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魔王と勇者の異世界生活録  作者: いぬぶくろ
田舎の村(お前が言うな)
13/29

「ヒョイ! あんた、何してんの!?」


 道がない森の中から現れた俺たちを見て、ヒョイの母親くらいの年齢(ねんれい)の女性が(おどろ)いたように声を上げた。


「こんにちは。彼のお母さんですか?」

「違うよ。この人は、お母さんの姉さんだよ」


 俺の問いに、ヒョイが訂正(ていせい)をいれてきた。

 似た雰囲気があったので、年齢と相まって母親かと思ったが血縁者(けつえんしゃ)というだけで母親ではなかったようだ。

 間違えたことを謝罪(しゃざい)すると、ヒョイの母親と似ているとよく言われるようで、特に気にした様子もなかった。


「それで、この子はどうしたんですか?」

「森の中でゴブリンに(おそ)われて怪我(けが)をしたので、大事をとって背負ってきただけです」


 傷はすでに完治している。背中からヒョイを下ろして地面に立たせると、(あら)わになった腹部の傷跡(きずあと)――血痕(けっこん)を見てヒョイのおばさんが悲鳴を上げた。


「先ほども言った通り、すでに治っているのでご安心ください」


 とは言っても、子供が怪我をして帰ってきたら心配するだろう。それが、ゴブリンによるものならなおさら。

 しかも、ヒョイのおばさんの悲鳴を聞いた村人が、「何だ、何だ」といった様子で寄って(たか)って来た。


「ルエミール、何かあったのか?」

「あ、あぁ、あんた! 森にゴブリンが出たってさ。それで、妹のところのヒョイが怪我をしたって!」

「何だと!?」


 治っているとさっきから言っているのに、肝心(かんじん)の部分を話さないから、ヒョイがもみくちゃにされている。

 怪我をして破れたところを(めく)りあげられ、傷がないことを確かめると近寄って来た村人は、ホッ、と安堵(あんど)の息を()いた。


「しかし、ゴブリンか。面倒(めんどう)くさいことになったな」


 ヒョイのおばさんの旦那だと思われる男性は、ゴワゴワと(たくわ)えられた(ひげ)を触りながら困ったように(うなず)く。


「あんたたちは、ゴブリンを見たのか? いや、そもそもあんたらは誰だ?」


 今気づきました、と言わんばかりに、ヒョイのおじさんは俺たちを見て聞いてきた。


「森の中でヒョイの悲鳴を聞き、助けた者です」

「おぉ、そうか! 今、ヒョイの親を呼んでいるがまず俺から礼を言わせてくれ。ありがとう」

「いえ。それと、ヒョイを(おそ)っていたゴブリンは全て倒しました」


 その言葉に、ヒョイのおじさんは目を丸くして、大型の犬の鳴き声のように大きな声で笑いだした。


「ワッハッハッハッハッ!! そうか、そうか! 怪我をしたヒョイを治療(ちりょう)して連れてきてくれた上に、ゴブリンまで! それは、本当にありがたい!」


 そして、再び大声で笑いだすヒョイのおじさん。煩すぎて、耳がやられそうだ。


「ヒョイ!」


 人垣(ひとがき)をかき分けて、二人の男女が現れた。女性の方はヒョイのおばさんに似ているとこから、これがヒョイの両親だとすぐに分かった。


「お前は何をしているんだ! 怪我をしたって本当か!?」

「うん。でも、お姉さんが怪我を治してくれたんだ」


 血に()まる服の下。腹をさすって傷がないことを確かめると、両親そろってマリアに(・・・・)頭を下げた。


「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」


 まぁ、こういったことは昔から多々あったからな。今さら何も言うまい。


「森に現れたゴブリンは、この兄ちゃんがやってくれたらしい。イゾータはこの兄ちゃんにも感謝(かんしゃ)しないといかんぞ」


 俺の心境(しんきょう)(さっ)したわけではないだろうが、ヒョイのおじさんはヒョイの父親(イゾータ)に伝えた。

 イゾータは――というかヒョイの両親はマリアの時と同じように、深く感謝の意を伝えてきた。


「それで、二人とも見ない顔だが、この村に何か用かね?」


 ヒョイを助けたこととこれは別だ、と言わんばかりに、不躾(ぶしつけ)にならない程度の視線の強さで、ヒョイのおじさんは聞いてきた。


「私たち二人は旅の途中でして、今は森の奥で一休みしている最中(さいちゅう)です。そこで少しの間ですが暮らす予定なので、必要な物を分けていただけないかと()らせていただいたしだいです」


 詳しい場所は()せ、事実だけを言った。

 「森の奥に人が暮らせるようなところがあったか」「そもそも、道のない森をわざわざ走破(そうは)するような旅とは一体なんぞや」といった声にならない声が村人たちから伝わって来た。


「そっちのお姉さんも、この森の奥で暮らしているんか?」

「私? 私は、彼と一緒だったらどこでもいいですよ。ただ、最初に住みたいと思ったのが森の奥だったってだけで」


 屈託(くったく)のない笑顔で、若干(じゃっかん)惚気(のろけ)を感じさせる裏の無い言葉に、村人数人が苦虫を()(つぶ)したような顔つきになった。

 「嘘をつけ」と(うたが)っているのではなく、ただの(ねた)みの(たぐい)から出た顔だろう。


「そうか、そうか。いや、すまんな。森の奥は(あぶ)ないうえ、住む奴なんか犯罪者の類しかいないだろうから、我々も警戒(けいかい)せずにはいられないんだよ」

「私たちは信じていただいて問題ないですよ」

「その通りのようだな」


次話は、本日13時ころを予定しています

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