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村へは朝食を済ませてから向かうことになった。
歩くなら夜明けと共に出発した方が良いのではないか、と思ったが、マリアから「飛行魔法で行けばいいじゃない」とのお達しがあり、この時間の出発となった。
今さら感があるが、もう魔法制限の生活はいいのか、と問うたところ、マリアは焦りながら「道！ 道がないじゃない！ 仕方がないよ！」と答えた。
こりゃ、忘れていたな。
だから飛行魔法を使って村へ行くことになったのだが、村の中心へ降り立つと色々と問題が起きるので、一目がない森の中でいったん降りてから村へ向かうことになった。
服装は、旅人が森の奥に住み始めた、という設定のため旅装に剣を一本帯び、背中には大きめのリュックという簡単な格好だ。
ただし、マリアの美しい金糸はどこでも映えるのでフード付きの――この間、プレゼントした外套をかぶっている。
女性は色々と狙われやすいので、これも旅装として正しい。
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「そういえば、俺と別れてからどこで過ごしていたんだ？」
森の中に降りてから村まで歩いている途中、話すことが無くなったのでそんなことを聞いた。
マリアとは１１歳の頃に離れて暮らすようになった。理由は聞かされなかったが、大魔法使いの判断だったはずだ。
「ゴインス共和国のピケってところに最初に行ったわ。白煉瓦を使って建てられた家がたくさん並んで、毎日雪が積もったみたいな風景の町よ」
初めて聞く町の風景だ。たぶん、俺の軍が支配どころか戦闘も起こしていない、前線からとても遠い町なんだろう。
「それは素敵な町だな。雪が積もったみたいに見える白煉瓦か。漆喰とはまだ違った感じなんだろうな」
雪のように白く美しい城や屋敷は色々と多く見てきたが、それらは漆喰で塗り固められたもものだ。
オーナメントなどで飾りつけがされていないと、全体的にのっぺりとした印象になってしまう。
それに、汚れや目立ってしまうので定期的な掃除とメンテナンスが大切で、維持費が凄いと聞いている。
「その後は、エールスペン騎士訓練校に行って戦う技術を身に着けていたわ。そこで勇者としての素質を見出されて今に至るわ」
エールスペン騎士訓練校はよく聞く名だ。優秀な騎士を輩出――というか、優秀な人間だけを集めて、さらに戦闘技術のエリートに仕上げて世に送り出す学校だ。
うちの部隊が壊滅や、前線が巻き返されたという報告が来ると、だいたいこの学校の出身騎士が居た。頭を抱えさせられた、忌むべき名だ。
「セシルは、今までどこに居たの？」
「いや、まぁ、魔界だな」
質問が悪すぎるだろう。マリアは出ていったが、俺は変わらず同じ場所に住んでいた。
「何で魔王になろうと思ったのよ？」
「先代魔王からの命令さ。『今後は、お前が魔界を導いていけ』ってね」
「魔王って、そのとき力が一番強くて求心力がある魔人がなるんでしょ？ 先代の魔王が決めたからって、なれるわけじゃないわよね？」
「そうだよ」
初めは、俺の名前は候補に挙がっていなかった。俺なんか、どれだけ頑張っても四天王の側近か直轄の部下だ。
しかし、そこは先代魔王。何も考えずに俺に命令したわけじゃない。
自分の宰相を俺に付け、後ろ盾を擁立し、大魔法使いと共に研究をしていた〝魔力解放〟を完成させ、力でも他の上位魔人たちと肩を並べられるところまで引き上げてくれた。
なぜそこまでしてくれたのか分からないが、人間との戦いいが激化していく中で、人間の思考をトレースできた俺は非常に重宝された。
つまり、魔王として相応しい力を発揮したわけだ。
激化していく戦場で、魔王として完成した俺と、勇者として完成したマリアが出合い今に至る。運命とはなんと数奇な物か。
「でも、セシルが魔王で良かったわ」
「何でだ？」
「だって、魔王城で下働きだったら戦争が終わるまで会えなかったし、中途半端に強かったら戦場で死んでいたのかもしれないじゃない」
「あぁ、なるほど」
俺もそれを考えていた。大魔法使いが付いているから、よほどのことがない限りマリアが戦場に来ることはないと思っていた。
しかし、平民であれば襲った村や町にたまたま居た可能性もある。さすがに一人の人間を、戦いながら探すのは困難だ。
一応、襲撃前には仲間に偵察という名目で魔力計測やってもらい、そこにマリアが居ないということを確信してから襲ってもらっていたが……。
「なんにしても、今はこうして一緒に居られるんだ」
自分から話を振っておいてあれだが、色々と思い出さない方がいことも思い出してしまった。そんなもん、さっさと記憶の奥底にしまったほうが良い。
次話は、午後１１時ころに投稿します。
