みたいのだ」
などと言ってきた。まぁ、俺としては問題ない、もともとマナリズ国王陛下にもセペリウス様からも依頼を受けていたものだ。
「了解しました。もとよりそのつもりでしたから、必ずや魔王を討伐して見せます」
「よろしく頼む」
「それしかありませんな。シタナエール殿、我々からもよろしくお願いします」
そういって、侯爵をはじめとしたほかの貴族たちも俺に対して頭を下げてきた。
こうして、俺たちは魔王討伐を依頼されたわけだ。
そして、作戦開始となり、侯爵や貴族たちは一斉に街の城壁を取り囲み攻撃を開始し、俺たちはというと城壁を飛び越えひそかに街の中に入っていた。
「よし、後は、あの魔王城に侵入するだけだな」
「うん、みんな大丈夫かな」
愛美が心配そうにしていた。
愛美が心配しているのはおそらく、攻城戦に残してきたサーラとクルムだろう。
「大丈夫だろう、あっちには母さんと父さんもついているし、何よりあの2人ももう上級魔法が使えるわけだしな。俺と父さんがいるから目立たないけど、あの2人も十分に強い魔法使いだしな」
「そうよね、うん」
「それより、こっちは、勇者様が苦労して倒した魔王、危ないのはむしろこっちでしょう」
そんな愛美にフィーナがそういった。
確かに、浩平がかつてマグルと苦労して倒した魔王、今回の魔王はそれよりもかなりつよっくなっているとセペリウス様とゼラギウス様が言っていた。
身を引き締めないと、フィーナの言う通り危ないのはむしろこっちだ。
「そうだな、気合を入れておけよ。愛美、エニス」
「うん」
それから、街を進みついに魔王城にたどり着いた。
「しかし、よくもまぁ、こんなものを作ったよなぁ」
俺はでかい魔王城を見つめながらそうつぶやいた。
「ほんとよね」
「おっきいい」
「でかっ」
俺たちがそろいもそろってそんな感想を言うのも当たり前、実はこの街にこのような城は存在しなかった。あったのはせいぜい領主の館ぐらいだろう。しかし、魔王がここを拠点としたことで急遽城がたてられたらしい。もちろん立てたのは奴隷としてよりひどい扱いとなった原住民や、魔王に従わなかった街の住人だ。
彼らもひっそだったんだろう、その建築スピードは以上に早かったそうだ。
俺たちもかなりの速さで街を作ったが、この城の建築スピードには負けるだろう。
とまぁ、そんな城にいよいよ侵入するときが来た。
「突貫だろうから、ある程度はわかりやすい作りになっていると思うけど、一応敵本拠地気合を入れていくぞ」
「ええ」
「了解」
「うん」
それから俺たちはそれぞれ、魔王城に侵入したわけだ。
そうして現在、俺たちは手や身振りなどで合図をしながら魔王城の中を進んでいる。
ちなみに、俺とフィーナ、愛美はともかくエニスが俺たちについてこれているのは、愛美とフィーナが教えたからだ。エニスの武術の才能はおそらく俺の前世やフィーナ、愛美を越えていると思われる。そのため、俺たちが技を教えるとあっという間に覚えてしまい、面白がって教えてしまったからだ。まぁ、でもこうして今教えたことが役に立っていることを考えると、何が役に立つかわからないものだ。
そんなことを考えながら進んでいると、不意に少し開けた場所にやってきた。
「ネズミかと思ったが、まさか、ここまで入ってくるとはな」
そういって、俺たちを出迎えたのは4人の人間……いや、連中から漂ってくる気配は魔物、つまり魔人だろう。確か、浩平の日記にも書かれていた。魔王の周囲にいた魔物化した人間、つまりは魔人だと。
「魔人か、厄介だな」
そう、浩平の日記にも魔人には相当苦労したと書かれていた。なんでも魔人化すると元の力の数百倍の力を得るそうだ。
「ほう、我らのことを知っているとは、貴様、何者だ」
「なに、ちょっと、知り合いから聞いただけさ。さて、俺としては魔王に用がある。そこをどいてくれねぇか」
「ふん、貴様らごときが魔王様にお会いできるわけがなかろう、貴様等こそおとなしく帰ることだな、今ならその五体満足の姿でとどめてやるぞ」
つまり、生死は知らないということらしい。
「引く気はないというわけね」
「お兄ちゃんやっていいの」
フィーナは少し緊張しながら構え、エニスは嬉しそうに構えた。
「ああ、相手は魔人、人間をやめたやつらだ、遠慮はいらないだろ」
「わかったわ」
愛美も構えたことで、俺もまた構えた。
「後悔することになるぞ」
そういって4人の男たちも構えたことで俺たちはそのまま先頭に突入した。
相手も俺たちもちょうど4人というわけで、示し合わせたわけではないがそれぞれが1対1となり戦いが始まった。
フィーナの相手は、もとは拳闘士だったようで、ブースターを身に付けこぶしを握り締めた構えだ。ちょうどボクシングのファイティングポーズみたいだ。
そして、愛美の相手は、剣士ブロードソードを構え、双剣を構えた愛美と対峙していた。
エニスの相手は騎士、お互いに槍を構えた格好だ。
そして、最後に俺の相手だけど、井出立ちは魔法使いのようにローブを身に付けているが右手に片手剣を構えている。多分俺と同じように剣と魔法を併用してくるのだろう。
「人間の身でありながら武術と魔法とはずいぶんとふざけたやつだ」
実はこれも浩平の日記に書かれていた、魔人となると才能とは別にあふれる魔力から武術も魔法も両方扱えるようになるそうだ。
「お前こそ、魔人になったとたんにそんなものを覚えたところで俺と対等にやれると思うなよ」
こうして、俺たちの戦いが始まった。
といっても、勝負は結構あっさりと決まった。
まず、フィーナが、相手と同じくブースターを使用して、一瞬で距離を詰めて殴り掛かった。しかし、敵もさるものなんとそれを紙一重でかわしたのだ。
しかし、それでも経験の差だろう、フィーナはそれを織り込み済みだったようでそのまま開いていた左手でショートソードを抜き放ち斬りかかった。
だが、それもよけられた、しかし、フィーナのスピードに追い付けなかったようで剣がかすっていた。
そして、その後、数合合わせた後、相手の力量を見たフィーナがギアをあげたことで肩が付いた。
愛美は愛美で、双剣で斬りかかったが、敵はそれをあろうことか剣で受け止めようとした、しかし、俺のもそうだが愛美の双剣は切れないものはない、つまりその剣ごと切り伏せたのだった。
まぁ、ここまではよかった。問題はエニスだ、嬉しそうに槍を振り回しているエニスは気が付いたら敵を貫いていた。
もう、俺では勝てんかもしれないな。
そんなことを冷や汗を1つ落としながら眺めつつ、俺もまた長剣に戻していた刀で一刀両断にした。
「ふぅ、終わったな。しかしエニス、ほんとに強くなったな」
「ほんと」
「ああ、たぶん、もう俺じゃ勝てないぞ」
「確かに、前世のお兄ちゃんでも無理そう」
「うん、私も少し自信ないわね」
エニスの戦いを見ていたフィーナと愛美がそんな感想を言うほどの強さだった。
「さてと、後は魔王だけだな」
「ええ、行きましょう」
「うん」
「了解」
こうして4人の魔人を倒した俺たちは一路魔王がいる部屋へと向かって行った。
そして、ついに、その部屋までたどり着いた。
「ほう、あやつらを倒したか、少しはわれも楽しめそうだな」
部屋の前までくるとそんな声が聞こえてきた。
同時に威圧もしてきて結構すごいな。
それから、俺たちは意を決し部屋の中に入っていった。
そこには、1人のおっさんがいた。しかし、このおっさん威圧が半端ない見た目はいかにもな王様、でも、その内包している魔力と威圧は計り知れないものがあった。
おいおい、浩平が戦った魔王より強いんじゃないか。
俺はそんな疑いを持った。




