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感想などなど、お待ちしています。
昨日に引き続き、今日も空は晴れ渡っていた。
朝食は、昨日のスープに固パンを入れて一緒に温めた物。肉も少し食べたかったので、薄く切ったサラミもその中に放り込んでおいた。
「今日は何をしようか?」
まるで今から遊びに行く子供のように、マリアは腰に手を当てて言った。
「今日は、家づくりをしようと思う」
人が生きていく上で必要な物は、衣食住。服は今着ている物の他に何着か持ってきているし、食料も少しの間、大丈夫だ。つまり、喫緊の問題は住居のみとなる。
「家! さっそく家を建てるのね!」
昨日の話し合いというには簡単すぎる未来への展望では、まずはここに住むことになっている。
そして、飽きたら旅に出る。いくつか国や大陸を渡り歩き、終の住処は旅をする中で気に入った土地にする、ということだ。
「あまり凝ったものは作れないが、マリアはどんな家に住みたいんだ?」
まずは木組みの家になるだろう。というか、周囲の材料を見ればそれしか考えられない。
「えーとねー。やっぱり、小さい家がいいかな?」
「どれくらい?」
「小さいといっても、キッチンが無いと料理が出来ないからカマドは欲しいし、それに併設して食事をするところ。それと寝室と……もう一つくらい部屋が欲しいかな?」
つまり、ごく一般的な家屋ということだ。違うところは、農耕用の馬を飼うための馬房がないことくらいか。
「部屋の広さは、どれくらいがいいだろうか?」
「なるべく、小さ目でいいわ。無理しなくて良いから!」
「さっきも言った通り凝ったものは作れないが、きちんとした家を建てるつもりだから、そんな小さい物にこだわらなくてもいいんだぞ?」
確かに、家づくりは初めてだけどそれなりに調べてきた。今は平屋しか建てることが出来ないが、時間をかければ二階建ての家も建てることができると思う。
マリアからの信頼が余りないことに少々ショックを受けていると、マリアが慌てた様子で弁解をした。
「ちっ、違うの。あの、できたら、相手が――好きな人が、目の届くところに居て欲しい……。それに、数歩進めば手の届くところに居て欲しいし……」
必死で言葉を紡いだマリアは、言い終わると顔を真っ赤にしてうつむいた。
俺はというと、照れるよりも先に嬉しくなってしまい、飛び上がらないようにするのが精いっぱいだった。
だって、ただの幼馴染だからという理由で、この世界に共に連れて来たわけではない。好きじゃない限り、命を使ってまで異世界へ転移しようと思わないからだ。
色々とあってなあなあでここまで来てしまったけど、マリアからさりげなくだが「好きな人」と言われたのだ。飛び上がりたくなって当然だ。
「そうだな。俺も、好きな人が近くに居てくれた方が安心だし」
すまし顔で言ったが、言われるのと言うのとではこれほど違うのか、と驚いてしまうほど心臓がバクバク鳴っている。
これが魔王か。なんと情けない魔王だろうか。
「よっ、よし! じゃぁ、早速材料の切り出しから始めるか」
材料となる木は、周りにたくさんある。家を建てる以外にも、井戸も掘らないといけないし、畑も作りたいので、結構な範囲の木々を伐採しなければいけない。
そこで問題になるのが、木を切るための刃物だ。木こりが斧を使うように、俺も木を切るための道具が必要となる。
そこで武器庫から取り出したのは、蝙蝠鎌と呼ばれているコウモリの羽のように刃が強く湾曲した大鎌だ。
魔王城の宝物庫に並べられるほどに強力な武器で、その切れ味も一級品だ。加護が無い人間であれば、体の一部を傷つけられただけでも即死する効果を持つ。
「危ないから離れていろよ」
周りの木は、意外と太い。倒れる方向は調整するつもりだけど、いかんせん慣れていないのでどんなことが起きるか分からない。
近くにマリアがいないことを確認すると、蝙蝠鎌を大きく振るい木を切り倒した。
バキバキ、と雷鳴が轟くような音を響かせながら、大木は地面へと倒れていった。
「すごい。一発だね」
「あぁ、まかしとけ」
自分でも、意外と上手くいったことに驚いていた。これなら必要分がすぐに切り出せるだろう。
「あれっ?」
しかし、そんな甘い考えは脆くも崩れ去った。
切り倒したばかりの木に、ある現象が起きた。それを見たマリアは、驚きの声をあげると共に、今倒した木を指さす。
そちらを見ると、今倒したばかりだというのに木から急激に水分が抜け、表皮は痛みボロボロになり、最終的には朽ち木になってしまった。
「なんだこれ!?」
予想外の出来事に、俺もマリアと同じように驚きの声を上げた。
どうなっているんだ、これは!?
「なんでこんなことに……?」
この世界では、俺たちが居た世界とは理が違うのだろうか?
だとしたら、俺たちが今まで使ってきた魔法では太刀打ちできない何かが居るかもしれない。だとしたら、旅も危険なものになるだろう。
「いや。っていうかさ……」
旅について再考の余地があるな、と悩む俺をよそに、マリアは俺が持つ物を指さした。
「それって蝙蝠鎌だよね?」
「あぁ、そうだ。これが一番切りやすい形をしているからな」
「蝙蝠鎌って、付属効果に『即死』がなかったっけ?」
「ある。おかげで、集団戦には不向きで使いどころが難しい武器だった」
この武器は、俺たちが小さい頃からあったのでマリアも知っているはずだ。能力については、いまさら聞くこともない。
「蝙蝠鎌より下位の存在に対し、即死の効果があるんだよね? なら、木が蝙蝠鎌よりも下位ってだけなんじゃ……」
「まさかぁ」
即死効果は人間にしか現れないはずだ。だから、マリアがそう予想してもにわかに信じられなかった。
なので、物は試しと近くにあった木に蝙蝠鎌の先を刺してみた。
すると、数十秒もしない内に、蝙蝠鎌を刺した木が、先ほど切り倒した木と同じように萎れ、朽ちていった。
「初めて知った」
自分が持つ武器が、木の命も刈り取れるとは……。
「そもそも、歴代魔王の武器を使って木を切る人なんて居ないだろうしね」
マリアが呆れたような、感心したような声色で呟いた。
「確かに、その通り」
つまり、俺がその魔王となったのだ。これは後世に伝えるべき案件ではなかろうか?
次話は、午後10時に投稿します。




