第10話 初めてのドラゴン
ドラゴン、前世の世界ではファンタジーに出てくる最強の存在。
それは、時には神の使いとして書かれている時もあった。
そして、それらは想像の産物で実在はしない。
しかし、この世界には実在する。
それも最強の魔物として。
その姿は日本や中国で伝わるいわゆる竜ではなく西洋やファンタジーで語られるドラゴンそのものだ。
俺の6代前の先祖がこのドラゴンを討伐したことは先述した通りだ。
そして、このドラゴン、大きく分けて3種類存在している。
それは、ドラゴンの中でも最強のドラゴンといわれている、エンシェントドラゴン、このドラゴンは人間には討伐は不可能とされている。その理由は神級の魔法でしかダメージを与えられないとい言うことがある。
人類史上においても伝説級が精いっぱいだろう、俺の先祖も数人だけがこの伝説級を使いこなしたという、たぶん浩平と一緒に魔王を倒したマグルはこの伝説級を使えたと思う。
あとは、6代前の先祖だろう、何せ、この先祖はエンシェントドラゴンの次に強いとされている属性龍を倒したといわれているからだ。
属性龍とは、その名のごとく地・水・火・風・聖・闇の6属性をつかさどるドラゴンのことで、それぞれ地龍、水龍、火龍、風龍、聖龍、闇龍となる。
ちなみに聖龍と書くとまるで神の使いみたいだが、属性が聖属性なだけの凶暴な魔物だ。
そして、この属性龍は伝説級でないと倒すことはできない、つまり、超級までしか扱えない俺では傷1つつけられないというわけだ。
最後がただドラゴンと呼ばれているものだ。
これはドラゴンの中でも最弱といわれ超級魔法なら一撃で倒せ、上級魔法でも傷を作ることができる。
つまり、人間でも討伐可能ということだ。
実際、冒険者の中にはドラゴン専門に討伐するドラゴンバスタ―と呼ばれる連中もおり、彼らはクランと呼ばれる数十から数百の大人数で活動をしている。
そんなドラゴンだが、生物学的観点からだと実はドラゴンも属性龍もエンシェントドラゴンも同一のものだったりする。
では何が違うのかというと、それは生きた年数の違いでしかない。
人間でいうと、ドラゴンは10代後半から20代前半ぐらいの若者(といっても数百年は生きている)、属性龍は20代後半から40代前半ぐらいの働き盛り(数千年生きている)、エンシェントドラゴンはそれ以降の老齢に差し掛かる(まぁ、ここまでくると数万年は生きていることになる)。
とまぁ、こんな風に出世魚みたいなものだ。
そして、今俺たちの目の前に現れたものは最弱といわれているドラゴンだった。
それにしても、かなりでかい全長20mぐらいありそうだった。
「グゴウゥゥォォオオオ」
俺がドラゴンを前に少し考え事をしているうちにドラゴンはけたたましい方向とともにブレスを吐いてきた。
ドラゴンのブレスは高熱を発しながら俺とフィーナに迫ってきた。
「い、いきなりかよ」
俺はとっさに熱攻撃を防ぐために、風魔法と水魔法を組み合わせて防壁を張った。
しかし、当然それだけじゃ完全に防ぐことはできなかった。
それでも多少は時間が稼げたので、そのすきに風魔法を応用した飛翔魔法でその場を離脱し、何とかブレス被害を受けずに済んだ。
「ふぅ、あっぶねぇ」
俺は冷や汗をかきながらフィーナを探した。
するとドラゴンの上空にいた、しかも何やら急降下しながらドラゴンの首筋にかかとを落とそうとしているようだった。
そして……
「グギャァァアア」
そんな叫び声をあげながらドラゴンが地響きとともに地に落ちた。
「……」
俺が絶句しながら見ているとフィーナは俺の隣に降りてきた。
「どうして、ドラゴンが出てきたのよ」
「俺に言われてもな、あとで村長に確認する必要があるよなぁ」
「うん、問い詰めなきゃね」
フィーナはそう笑顔で言ってきた。
「さてと、相手はドラゴン、いくら俺たちでも長期戦はきついからな。さっさと決めるぞ」
「わかった、時間稼ぎは任せて」
そういいつつフィーナがドラゴンに向かって一気に走り出した。
「任せた」
俺はそういってから魔力をため始めた。
この世界の魔法には階級があることは以前にも説明したが、自身が使える最大階級以下の魔法は魔力をためなくてもすぐに使うことができる。
しかし、最大階級の魔法を使うときは魔力をためる必要があるという法則がある。
つまり、俺の場合、最大階級は超級だから、上級魔法まではすぐに放つことができるが、超級魔法を放つには魔力をためなければ打つことができないということだ。
そして、今俺はドラゴンを短期決戦で倒そうとしているので当然超級を使おうと思っている、フィーナもそれを察して俺が魔力をためている間の時間稼ぎを買ってくれたのだ。
俺が魔力をためていたのはほんの数分、その間フィーナはドラゴンに肉弾戦で挑んでいた。
その姿はとんでもないもので、その光景を見た俺は絶句とともにフィーナを怒らせるのだけは絶対にしてはならないと心に誓った。
「フィーナ」
魔力をため終えた俺はフィーナの名前を叫んだ。
するとフィーナがすぐに俺の隣に飛んできた。
それを確認した俺はすかさず風系超級魔法『ストームバースト』を放った。
ストームバーストとは、嵐が吹き荒れ、複数の巨大な竜巻が対象を飲み込む、その時一緒に巻き込んだ石などで打撃を与え、渦巻く風が鋭い刃となり対象を切り刻むという恐ろしい魔法だ。
数分後、魔法が収まると切り刻まれバラバラにされたドラゴンが次々に落下してきた。
「……お、終わったの」
俺の隣にいたフィーナが恐る恐る俺に聞いてきた。
「……あ、ああ、そうみたいだ」
こうして俺たちの初めてのドラゴン討伐は終わったのだった。
「ふぅ、マジで死ぬかと思った」
「うん、ほんとに、あのブレスはやばかったよね」
「ああ、まさか、俺の防壁がほとんど通じないとは思はなかった」
「それに、うろこがものすごく硬い、攻撃した手が痛い」
そういってフィーナは俺に手を見せてきたが、それはブースターに守られているにも関わらず真っ赤になっていた。
「真っ赤だな。今、魔力枯渇しているから回復したら回復魔法かけてやるよ」
「うん、ありがと、それで、どうする、これってあれだよね」
「虚偽依頼ってやつだな」
虚偽依頼というのはギルドに出している依頼と実際の内容が一致していない、ということを依頼人が分かったうえで行ったことだ。
これは、依頼を出すとき依頼料を支払うわけだが、内容や冒険者のランクにより料金が増えるということから、低ランクの冒険者に出るように内容をごまかすことだ。
といってもこれはかなり悪質なものということで国の法律で罰せられることでもある。
そして、今回は一番、最悪なパターンだ。何せドラゴン討伐という本来なら数10人以上の集団でおこなわなければならない討伐を指名として俺とフィーナというたった2人のパーティーに出したということだ。
今回は下級のドラゴンだったことと、俺が超級を使えたことで何とか討伐できたが、本来なら俺とフィーナはドラゴンに殺されてもおかしくなかった。
しかし、ここで疑問がある。
それが何かというと今回の虚偽依頼を出したクリアルブ村村長にはデメリットしかないということだ。
「でも、何か裏がありそうだよね」
「ああ、もう少し休んだら村に戻って村長に詳しく聞く必要があるな」
「うん」
それから俺たちは休んでから一路村に戻った。
村に戻ったところで村人は驚愕に固まっていた。
どうやら村人も俺たちがドラゴンにやられると思っていたようだった。
そんな村を突っ切り村長宅に向かった。
「も、申し訳ありません」
俺たちを見るなり村長は真っ青な顔をしながらきれいな土下座を敢行した。
「まず、どういうことか説明をしてもらいたいんだけど」
俺は強い態度で村長に詰め寄った。
「は、はい、じ、実はその……」
村長のしどろもどろな説明によると、最初はドラゴン討伐で依頼を出したそうだ。
しかし、調査に来た別の冒険者がワイバーンに変更と俺とフィーナを指名するようにと強要してきたということだ。
しかも、それはある貴族の命令だといわれ平民でしかない村長も村人も従うしかなかったということだった。
「……それを、信じろと」
「は、はい、し、信じて頂くしかありません、ど、どうか、お許しを……」
そういいながらさらに額を床にこすりつけていた。
当然だろう、もしこのことが露見したら村長はおろか村自体がやばいからな。
「ふぅ、そういうことか、となると、仕組んだのは」
「あいつらかな」
「だろうな、といっても証拠がなさそうだけど」
「それが、問題よね」
「あ、あの……」
俺たちの会話を聞いた村長が恐る恐る尋ねてきた。
「ああ、悪い、たぶん村長、この村は俺たちのトラブルに巻き込まれたんだと思う」
「そ、それは、どういうことですか?」
「まぁ、気にしなくていいよ、というわけだから、今回のことは最初のドラゴン討伐を俺たちが受けたってことにするさ」
「えっ、ですが……」
「いいって」
「よろしいのですか」
「ああ」
「そうですよ。村長さんは悪くないですからね」
俺たちがそういうと村長はものすごくほっとしていた。
俺たちがこの村長を信じた理由は簡単だ。
上森には様々な技がある、その中には相手の嘘を見破る技術も含まれている。
それにより、村長が嘘を言っていない、ということを見抜いていたからだった。
そのあと、村長と村人たちの計らいにより感謝の宴が行われ大いに盛り上がった。
そして、その日は村長の家に泊まらせてもらい、次の日セルミナルクに戻ることにした。
「……はぁ、マジかよ。ドラゴンって、お前ら、よく無事だったな」
「まぁ、結構危なかったけど、何とか、それで、調査に行った冒険者はどんな奴なんです」
セルミナルクに戻った俺たちは、さっそくギルド長と面会していた。
「それが、わからない、何せこの調査をしたのは貴族ギルドでな。おまらに指名ってことで回ってきたものなんだよ。一応、確認してみるが期待はするなよ」
そうだろうと思った。
今回調査を行ったという冒険者は平民だった。しかし、どうやらこの冒険者は貴族ギルドに所属する冒険者だったようだ。
通常、この国では平民は平民ギルドに貴族は貴族ギルドに所属する。
しかし、平民の中でも貴族に仕える者たちは貴族ギルドに所属することになっている。
そして、平民ギルドは貴族ギルドの配下となる。そのため調査を行った冒険者はおそらくわからないだろうということだった。
何せ、この問題はかなり悪列なので、さすがにその平民の上司でもある貴族も処罰は免れない、下手したら改易なんてこともあり得るからだ。
「そうか、まぁ、いいさ、大体誰かは見当がついているし」
「そうなのか」
ギルド長はさすがに驚いていた。
「ああ、でも、今はただの推測だから言えないけど、そのうち確信があったら言いますよ」
「頼むぞ。それで、クリアルブ村についてはこれでいいのか」
ギルド長は俺たちの村についての処置について尋ねてきた。
「あの村も被害者だし、嘘を言っていないということは俺とフィーナで確認済みだし、問題ないですよ。ああ、でも、村長はあの後さすがに引退して息子さんに継がせるそうですよ」
「まぁ、妥当だろうな」
「ええ、ま、というわけで俺たちはこれで……」
「ああ、すまんな」
こうして俺とフィーナの初めてのドラゴン討伐は終わりを遂げた。




