第02話 冒険者
俺がこの世界に転生して14年の月日がたった。
この世界では、ほとんどの国で14歳となれば成人とみなされる。
そう、14歳となった俺は晴れて成人というわけだ。
「忘れ物はない、水には気を付けるのよ、魔物はちゃんと弱点を突くこと、間違っても油断しちゃだめよ」
さっきから永遠と注意を言ってくるのは母さんだ。
「おい、母さん、いい加減にしないと日が沈んじまうぞ」
俺が困っていると父さんが助け舟を出してくれた。
「そ、そうね、ごめんね、ファルター、ほんとに気を付けるのよ」
「ああ、わかったよ、母さん」
「お兄ちゃん、私もっと強くなって、冒険者になるから」
「ああ、お前なら、俺より強くなりそうだけど。それでも俺が先に有名な冒険者になってるからな」
「えー、それじゃ、私はもっと有名になっちゃうんだからね」
俺の今世での妹、エニスは母さんと俺の2人で指導したこともあって、今ではかなり強くなっている。
といってもまだ11歳俺に言わせればまだまだなところもある。それでも、狩りについていくことはできる腕前だった。
正直エニスの武術の才能がうらやましい、たぶんその才能は前世の俺に匹敵するかそれ以上だった。
「それじゃ、行ってくる」
こうして、俺は両親と妹に見送られながら近くの街へと旅立った。
「これが、セルミナルクか、思っていたよりでかいな」
俺がたどり着いたのは、家から5日ひたすら歩いた場所にある街だ。
街の名前はセルミナルク、人口は約13.000人で石作りの城壁に囲まれた結構大きな街だ。
「さっそくギルドに行くか」
門番から軽くチェックを受けた後街の中に入り、街の人に聞きながらなんとか冒険者ギルドにたどり着いた。
この街の冒険者ギルドは酒場と併設されていた。
俺はさっそく冒険者ギルドの受付に向かった。
「ようこそ冒険者ギルドへ、本日はご依頼ですか?」
「いや、冒険者になりたいんだけど」
「冒険者登録ですね、では、登録料をお願いします」
この世界の冒険者になるためにはお金がかかる。しかも結構な値段だ。
受付が最初、登録を聞かなかったのはこのためだ。
冒険者になるためのお金を用意できる奴はあまりいないからだった。
「ああ、えっと、ここから出してもらえるって聞いたけど」
そういって俺はあるカードを取り出した。
それは、父さんの冒険者カードだ。
「冒険者カードですね、失礼ですが、このカードの持ち主、マルスさんとはどのようなご関係ですか」
当然これを聞かれるが理由は簡単、冒険者は依頼によっては膨大な報酬を得る。そのお金をそれぞれが管理するのは不可能だ。そのために冒険者カードを利用してギルドにお金を預けるということができる。いわゆる銀行のようなものだ。
これを引き落とすのに冒険者カードを呈示する必要がある。
その際拾ったり盗んだものを提示するものが現れる、そこで確認というわけだ。
「マルスは父だ」
「了解しました。では、こちらに手をかざしていただけますか」
「ああ」
実はここまでは父さんから聞いていた。
どうやらこれは魔力を測定しているらしい、魔力は生物なら必ず宿っているが、魔力の波長は人によって違う。それでも親子だと波長がある程度同じものになるようだ。
この装置はそれを見るためのものだ。
俺は言われた通り手をかざしてみた。
すると、装置から淡い光が漏れ出し、その光が俺の手にまとわりついた。
「……はい、ありがとうございます。確認取れました。確かにマルスさんのお身内で間違いございません。それではこちらの登録用紙に記入をお願いします」
それから俺は登録用紙に名前や年齢などを記入して受付に渡した。
「ファルターさんですねでは試験を行いますので少々お待ちください」
「ああ、わかった」
こうして俺は何とか無事に登録を終えた。
ちなみに登録料は2,000フィリク、パン一切れでだいたい2フィリクで買えることからもいかに高いかがわかる。
それから少し待っていると、一人の中年の男がやってきた。
「お前が、新人か」
「えっと、そうだけど」
「ついてこい」
「あ、ああ」
俺は男についてギルドの奥に入っていった。
俺が連れてこられたのはギルドの地下だ。
そこにはすでに俺と同じくらいの動きやすそうな服を着た美少女がたっていた。
「いつもは1人1人だが、今回はたまたま2人いたからな一度にやってもらう、それじゃ、まずはお前からだ」
そういって男が指さしたのは俺より先にいた人物、おそらく武術系の冒険者を目指しているんだと思う。
「ええ」
この世界にきて俺が見た武術といえば母さんの槍術のみ、だからほかの武術を見ることができる機会に俺はワクワクしながら少女のことを見つめていた。
「お前は武術だったな、俺と一勝負してもらう、いいな」
「ええ、いいわ」
「よし、来い」
それから少女と試験官の男の戦いが始まった。
といっても、俺の予想では、すぐに勝負がつくと思ったが、その予想通り勝負がついた。
その結果は少女の圧勝、男が新人だと思って油断したところに少女の鋭い突きが入り男は悶絶することになった。
「ぐっ、ま、まさか、こ、この俺が、小娘の一撃で、だと」
男は苦しそうにぼやいていた。
たぶんこの男も冒険者として相当な実力を有していて自身があったんだろう。
「私は、合格でいいの」
「……くっ、まぁ、いい、合格だ」
「そう」
「くそ、よし、次はお前だ」
次は俺の番となった。
「お前は魔法使いだな、それなら、そこの壁に向かって中級の得意魔法を撃ってみろ」
俺は言われた通り壁に向かって左手を突き出してからファイアーボールを放った。
俺が放ったファイアーボールは手加減をしたにもかかわらず壁を半分以上とかしていしまっていた。
「……えっ、えっと、まぁ、し、新人にしては、じょ、上出来だな」
男はかなり動揺していた。
「すごい」
少女もまた小さく驚いていた。
「お、お前も合格だ、あとは上の受付で手続きをしておけ」
そういってから男はそそくさと逃げるように地下を出て行った。
それから受付に向かうと、そこで冒険者カードを受け取り簡単な説明を受けた。
「こちらが冒険者カードです。紛失された場合は無料で再発行できますが、3回目以降となると500フィリクかかりますのでお気を付けください。また、お2人とも実際に使われたのでお分かりと存じますが、冒険で得た報酬はギルドに預けることが可能です。その際、冒険者カードをご提示いただき確認ができれば、どの町のギルドでもお金をおろすことができます。続いてランクについて説明します。冒険者には、冒険者ランクというものがございます。最初のランクはみなさん1からスタートしていただきます。依頼をこなしたり、魔物を討伐していけばポイントが溜まっていき、ある程度溜まったところでランクが上がります。ちなみにこのランクに上限はありません。ですので、ランクが100といったこともあるわけです。まぁ、実際ここまでランクを上げられた方はおりませんが、せいぜい15超える方が数人おられるぐらいだと思っていただければよろしいかと存じます。では、最後に依頼を受ける際についてですが、そちらの掲示板にてご自身ではがし受付までお持ち下さればこちらでお手続きをいたします。あとの詳細はこちらの冒険者の手引書に書かれていますので、目を通しておいてください」
こうして、俺は今冒険者となった。
まさか、俺が冒険者になれるなんて前世では考えもつかなかった。だから、少し余韻に浸っていた。
まさにその時俺と同じく冒険者となったばかりの少女に話しかけられた。
「ねぇ、あなた、さっきかなり手加減していたでしょ」
「え、ああ、まぁな、でも、そっちだって同じだろ」
「へぇ、わかるんだ」
「まぁ、それなりにね」
「へぇ、でも、あなたって魔法使いなのね」
「いや、それは見ればわかるだろ」
そう、俺は父さんのお古でもあるローブを身に着けていた。
「確かにそうだけど、あなたの体こなし、っと、使い方を見ると武術の使い手でもおかしくないから、実際どうなの」
へぇ、さすがに気付かれたみたいだな、俺は少し悩んでから正直に答えることにした。
隠すことでもないしな。
「すげぇな、よくわかったな。確かに俺は武術もできるよ。でも、そっちの才能はあまりないからそこまでじゃないよ」
「そうかな、私と比べても互角に近いレベルの力はありそうだけど」
「そうだな、でも、10回中7回は俺の負けだろうけどね」
「ああ、それは確かに」
ここで俺たちの意見は一致した。
「それでなんだけど、もしほかに組む人がいないのだったら私とパーティ組まない」
「俺とか?」
「うん、そう」
「いいぜ、っていうか俺のほうからも頼みたいぐらいだ」
「そう、よかった、ここに来るまでどうやって魔法使いを見つけようかと思っていたのよね」
「ああ、それは俺も同じ、下手な相手だと邪魔になるしな」
「そうそう、私たちならそうはならないわよね」
「だな、俺もそう思う。ああ、俺はファルターだ」
「フィーナよ、よろしく」
「ああ、よろしくな」
俺たちはお互いに握手を交わした。
その時俺たちに声をかけてくる3人男たちがいた。
「ねぇ、君、新人だろ、そんな同じ新人の奴じゃなくて俺たちと組んだほうがいいぜ」
「そうそう、何せ俺たちランク5の冒険者だからな」
「俺たちと組んだほうが良いって」
そんな感じで声をかけてきたけど、どうやらこいつら俺ではなくフィーナを誘っているようだった。
というか下心丸見えで隠す気すらないような表情をしていた。
そのせいかフィーナはかなり引いていた。
「あいにくだけどあなたたちより、彼のほうが能力は上よ」
「なんだって」
「おいおい、嬢ちゃん、俺たちが新人に負けるはずないだろ」
「そうだぜ」
「なんだったら試してみたら」
ここでフィーナが勝手に挑発してしまった。
まぁ、別にいいけどさ……
「いいだろう、本当の冒険者の実力を思い知らせてやるよ」
「ごめん、ファルター」
「まぁ、いいさ、俺もちょうど少し運動したかったし」
それから俺たちは男たちの案内で移動した。
俺たちが連れてこられたのは街の門から出て少し歩いたところにある広場だ。
この場所は荒くれどもが多い冒険者たち、こういう問題を起こしたとき街中では迷惑ということで解放されている場所でもある。
ということでここなら派手に戦っても文句を言われないようだ。
「相手は魔法使いだ、ここは俺に任せな」
剣士風の男がそう言って手を挙げていた。
どうやら一人で俺の相手をするようだ。
「面倒だから全員一緒でいいぞ」
俺はそういって挑発した。一人倒してもどうせ全員と戦いそうな気がしたからだ。
しかし、それを聞いた3人は憤慨していた。
「なっ、ふざけるなよ」
「てめぇ、新人が調子に乗ってんじゃねぇ」
「もう、こいつ殺そうぜ」
「ああ、後悔させてやる」
「お前らがな」
こうして俺と3人の冒険者の戦いが始まった。
ちなみにこういった場所のせいか見学者が何人かいるみたいだ。
「おうおう、やれやれ」
「新人になめられるんじゃないぞ」
「頑張ってねぇ」
中には美人なお姉さんの声援が聞こえて思わずにやけてしまった。
その時なぜかちらっとフィーナを見ると少しむっとしているのが目に入り冷や汗を流したのはなぜだろう、まぁ、とにかく相手に集中する必要がありそうだ。
相手の3人は明らかに俺より弱い、武術の技も未熟もいいところだし、魔力も大したことはなさそうだ。しかし、戦いとは何が起こるかわからないからな。
そうして、俺は油断しないように引き締めつつ余裕を見せるためにあえて構えずに仁王立ちとなった。
そうしていると3人は激高してとびかかってきた。
「死ねぇ」
剣を構えて斬りかかってきたが、俺はそれを軽くよけると男の背を軽くたたきながら足を払った。
「うぉ」
男は見事にひっくり返っていた。
「あはははは」
「おいおい、何やってるんだよ、つまずいてるんじゃねぇよ」
ギャラリーの中には俺がしたことがわからず、男が躓いたと勘違いした連中が笑っていた。
「へぇ、やるな、あいつ」
中には俺がしたことを理解したやつもいるみたいだった。
そのあとも何度も斬り付けられたが俺は何の問題もなくかわしつつあしらっていた。
すると周りの連中もようやく状況がつかめてきたようだった。
「てめぇ、魔法使いじゃねぇのかよ」
「だったら」
剣士風の男がそう言ったと同時に切りかかってきて、その間に魔法使いの男がファイアーボールを放ってきた。
その威力は人を殺すには十分のものだった。
それを確認した俺は、剣士の男を手早く戦闘不能にしてから、ファイアーボールに向かって、右手をかざしてウォーターボールを放った。
「なっ、なに」
そして、俺が放ったものはファイアーボールをあっさりと飲み込むとそのまま魔法使いの男にあたり吹き飛ばした。
そして、その光景に唖然としていた最後の男も、そのすきにあっさりと沈めたのだった。
「まじかよ、あいつ、今のって魔法だよな」
「ああ、信じられねぇ、あいつ魔法だけじゃなく武術も使えるのかよ」
「ありえねぇって、マジで」
ギャラリーはみな一様に驚愕していた。
「さすがね、ファルター」
「おう、まぁな、これぐらいは簡単だろ」
「そうね、ああ、そうだ、これからどうする」
「そうだな、金もないしとりあえず何か依頼受けないか」
「なに、みんな使っちゃったの」
「いや、最初から持ってないよ。父さんからもらったものは登録料のみだし」
「私もだけど、ここまでの旅費とかは?」
「俺の家、ここから南の森の深いところだからな、途中村とかないし」
「ああ、必要ないからか」
「そういうこと」
「そういうことなら、依頼見に行こうか、私も実は心元ないし」
「ああ」
俺たちはさっきまでの3人のことなどすっかり忘れて2人で今後の相談をしていた。