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第11話 新居

 ワイバーン退治から一転、ドラゴンを討伐してから数日がたった。

 俺たちはというと、休日を楽しんでいた。

 何せドラゴン討伐の報酬は大金だ。

 ランク10で通常の報酬が大体5000フィリク、そんな冒険者たちが数十人で倒すものだからそれなりの額にならなければならない。

 そのためにドラゴン討伐は俺たちが倒した最下級のドラゴンでも最低でも30万はくだらない。

 そして、今回はワイバーン討伐いう偽りの依頼だったという迷惑料もかねて少し多めの40万フィリクとなった。

 それだけでも大金だが、その上に俺の魔法の袋で持ち帰ったドラゴンの遺体、これが高値で売れた。

 何せドラゴン討伐をしても持ち帰れるものは限られている。それがばらばらとなっているとはいえほぼ完品で、何より肉や血も腐らず新鮮でもあった。

 そのために少し上乗せ価格で売ることができたのだ。

 その額は25万という額だった。

 つまり、今回の討伐で俺たちは65万というとほうもない額を稼ぐことができた。

 ちなみに、最近この世界の物価が分かって日本と比べて換算すると、大体1フィリク50円ぐらいということから考えると、3250万円というものすごい金額となった。

 そういうこともあり休日としたわけだ。


 しかし、いつまでも休んでいても腕が鈍るということで、久しぶりに明日依頼を受けようということとなり、その日はいつもより少しだけ早めに眠りについていた。

 そして、時刻は日本風で言うと草木も眠る丑三つ時ぐらい、俺はふとわずかな殺気を感じて目を覚ました。

「……ん、なんだ」

 俺はそう思いながらも魔法の袋に手を入れていた。

 すると

突如全身黒ずくめ、頭にもマスクをかぶっているためにほんとに真っ黒な男が襲い掛かってきた。

 俺は、その攻撃をかわすこともなく上体を素早く起こして抜きざまに斬り伏せた。

「なんだったんだ、一体、暗殺か?」

 俺は今まさに転がった死体に問いかけていた。

 まぁ、答えるわけはないんだけど……

「ファルター、開けるよ」

 俺がなんだろうと考えているとフィーナがやってきた。

「ああ」

「あっ、やっぱりファルターのところにも来たんだ」

「フィーナのところにもか」

「うん、失礼しちゃうよね、女の子の寝室に忍び込むなんて」

 なんだかフィーナの少し論点がずれてことを言っていたが俺は無視した。

「俺だけが狙いってわけじゃなく俺たちが狙いか、なんなんだこいつら」

「わからない」

 コンコンコン

「どうしました」

 すると店主が騒ぎを聞きつけて部屋にやってきた。

 隠すこともできないし何か事情を知っているかもしれないために俺たちは店主を中に入れることにした。

「何やら聞こえてきましたが、どうされました。あっ!!! ……なるほど、暗殺ギルド、ですか」

 ここで初めて聞く言葉が出てきた。

「暗殺ギルド、なんだそれは?」

「ええ、はい、実は、この国には暗殺ギルドという闇のギルドがありまして、詳しくはわかりませんが、今回のようにたまに名のある冒険者の方が狙われることがあるのです」

「まじかよ」

「どういう連中か、わからないの」

「はい、申し訳ありません、私もそういったギルドがあるとしか、それにお客様が狙われて、私どもも困っておりまして……」

 いわれてみればそうだろう客が殺された宿なんて最悪だからな。

「まぁ、仕方ないか、俺たちでそれは何とかするしか」

「うーん、そうね」

 俺たちはそこで暗殺ギルドについて自分たちで少し調べてみることにした。

「これらの始末は私どもでしておきますので本日は別のお部屋をご用意いたします」

「そうか、まぁ、頼む」

「はい、お任せを、えっと、それからですが、申し上げにくいのですが……」

 ここで店主は言いよどんだ。

「どうしたんだ」

「はい、私どもも商売でして、お客様のように暗殺ギルドに狙われている方をこれ以上お泊めするわけにはいかず……大変申し訳ないのですが明日、出て行っていただけると……」

 店主は本当に申し訳ないように言ってきた。

「……そ、そうか、確かにそうだよね。うん、わかったわ、今までありがとう」

「だな、世話になったな」

「滅相もございません」

「でもさ、明日からどうしようか」

「そうだな、別の宿に行っても同じだろうしな」

 俺たちはそこで悩んだ。

「でしたら、その、お2人はドラゴン退治などで相当な稼ぎをお持ちですよね」

 とここで急に店主が言い出した。

「ああ、そうだけど、それがどうしたんだ」

「でしたら、家をご購入されてはいかがですか?」

「家? 家か……」

「家ねぇ」

「でも家って高いんじゃ」

 俺はこの時、前世で見た家のチラシなどに書いてあった値段を思い出していた。

 確か、家って安くても何千万だよな、たまに何百万っていうのもあったけど、それでも今の俺たちの全財産でも無理じゃないか。

「いえ、それほど高いものではありませんよ、私の友人が不動産をやっておりますのでご紹介いたします」

「うーん、そうだな、一応見に行ってみるか」

「そうね、手ごろなものがあるかもしれないし」

 俺たちは明日店主から紹介された不動産に行ってみることにした。


「ここが不動産」

 外観を見ると普通のどこにでもあるような建物だった。

 前世のように壁面にチラシは張っていなかった。

「入ってみるか」

「うん」

 俺たちは中に入ってみた。

「あっ」

 中に入るとそこには先客がいたようだ。しかも、その先客は後ろ姿でもわかる、金髪だった。

「……出直すか」

「……う、うん」

 先客は貴族のようだったので、トラブルを避けるためにも、その場は出直すことにして、踵を返したまさにその時のことだった。

「もしかして、ファルター様ではありませんか」

 そんな何やらかわいらしい声が俺の耳に後ろから届いた。

「ん」

 振り向くとそこには金髪碧眼の整った顔をした美少女が目を少し潤ませながら立っていた。

「えー、えっと……」

 俺は、誰? と言いそうになったところを相手が貴族ということで何とか飲み込んだ。

「ファルター、知り合い?」

「い、いや、知らない、はず」

 フィーナに問われそう答えたがフィーナの笑顔が少し怖かった。

「そちらはフィーナ様、お2人ともご無沙汰しております」

 どうやら俺の知り合いではなく俺たちのことを知っているようだ。しかも、以前にあったことがあるようだけど、間違いなく俺は見たことがなかった。

「まさか、このようなところで会えるなんて、思いもしませんでした。ああ、そうだ、お2人はドラゴンを討伐されたとか、さすがです」

 何やら興奮した様子だった。

「……」

 俺たちが絶句して困惑していると、美少女の隣にいた同じく貴族の少年が助け舟を出してくれた。

「ルミナ落ち着いて、僕たちは今、貴族の格好をしているんだよ」

「えっ、あ、そ、そうか、も、申し訳ありません」

 何やら意味が分からない。

「えー、えっと、どうなっているんだこれ」

「わ、わからない」

 俺たちはさらに困惑していた。

「すみません、ファルターさん、フィーナさん、ルミナはお2人のファンで、興奮してしまったみたいで」

「え、あ、ああ、いや、別に、いいですけど……」

「でも、僕たちが以前お2人に助けていただいたのは事実ですから」

「ん、あれ……」

 俺は頭をひねって考えたが、どう考えても貴族の少年と少女を助けた記憶うなんてない。

「まぁ、これじゃわからないのも無理はないですね。ルミナ」

 そういって2人は懐から指輪を取り出してそれを指にはめた。

 すると、指輪から光が出たと思ったら2人の髪の色や目の色が変わり貴族から平民の姿となった。

 そして、そこに現れたのは、確かに俺とフィーナには見覚えがあった。

「えっ、ル、ルミナと、アルディ!」

 そう、そこに現れたのは以前、俺たちが冒険者に登録したその日にスライムキングと指名手配された冒険者に襲われて絶体絶命状態だった2人だった。

「はい、お久しぶりです」

「ちょっと、待って、それじゃ、2人は、もしかしたら、貴族だったということ」

 フィーナが叫ぶように言った。

「はい、申し訳ありません、実はそうなんです。改めて自己紹介をしますと、僕はアルディオン・フォン・ブルグ・シンダリオンと申します」

「私は、ルミナリエール・フォン・ノイル・ミリナルオです」

 そう自己紹介をされて俺たちは驚愕した。

 何せ、シンダリオン家とミリナルオ家といえばこの国の公爵の爵位を持った大貴族の名前だったからだ。

「ま、マジか、えっと、その……」

 さすがの俺も相手が悪すぎる。ていうか今まで知らないとは言え調子に乗って話していたような気がする。

「す、すみません、今まで、気安く話を……」

 フィーナもすごい勢いで動揺して謝罪までしていた。

「い、いえ、そんな、やめてください、フィーナ様、ファルター様、私たちはそんな、お2人に頭を下げられるようなものではありません」

「いや、しかし、2人は大貴族だし、なぁ」

 俺はフィーナに同意を求めた。

「そ、そうですよ、私たちとじゃ、身分が違うし、ねぇ」

「あ、ああ」

「まぁ、確かに、僕たちはそれぞれ公爵家の人間ですけど、僕は七男で、ルミナは五女なんですよ。だから、あとを継ぐわけでもないし、ただ貴族の子供ってだけで僕たち自身には爵位はありませんから、お2人と同じ平民みたいなものなんです。それに、僕たちはお2人を尊敬していますから、ぜひ、今まで通りただのアルディとルミナとしてお付き合いいただきたいのです」

「えっと、、そういわれてもな」

 俺もさすがに困った。

「ぜひ、お願いします」

「うーん、まぁ、2人がそういうなら、なあ、フィーナ」

「うん、いいのかな」

「はい、ぜひ」

「……わかった、そういうことなら今まで通りの付き合いをさせてもらうよ」

「そうね、よろしくルミナ、アルディ」

「はい、お願いします」

 ここでアルディとルミナの2人は指輪を外して元の帰属に戻ってから俺たちに尋ねてきた。

「ところで、お2人はどうしてここへ?」

「ああ、いろいろあってな、家を買おうと思って。話を聞きに来たというわけだ」

「いろいろですか?」

 とここで2人が少し考えて恐る恐る言ってきた。

「あ、あの、もしかしたら、お2人は暗殺ギルドに……」

「なっ!!」

 アルディの指摘に俺たちは驚愕した。

「どうして、それを?」

「やっぱりですか、いや、お2人のご活躍なら、当然のことでしょうから」

「と、当然なの」

「はい、残念ながら、ですが、お2人がご無事で何よりです」

「ええ、それが一番です」

「まぁ、そういってくれるとありがたいけどな」

 とここでルミナが何かを思いついたような顔をした。

「あっ、でしたら、ちょうどよかった。ねぇ、アルディ、どうかな、お2人なら……」

「そうか、確かに、みんなも納得してくれるよ」

「そうよね」

 何やら2人で何かを解決したようで、俺にはよくわからなかった。

「なんの話だ」

「はい、実は、僕たちは今日、ルミナが使っていた屋敷を売りに来たんです」

「屋敷?」

「ええ、私が冒険者になるときお父様が立ててくださったものなのですが、この度私とアルディの婚約が決まりまして、今度からはアルディの屋敷で過ごすことになったのです」

「そこで、ルミナの屋敷を手放すことになりまして……」

「へぇ、それはおめでとう」

「おめでとう」

「ありがとうございます。そこで、私の中古ということで申し訳ありませんがいかがです」

「い、いや、いかがといわれてもな、屋敷って、しかも大貴族のだろ、そもそもいいのか、ただの冒険者がそんなところに住んで」

 俺は当然の疑問を投げかけた。

「それでしたら問題ありません」

 とここで今まで黙っていた不動産屋の店主が俺の疑問に答えた。

「どういうこと」

「はい、貴族の方たちは新しいものにこそ価値があると考えておりまして、中古となると価値はないものと考えるのです。そのため、たとえ貴族屋敷でも中古であれば平民も購入ができます。実際豪商などが貴族屋敷の中古をご購入されています」

 とのことだった。

「な、なるほどな、でもな、俺たち、2人だし、屋敷じゃ、広すぎないか」

「うん、お掃除とか大変そう」

「それでしたら、問題ありません」

「なんでだ、まさか、自動で掃除でもしてくれるものでもあるのか」

 俺は、前世での未来世界を考えた。

「いえ、そのような魔道具はありませんが、私が暮らしていた時にいた使用人たちがいます。実は、今回屋敷を売る際に一番の気がかりがそれでして、彼らには退職していただくしかなかったのですか。お2人なら、みなも喜んで引き続き勤めると思います」

「ん、なんでだ」

 俺はそこで首を傾げた。

「で、でも、お屋敷ってことは結構な値段よね」

「おお、そうだ、それだ。どうなんだ」

 俺は不動産屋に尋ねた。

「はい、こちらの物件ですと、24万フィリクです」

「24万っていうと……」

 24万フィリク、日本円にすると大体1200万ぐらいだ。日本の常識で考えるとかなり安い。

「24万か、一応、払えるけど、どうする、ファルター」

「そうだな、なぁ、もし普通の家だったらどのくらいなんだ」

 俺は相場を知るために通常物件の値段を尋ねてみた。

「そうですね、一般的な家屋ですと3万フィリクほどです」

「なるほど、となると通常の10倍ぐらいか、まぁ、貴族屋敷だしそんなもんか」

 それでも格安だと日本人の感覚の俺には思えた。

「一度見てみるのはいかがでしょうか」

 ここでチャンスと見たのか不動産屋がそう提案してきた。

「そうだな、そうするか」

「では、ご案内いたします」

 それから俺とフィーナ、アルディとルミナと不動産屋を伴って一路ルミナの屋敷に向かった。


「お嬢様、いかがなさいました」

 俺たちを迎えたのは中年の執事風の紳士だった。

 執事もまさか屋敷を売りに行ったルミナが戻ってくるとは思わなかったようだ。

「ええ、実は、さっそく屋敷が売れそうですので案内を」

「さっそくでございますか? それは、一体」

「こちらの方々です」

 そういってルミナは俺とフィーナを紹介した。

「そちらは、冒険者、ですか?」

「ええ、こちらのお2人はファルター様と、フィーナ様よ」

 ルミナが俺たちの名を言ったとたんそこにいた使用人たちが全員驚愕していた。

「そ、そちらの方々が、そ、それは、誠ですか? お嬢様」

「ええ、そうよ、私たちもまさか屋敷を売りに行ったお店でお2人に会えるとは思わなかったですけど」

「そうだね、あれは驚いたね」

「そ、そうですか……あ、あの、ファルター様、フィーナ様」

 執事風の男が今度は俺たちに向き直った。

「わたくしは、当屋敷で執事長などをさせていただいている。マドリスと申します」

 実に執事らしい丁寧なあいさつだった。

「えっと、ファルターだ」

「フィーナです」

 俺たちもそれぞれ自己紹介をした。

「実は、わたくし、お2人にはお会いしてぜひお礼とお詫びを差し上げたかったのです」

「お礼? お詫び? えっと、それって」

 フィーナが尋ねた。

「はい、まずは、ルミナリエールお嬢様とアルディオン様のお命を助けていただいたこと、そして、もう一つがわたくし共の故郷をお救い頂いたことです」

「故郷?」

「はい、これも運命でしょう、わたくしを含め、当屋敷に勤める使用人は全員、クリアルブ村の出身なのです」

 クリアルブ村、そこは俺とフィーナがワイバーンを討伐しに行って、何かの陰謀でドラゴン討伐をさせられた村だ。

「あ、あの村ですか」

「はい、聞けばお2人は、最初ワイバーン討伐ということで向かわれたとか、しかし、実際にはドラゴンだったとお聞きしております」

「ああ、確かに、あれはビビったよな」

「うん、死ぬかと思ったわよね」

 俺が冗談めかしてそういったが、使用人たちは少し青ざめていた。

「も、申し訳ありません」

 一斉に頭をものすごい勢いで下げ始めたから、焦ったのは俺たちだ。

「いや、いいって、あの村の村長にも行ったけど、あれは元をたどれば俺たちが原因だし、気にする必要はないって」

「しかし……」

 それでもみな頭を上げようとしなかった。

 これには俺もフィーナも困った。

 そこで俺はフィーナに目で合図をした。

「そうね、だったら、このお屋敷で私たちを助けてくれる」

「はい、誠心誠意お使いいたします」

「うん、よろしく」

「そうだな、よろしく」

「「「はっ、はい」」」

 一斉に返事をした。

「あ、あの、で、では、ファルター様……」

「ああ、ルミナ、ここ、買わせてもらうよ。この使用人たちも含めてな」

「ああ、ありがとうございます」

 こうして俺とフィーナはルミナが使っていた貴族屋敷を手に入れたのだった。

 ちなみに、あとで聞いたけど、執事長マドリスはクリアルブ村村長ミグルスの弟だそうだ。

 道理でなんかどこかで見たことあるような顔だと思った。

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