第32話 つかの間の平穏
フィーナが優勝、俺が3位という結果になった武術大会が終わり、俺たちもようやくセルミナルクに帰ってきた。
「うわぁ、すごい、すごいね、お兄ちゃん、ここがお兄ちゃんたちのお屋敷なんだ」
感動しながら俺たちの屋敷を見ているのは前世の妹で、武術大会初戦で戦う羽目となった愛美と、その仲間サーラとクルム、後は女神セペリウス様がこの世界に転移してしまった愛美のサポートとしてつけてくれた。ポルティ・ライムというぬいぐるみのような存在だ。
「ほんとにここに住んでもいいのですか」
サーラが恐縮しながら言ってきた。
「ああ、もちろんだ。ていうか、部屋が余っているから使ってくれ」
これは本当の話で、貴族であるルミナが使っていただけあって部屋数が多すぎる。
俺とフィーナがそれぞれ使ってもまだまだ余っていた。
ちなみに使用人たちは敷地内にある別の建物に住んでいるために屋敷の部屋を使っていない。
その日は愛美たちの歓迎会とフィーナの優勝、俺の3位入賞を祝した宴会が行われた。
「それではまず、奥様、武術大会優勝、おめでとうございます」
「「おめでとうございます」」
ハーゼンがそういうと使用人たちが全員で祝福した。
「そして、旦那様、3位入賞おめでとうございます」
次は俺がみんなに祝福された。
「最後に、マナミ様、サーラ様、クルム様、ポルティ・ライム様の歓迎を祝しまして、乾杯といたしましょう」
その後ルミナとアルディがやってきて、俺たちに祝福の言葉を残してから、少し話をして仕事があるといって帰っていった。
最近あの2人はかなり忙しいようだ。もちろん冒険者の仕事ではなく、貴族の方でだが。
まぁ、そんな感じで宴会は終わった。
次の日、俺は愛美を連れて街に繰り出していた。
「なんか、お兄ちゃんと2人で出かけるのって久しぶりだね」
そう、今回は俺と愛美、兄妹水入らずだった。
「そうだな、前はいつだっけ」
「えっと、私が中学に上がる前だったから、2年ちょっとぐらい前かな」
そうか、俺が死んだのが確か1学期だったから、確かにそのぐらい前だな。
「ということは、俺にとっては、17年ぶりぐらいか。ずいぶん前だな」
「……そっか、お兄ちゃんはこっちで15年過ごしているんだもんね」
「ああ、まぁな」
「そういえば、お兄ちゃん、どこに向かっているの」
そういえばまだ愛美にはいっていなかったな。
「お前が持つブースターをもとに戻そうと思ってな、今、向かっているのはそれをする工房だ」
「もとに戻す?」
愛美はよくわかっていないようだった。
俺がそれを説明しようとしたら工房についてしまった。
「ああ、ここだ」
俺は迷わず扉を開けた。
「らっしゃい、って、なんだ、ファルターか……おっ、なんだ、新しい女か、フィーナは、どうしたんだ。別れたのか、だったら、俺に譲れよ」
いきなりの軽口だった。
「ちげぇよ。誰がお前に譲るかよ。こいつは、俺の妹だ」
「妹、似てねぇな、よかったじゃねぇか」
「お前に言われたくねぇよ」
この工房の主、名前はトメスこの男との出会いは勇者の洞でブースターと魔法の袋を見つけたとき、ギルド長クジャリ紹介だ。
トメスは31歳で実は俺の中身の年齢と同い年だったりする。まぁ、こいつはそれを知らないけど、俺たちは馬が合った。
だから、会えば軽口を言い合う仲となったのだ。
「それで、なんのようだ」
「ああ、妹のブースターを戻してもらおうと思ってな」
「戻す? おいおい、何言ってやがる、あれを戻すとどうなるかわかっているんだろ。その嬢ちゃんに扱えるのかよ」
さすがにこればっかりは軽口ではなく本気での心配だった。
「それなら問題ない、愛美はフィーナと同レベルの実力の持ち主だ」
「なに、それは本当か」
「ああ、俺の見立てでは、今の時点では愛美の方が強いぐらいだ」
「まじかよ、まぁ、お前の妹だっていうなら、それぐらいは当たり前か。まったくわかったよ、いいぜ、そいつを貸しな」
そういって、トメスは愛美にブースターを渡すように手を出した。
「えっと、お兄ちゃん?」
愛美はまだ状況についていけていなかった。
「ブースターは俺とフィーナが勇者の洞で発見したことは話したよな」
「うん」
俺は愛美にブースターのことを話した。
「……えっと、つまり、私が使っているこれは出力を抑えたもので、元に戻すってことは、フィーナさんが持っているのと同じ出力になるってこと」
「そうだ、ていうか、使用者の魔力によって無制限だけどな」
「そ、そうなんだ」
「そうでもなきゃ、いくら勇者様でも魔王は倒せないってことだろ」
ここで、トメスの発言だがまさにその通りである。
勇者が上森の末裔であることを知っていいる愛美はそのことがよくわかった。
「そうですね。えっと、それじゃ、お願いします」
そうして、愛美は持っていたブースターをトメスに差し出した。
「おう、調整には2日かかるからな、2日たったら取りに来な」
「はい」
「じゃぁ、頼んだぞ」
こうして、俺たちはトメスの工房を後にしたのだった。
その後は、少しだけセルミナルクを愛美と歩いてから昼には屋敷に帰った。
本当なら、一日一緒にいてもよかったが、俺にも愛美にもそれをする気はなかった。
歩いていても結局俺たちの会話はフィーナたちのこととなったからだ。
そんな日から2日が立ち、愛美のブースターが出来上がり、さっそく愛美はフィーナからブースターの扱い方を学んでいる。
愛美は、やはり才能だけならフィーナに劣っていることもあり、うまく使いこなすのに数日かかったが、それでも問題なく使いこなせるようになった。
一方俺はサーラとクルムに乞われ魔法や魔法を使った戦い方を教えている。
実は、俺たちの陰に隠れがちだが、この2人魔法使いとしては普通に天才の域にいる。
魔力も上級上位の魔法を数発は撃てるぐらいはあるし、それを撃つ技量も申し分ない。
しかし、周囲にその魔法を扱えるものがいんかったこともあり、中級の魔法を連発するしかできなかったようだ。
それを知った俺はさっそく2人にそれぞれ、得意属性の魔法を教えたのだった。
そして、武術大会が終わり、セルミナルクに帰ってきてから2週間は立ったある日、愛美たちは冒険に出かけ、俺とフィーナは朝からのんびりと過ごしていた。
まさにそんなときのことだった。
俺は、突如闘気を感じた。
「うぉ」
「なに」
俺は、そう叫びながら座っていた椅子から飛んで離れた。
フィーナも同様に離れたようだ。
これにより、のんびりとした生活が終わりを遂げたのだった。




