第50話 攻城戦
シュミナ王国での初戦争、クリムナ軍は魔物と人間の混成部隊だった。
俺たちとしては、魔物は討伐死なれているし問題はない、しかし、相手が人間しかも同族である原住民であり、彼らは奴隷として、薄人達にあの場所に立つこと、魔物の隣で戦うことを強要されている。そんな、連中を殺さなければならない、俺たちの心には少なくともしこりが生まれてしまった。
それでも、俺たちは、やらなければならない、そうしなければもっと多くの人が苦しむことになる。それになんとしても魔王を討伐しなければならない、これは、神様であるぜぺリウス様からの依頼であり、マナリズ王国の国王からの要請でもある。
だからこそ、このしんみりした空気は払しょくしなければならないだろう。
「まぁ、とにかく、やるしかない、魔王を倒して、浄化しなければならないからな」
「そうね、それが、セペリウス様からの依頼だものね」
「ああ、そうだな」
俺は、改めてフィーナと確認しあった。
「そうですね。それまで、ファルターさんたちにはお辛いことが多々あると思いますが、そのたびに僕が矢面に立ちます。任せてください」
アルディの心強い一言である。
「ああ、悪いな、でも、大丈夫だ。俺たちもその覚悟があってマナリズ王国を出てきているんだ。だから、お前も無茶はするなよ、もしお前に何かあったら、それこそ、厄介なことになりかねん」
そう、もしアルディに何かあれば、まずルミナが悲しむだろうし、甥としてかわいがっている陛下に何を言われるかわからない。
「ええ、もちろん僕もわかっていますから、無茶はしませんよ。必ず無事に国へ戻るつもりですから」
「そうか、それでいい、ところで、やつらはどこまで後退したんだ」
いつまでもこの話をしていても仕方ないので、俺はアルディにクリムナ軍の行方を聞いた。
「はい、あの先には、バラック要塞があります」
「バラック要塞?」
要塞ということは攻城戦ということかな。
「はい、もともとはシュミナ王国が、隣国であるジュラム・ガルブとの国境に設けた要塞でして、その後方、つまりシュミナ王国側には街もあるのですが、その街はすでにクリムナ軍によって破壊されているそうです」
「……」
アルディのその説明で俺たちは絶句した。
それはそうだろう、話によるとその街は魔物によって破壊、たぶん生きている人間はほとんどいないだろうな。
「……そ、そうか、ということは、攻城戦になるな」
「そうなると、私たちはあまり役には立てないわね」
「だな、素人だしな」
「でかい魔法を一発ってわけにはいかないだろうからな」
父さんが物騒なことを言い出した。
「はい、ですが、おそらくファルターさんとフィーナさんにはお願いすることがあるかもしれません」
「どういうことだ」
「それはですね……」
アルディが答えようとしたところで、シンダリオン侯爵の使いがやってきた。
「伯爵閣下、シンダリオン侯爵閣下がお呼びです。それから、そこの者たちもともに来るようにとのことです」
いまだに、俺たちの対応はこんなもんだった。
なんかすごいいやそうな顔をしているしな。
「わかりました、すぐに向かいます」
アルディもその表情には苦々しい顔をしながらもそう答えた。
「そんじゃ、行くか」
「はい、すみません」
こうして、俺たちは、再びシンダリオン侯爵のもとへと向かって行った。
「アルディオンです、入ります」
アルディが天幕の前で声をかけると中からシンダリオン侯爵の声が聞こえた。
「おお、入ってくれ」
「失礼します」
アルディが入ったので、俺たちもそれに続いては言っていった。
俺たちが中に入ると中には以前作戦介護をした面々がそろっていた。
「済まぬな、アルディオン殿、それにファルター殿、先ごろの戦い見事であった」
俺を見るなり、侯爵が突然俺たちを誉め始めた。それに、俺の名に殿と付けたな。
そして、当然それを聞いた周囲の貴族たちは驚愕していた。
「ありがとうございます」
俺は一応礼を述べた。
「さて、まぁ、かけてくれ」
俺たちはそう言われて進めれれた椅子に座った。
ちなみに、俺の席は前と違って、アルディの隣であり、フィーナや父さんたちは俺の後ろに座っている。
この席順は、俺が騎士爵とは言え領地持ちだからという拝領があった。
しかし、なぜ、今回俺はこんな扱いなのか、以前の作戦会議ではアルディの後ろに座っていたのにな。
「実はの、シタナエール殿、アルディオン殿から聞いたが、そなたは以前、マナリズ王国の王城に忍び込んだということは誠か?」
それを聞いた、ほかの貴族がさらに驚愕した。
「……」
俺もどう答えていいかわからずふとアルディを見た。するとアルディが軽くうなずいていた、つまり話してもいいようだ。
「ええ、確かに、陛下の要請だったとはいえ、王城に忍び込んだのは事実です」
「なんと」
「そんな、まさか」
「どうやって」
さすがに俺が認めたことで、周囲の者たちが色めき立った。
「ほぉ、詳しく聞かせていただけるかな、もちろん話せる範囲で構わんが」
「ええ、いいですよ」
それから、俺は軽く王城に忍びこんだ話をした。
「つまり、シタナエール殿は、誰にも気づかれることなく、謁見の間にたどり着いたと」
「ええ、その通りです。俺にはその技術がありますから」
「なるほど、それは、後ろの者たちにもできることかね」
侯爵は俺の後ろにいる家族たちを見て言った。
「いえ、この技術は、特殊でして、相棒であり婚約者であるフィーナと、妹たる愛美のみが持つものです」
実際には、勇者一族ならほとんどできると思うけど、ここでは言わないでおこう。
「そうか、その3名か……」
侯爵はそうつぶやいてから俺たちを見て、言い出した。
「ならば、シタナエール殿、その技術をわれらにお貸しいただきたい」
なんと、突然侯爵が俺に対して丁寧に言ってきたのだ。
「えっ、い、いや、いきなり、ですが、力を貸すということでいえば、すでにこの戦いに身を投じている時点で、お貸ししています。今回俺たちは侯爵殿の指揮下に入っていますし、何より、俺たちにとって信用できるアルディ……アルディオンの縁戚であり彼が信用しているあなたを信用しないわけはありません。ぜひ、遠慮せずにお使いください」
俺は侯爵に向かってそう宣言した。
実はこれは俺たちの総意でもある、この侯爵は最初からそれができる人物であるとわかっていたし、何より今俺たちに力を貸してほしいと頭を下げた。これは、どう考えても信用するに値することだった。
「そうか、ありがたい、では、さっそくだが、詳細を説明しよう」
「お、お待ちください」
とここで、突然これまで衝撃のあまり黙っていた貴族が苦言を言い始めた。
「なんだ」
「閣下、原住民に頭を下げるとはどういうことですか、それに、力を借りる、そんな、信用できません」
かなり力を入れて拒否してくる、鍔まで飛んでいるし。
「そなたの言いたいことはわかる、わが国でも原住民は民ではなく奴隷として扱っている。それは、まぎれもない事実であり、彼もまたその原住民だ。しかし、彼はマナリズ王国民であり、かの国では平民であり、騎士爵に叙されておる。なれば、我らと同様貴族として扱いが道理であろう。それに、信用ということでいえば、ファルター殿も言っていたように我が縁戚であるアルディオン殿、そして、我がシュミナ王国王族のご出身であらせられる、マナリズ国王陛下も信を置いているということがある」
侯爵は貴族にそういった。
「し、しかし……」
まだ何か言いたい感じだったが、さすがにこれ以上の苦言はまずいと思ったのか口をつぐんでしまった。
「……うむ、さて、ほかに何か言いたいものはおるか、構わんぞ」
侯爵がそういったがさすがに何を言う奴は現れずみんな黙ってしまっていた。
「では、シタナエール殿、先ほどの説明を続けようか」
「お願いします」
それから詳細な説明を受けて、先ほどの確認の意味が分かった。
つまり、侯爵は、俺たちにバラック要塞に忍び込んで門を開けてほしいということだった。
まぁ、俺としてもその方が早い気がするので、快諾した。
そして、いよいよ作戦開始となった。
作戦の参加者は、当然俺とフィーナ、後は愛美だ。
「3人とも頑張りなさい」
「お前たちのことだから心配は無用だろう」
そんなことを言いながら父さんと母さんに見送られた。
「ああ、行ってきます」
「行ってきます、お義母さん、お義父さん、あとみんな」
「行ってきます」
こうして、俺たちはひそかに出発した。
ちなみにポルティは愛美の肩に乗っている。
それからは簡単だ、3人で忍び込んだ要塞は、結構な複雑な作りだったが、もともとはシュミナ王国が建造したものだった。そのために中の構造が事前にわかっていたこともあり、すんなりと目的の場所までたどり着いた。
そして、俺たちが、門を開けると、待機していたシュミナ軍が一斉になだれ込んであっという間に要塞を落としてしまった。
「早いな」
「もしかして私たちがいると、攻城戦は無敵じゃない」
フィーナも俺と同意見のようだった。
「簡単すぎ」
愛美も拍子抜けしたようだった。
こうして、俺たちはほとんど損害も出さずに難攻不落といわれたバラック要塞を取り戻したのだった。そして、そのおかげかシンダリオン侯爵をはじめシュミナ王国のほかの貴族たちも唖然としつつも、俺たちを評価してくれるようになった。