第03話 初めての討伐依頼
冒険者登録をしたと思ったら、さっそく冒険者に絡まれてしまい、面倒だがそれを撃退した俺とフィーナは再び冒険者ギルドに入った。
俺たちが入ると当然注目された。
「おい、あいつら」
「ああ、3バカに連れていかれたやつらだよな」
「なんであいつら無事なんだ」
「というより傷一つつけてないぞ」
「嘘だろ」
周りでそういう声が聞こえた。3バカというのはたぶんあいつらのことだと思うけど、あいつらギルド内でもそんなこと言われているのかよ。
「ねぇ、どの依頼にする」
そんなことをお構いなしにフィーナが俺にどの依頼を受けるかと掲示板を見ながら聞いてきた。
「そうだな、宿代とか、飯代を考えると報酬が高いほうが良いよな」
「そうね、だとしたら討伐系かしら」
「だな、それじゃ、この、スライム討伐とゴブリン討伐しかないな」
「ええ、そうね」
この世界にはスライムとゴブリンがいる。
スライムはゲームとかと同様で、物理攻撃が通じず、それどころか攻撃を当てた瞬間捕食されてしまう、そのため基本的に魔法による遠距離攻撃しかできない。つまり、魔法系冒険者の最初の敵ということだ。
そして、ゴブリンは緑色の肌で小さな人型であるという姿は一緒だが、女性が捕まっても性的暴行は受けないそうだ。
ちょっと残念でもある、それじゃ、どうなるかというと、普通に殺されるだけだそうだ。
そんなわけで、さっそくこの2つを受けることにして受付に持って行った。
「スライム討伐とゴブリン討伐ですね。承りました。ご武運を」
結構あっさりと依頼を受けることができた。
街の北門から出て、すぐのところにあるタルブの森にやってきた。
この森はいわゆる初心者の森で冒険者ランクが1から2ぐらいの冒険者が足しげく通う森である。
俺とフィーナはその中でも本当に入り口付近で狩りを始めることにした。
その理由はスライムやゴブリンがいるのがこのあたりで、奥のほうに進むと魔物も強くなるという、ほんとにゲームみたいな話だった。
「さてと、おっ、さっそくスライムだ」
「ほんとだ、じゃぁ、ファルターの番だね」
「ああ、それじゃ」
俺はファイアーボールを小さく圧縮してはなった。
こうすることでターゲットのみを焼き尽くすことが可能だからだ。
「へぇ、そういう方法もあるんだ」
「ああ、まぁな、小さいころから父さんに仕込まれたからな」
それから1時間ほど森の中をさまよいつつ、見つけたスライムをファイアーボールで仕留めていった。
「スライムばっかり」
フィーナがつまらなそうな声を上げていた。
それもそのはず森に入ってからスライムしか出てこない、つまり、フィーナの出番が全くないからだった。
「確かにスライム多いよな、って、そんなこと言っているとようやくのお出ましのようだぞ」
「ほんとだ」
ようやくゴブリンが出てきたようだ。
しかし、どうしたことか何かから逃げているような必死に走っている最中だった。
「よーし、やるわよ~」
しかし、ゴブリンたちも運が悪いことに気合が入ったフィーナには関係なかった。
そして、あっという間にゴブリンの群れを倒してしまった。
「それにしてもおかしくない」
すべてのゴブリンを倒してからフィーナはようやくこの異変に気が付いたようだった。
「ああ、いくら最弱とは言えまるで何かから逃げているようだったよな」
「うん、ねぇ、これってもしかしてさ。手引書に書いてあった。アレじゃないよね」
「アレか、確かに状況的に似てるよな」
アレとは、このあたりで数10年に一度現れるスライムキングのことだ。
手引書によると、これが現れた場合、その配下となるスライムが大量に発生し周囲の魔物や動物がスライムキングを恐れ逃げだすとあった。
思い返してみたら、確かにこの森に入って1時間、スライムを24匹ぐらい倒した。
そして、フィーナが今倒したゴブリンの群れ26匹は何かから逃げてきたようだった。
この状況からおそらくそうだろうと考えが浮かんだのだった。
「どうする、ファルターだったらスライムキングぐらいだったら簡単でしょ」
「ああ、確かに、できるだろうけどな。でも、一応俺たち新人だし、もう討伐依頼は完遂しているし、あとはベテランに任せよう」
何より面倒だったからだった。
「そうね、そうしましょうか」
これにて俺たちは街まで引き返して、ギルドにスライムキング発生の可能性を報告しようと思い踵を返した。
まさにその時、俺の耳にかすかに悲鳴なようなものが聞こえた。
「ん?」
「聞こえた? 今の……」
どうやらフィーナも聞こえたようだった。
「フィーナにも聞こえたということは俺の空耳じゃなかったってことか」
「うん、ほんとにかすかだけどね」
そう、俺とフィーナに聞こえた悲鳴は、とてつもなく小さくほとんど聞こえなかった。
「どうする」
「行ってみるしかないわよね」
「だよな」
俺たちはそううなずきあうと、その場所まで全力で走った。
しばらく走って気が付いたが、俺は魔法で身体強化をしているためにかなり速く走っている。
その速さは、100mを7秒で走れるぐらいだ。
俺も前世では軽く9秒台前半は出せた。
最もそれを人前で披露することはなかった、そんなことをすれば大騒ぎとなるのは火を見るより明らかだ。
そんな速度に身体強化を使わないフィーナが付いてきているのは脅威だった、しかし、同時にこれからもいざというときに全力で走れるということ、その実力にフィーナとパーティーを組んでよかったと思う。
などと考えていると、現場に到着したようだった。
「フィーナ、とりあえずあそこから様子を見よう」
俺は現場が見えそうな丘の上を指さして言った。
「わかったわ」
丘に登った俺たちの眼下には通常のスライムより明らかに大きなスライムが1体
「あれがスライムキングか」
俺は冷静に見ていたが内心少し焦っていた。
その理由はスライムキングに果敢にも挑んだだろう、剣士風の少年が右手を剣ごとスライムキングに飲み込まれて捕食され中だった。
「まずいな、あいつ食われるぞ」
「うん、助けないと」
「ああ」
俺がそう言って飛び出そうとすると、その後ろにいる3人の声が聞こえてきた。
「アルディーーー!!」
そのうちの魔法使いの少女が少年の名前を叫びながら助けに入ろうとしていた。
しかし、残りの男たちが少女の両腕を抱えながら止めていた。
ここまで見れば無謀にも少年を助けよとしている少女を、2人がいかないように抑えているように見えた。
「もう、あいつは駄目だぜ」
「そうそう、あんな奴は忘れて、俺たちが可愛がってやるって」
「いやぁ、離して、アルディ、今、助けるから、離してよ。アルディ~」
少女は2人の男を振りほどこうともがいていた。
「なぁ、フィーナ、あれって」
「うん、最低」
見たところ2人の男たちはベテランの冒険者、少年と少女は明らかに新人冒険者だろう、おそらく男たちが新人たちに近づき、新人がやってこられないような奥地に連れ込んで少年を亡き者として残された少女を手に入れようとたくらんだのだろう。
もちろんそこにスライムキングがかかわっていたことはわからないが……
「とりあえず、俺がスライムキングをやる。あっちは頼んだ」
「了解」
俺は手早くフィーナに指示を出すと、フィーナも短く答えてから俺たちは同時に飛び出した。
飛び出した俺は、まずスライムキングの前に出ると、腰に差していたショートソードを素早く抜き放ち、右手で少年の腕を飲み込まれていないひじから先を斬り付けた。
「ひぎゃぁぁぁ」
少年はその痛みで悲鳴を上げたが、俺は気にせず少年を突き放すと左手をスライムキングに向けるとフリーズを放った。
するとたちまちスライムキングが凍り付きすぐに動かなくなった。
そこを回し蹴りで粉砕してスライムキングをあっという間に倒してしまった。
そのあとふとフィーナに任せたほうを見ると、フィーナも男たちをあっさりと倒してしまっていた。
「さすがだな、フィーナ」
「ファルターもね」
俺たちは暢気にお互いの健闘をたたえていた。
「アルディ」
すると男たちから解放された少女が少年のもとへと走った。
「ううっ、ルミナ、くっ」
そういえば少年の腕を斬り落としたんだった。
俺はそこでそのことを思い出して、回復魔法をかけてやろうと近づこうとしたときだった。
「今、回復してあげるからね」
どうやら少女は回復魔法が使えるらしい。
しかし
「ああ、楽になってきたよ、ありがとう、ルミナ」
少年は少女に礼を言っているが、少女の回復魔法では弱くて血止めと軽い鎮痛効果しかなかったようで、少年はいまだに汗をにじませていた。
俺はそれを見て頭を掻きながら再び少年のもとへと向かった。
「俺に、任せな」
「えっ」
俺はそういって少女のわきから少年に向かって両手をかざした。
すると、青白い光とともに少年の腕がにょきにょきと生えたのだ。
ってまぁ、他人事のようだが、これが俺の回復魔法だ。
それを見たその場にいた俺以外の全員が驚いていた。
それもそのはず、この世界の回復魔法は中級からようやく先ほど少女が行ったレベルの魔法で、某RPGゲームで言うケアルに相当するような小回復魔法のことだ。
また、回復魔法が属する聖属性が得意な人の場合でも、それより強めのケアルラに相当する魔法となる。
このあたりまでが一般に伝わっている回復魔法だ。
そして、当然上級の回復魔法も存在する。それでもケアルガ相当であり、俺が使ったように失った腕が再生することはあり得ない。
しかも、このケアルガ相当の魔法ですら教会では奇跡の回復魔法といわれているほど、使い手は少ないのだ。
それじゃ、俺が使ったものは何かというと、実は上級回復魔法の中でも最上位のものだ。
いうなれば完全回復魔法、フルケア相当のものだ。
この魔法の存在は教会でも一部の人間しか知らないし、知っていても伝説上の魔法だったりする。
「い、今のは!!」
「な、なに!!」
「ど、どうなっているんだ、お、俺の、腕が!!」
「上位の回復魔法だ。おかげで魔力のほとんどを使っちまったからな、今日はもう魔法を使えないぞ」
「えっ、上位って……」
「こんな魔法聞いたことないぞ」
「まぁ、あまり知られているものじゃないからな、そうそう、この魔法のことは人に言うなよ」
「どうして、こんな魔法があれば、多くの人が救われるのよ」
「ああ、そうだな」
「そうだろうけど、この魔法俺の魔力のほとんどを使うから、1日に1回しか使えないんだよ。だから、押しかけられても困る」
「なるほどな、そういうことか」
「まぁな、というわけでさっさと帰ろう、いつまでもここにいると怪我人より先に魔物が押しかけてくる」
「そうね、そうしましょう」
「ええ」
それから俺たちは気絶した男たちを、縛ってからたたき起こしてその場を後にした。
ギルドまで帰ってきた俺たちはスライムキングが出現したことや、冒険者の男たちの所業などを報告した。
「スライムキングですか! しかもそれをすでに討伐ですか!」
「ああ、まぁ、成り行きで」
「そうですか、さすがですね。わかりました、その分も含めた報酬をお支払います。今回スライムの討伐が10匹で100フィリクですが、ファルターさんは14匹多く討伐されています。この場合1匹ごとに10フィリクとなりますのでこの報酬は240フィリクとなります。また、ゴブリン討伐も同じように100フィリクからの追加で160フィリクとなり260フィリクです。そして、スライムキング討伐は本来、ランク4の冒険者に依頼をします。 ファルターさんはランク1ですから、上位の依頼をこなされたことになります。この場合ご自身のランクからの倍数となりますので4倍の報酬となります。そして、この討伐依頼の報酬は400フィリクですので、400の4倍で1600フィリクです。また、そちらの者たちは多くの新人冒険者の殺害および強姦の容疑で指名手配され、懸賞もかけられておりました。その捕縛の報酬1000フィリィをあわせまして、今回のお2人の報酬は合計で3100フィリクとなります。受け取りは現金か口座に振り込みと選べますがどういたしますか」
冒険者の報酬はランクが上がると高額になる。その昔、報酬を現金で受け取った冒険者が集団で襲撃を受けてごっそりと奪われるという事件が起きた。
それを防ぐために冒険者カードと魔力認識装置を使い、本人認証を行うことで現金を引き出すという銀行のようなシステムが生まれた。
また、引き落としはどのギルドからでも可能だ。
「そうだな、振り込みでいいんじゃないか、フィーナはどうだ」
「うん、それでいいよ」
「かしこ参りました。それでは、どのように振り込みますか?」
「そうだな、どうする」
俺はフィーナにそう尋ねた。
「たいして変わらないしそれぞれでいいんじゃない」
「それもそうか」
そうなると俺の報酬が1840フィリクとなりフィーナが1260となる。
俺のほうが580フィリク多くなるが確かにここまでになるとあまり変わらないような気がする。
「うん、スライムキングを倒したのはファルターだし」
「そうか、まぁ、フィーナがいいなら、それじゃ、それで頼む」
「承りました。それではさっそく振り込ませていただきます」
こうして、俺とフィーナの初めての依頼は完了した。
ギルドを出ようとすると突然声をかけられた。
「ファルターさん、フィーナさん、今日はありがとう、助かりました」
声をかけてきたのは今日俺たちが助けたアルディとルミナだった。
「ああ、いいって、成り行きみたいなものだし」
「そうそう、たまたまよ」
「このご恩は忘れません。今はできませんが、いつか必ずお返しします」
「ああ、まぁ、そうか」
「はい、では、これで失礼します」
そういってから2人は俺たちのもとを去っていった。
「あの2人、このまま、冒険者やっていけるのかな」
「さぁな、やっていけるんなら、そのうちまた会うだろ」
「それもそうね」
俺たちは少しだけ2人の行く末を案じつつ見送った。
「今日はもう遅いし、そろそろ宿でも探すか」
「うん、ああ、私目をつけてた宿があるからそこ行こう」
「早いな、それじゃそこ行くか」
それから俺たちは宿に行った。
「いらっしゃい、食事なら適当に座って」
俺たちが宿に入ると元気よくそういわれた。
「今日からしばらく泊まりたいんだけど、空いてる」
「泊り? 1部屋?」
俺とフィーナが並んでいるのにそう聞いてくるということは、どうやら俺たちが同室でもいいような関係に見えたようだ。
「いや、2部屋頼む」
俺はすかさずそう答えた。ここで動揺を見せるのは男として情けないと思ったからだった。まぁ、内心はかなり動揺していたが……
「2部屋ね、えっと、ああ、空いてるよ。それじゃ、案内するわね」
元気のいい店員に連れられて2階に上がっていった。
「ここと、その隣の部屋ね。1泊110フィリクで前払いになってるからね」
俺たちの部屋は廊下を突き当りの部屋とその隣の部屋だった。
「それじゃ、これで」
俺たちは冒険者カードを取り出した。
「はいはい、えっと、ファルターさんとフィーナさんだね。それじゃ、あとでギルドに請求するから」
俺たちは今回の報酬の全部をギルドの口座に預けている。
そのお金を使うには今のように冒険者カードを提示すると、それぞれの店が月末などにまとめてギルドに請求する。
ギルドは請求額に応じて冒険者各自の口座から引き落として支払うというシステムとなっている。
といってもこの方法はギルドのある街でしかできない、だから、ギルドのない村や町などに行くときはこの方法は使えない、つまり現金をある程度は持っていないと何もできないのだった。
「それじゃ、私がこっち使うから、いいでしょ」
フィーナは突き当りのほうを選んだ。
「ああ、いいぞ、俺はどっちでも」
「そう、それじゃ、あとでね」
そのあと俺たちは一緒に夕食を食べつつ、今後のことを語らいながら初冒険の夜を迎えていった。