点火
戦争をテーマにした物語です。
人の死などの描写が出てきます。ご了承ください。
廃れた町並みを3台のトラックが列をなして進む。かつては賑わっていたであろうストリートにも人影はない。
道端に落ちた小さな瓦礫を踏んで車体が跳ねた。幌の付いた荷台には、計8名で構成された一個分隊が、無言でその時を待っていた。
幌の隙間からは燦々と照りつける太陽が射し込む、虚空に舞う砂埃がキラキラと輝いて見える。
遠くで銃声が響いた。
先遣隊がすでに交戦を始めたらしい。
運転席に乗っている上官が荷台の窓ガラスをガンッと叩く。到着の合図だ。
荷台に乗った兵士たちは、各々銃器を肩に担ぎ上げた。
トラックの速度が落ちる。
「今だ行けッ!!」
ゆっくりと走り続けるトラックから、上官の命令とともに外に飛び出す。
「行け行け行けッ! これ以上前線を下げるなッ! オルラルの奴らを返り討ちにしてやれッ!!」
3台のトラックから、それぞれ分隊が戦場へと駆け出してゆく。
その兵士たちの姿はどれも、まだ未発達な体躯をした年端もゆかぬ少年たちであった。
「B区画が圧されてる。ウジルっ、お前の隊はそっちに向かえ!」
ウジルは先頭の車両に乗っていた小隊長と目配せをして頷き、自分の分隊を引き連れB区画へと向かう。
両手で持つ銃器は、重く冷たい。人間を殺すために人間が作った武器だ。
ガチャガチャと鳴る金具の音が耳障りだった。
「みんなっ、安全装置を解除しておけ。近いぞっ!」
鉄筋コンクリートで建築された建物の壁際を縫うように走り、ウジルは分隊の仲間に指示を飛ばす。
その際、口の中へ入った砂埃を唾液と一緒に吐き出す。粘ついた唾液はウジルの頬に張り付いてしまったが彼は気にしなかった。
B区画に入ったウジルたちは目を疑った。
戦線はすでに崩壊、大国オルラルの兵士が数多く乗り込んで来ていた。
「銃声が聴こえる。急ごう、まだ仲間が戦っているぞっ!」
「駄目だラシオ、僕たちは後退して2ブロック後方で新に前線を敷きなおす」
「おい、ウジル、前線を下げるってのか? 馬鹿言ってんじゃねー、仲間はまだ戦ってるんだ。俺たちも加わってB区画からオルラルの兵を追い出せばいい」
「────っ! うるさいぞラシオ、僕が分隊長だ。僕の指示に従え!」
ラシオは舌打ちをして押し黙った。
ウジルの指示はこの戦況を冷静に判断した結果だった。
(仲間にはすまないが、この人数で戦況をひっくり返すのは無理だ)
戦場において冷静さを失うことは死を意味する。
彼がアンバー・ピューポルで学んだことの一つであった。
分隊長として、ウジルは隊員の一人であるガレムに本部へ救援を求めるように走らせる。
まだ9歳のその少年の後ろ姿を見て、彼はこの不条理な世界を恨んだ。
皮肉なことにガレムを拉致し、兵に仕立てたのはウジルであった。
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ウジルやラシオが暮らしていた村が襲われたのは2年前、ウジルら12歳のときである。
「ウジルっ! 急げ、逃げるぞっ!」
血相を変えて畑から家に戻った父親は、そう言ってウジルの腕を掴んだ。
引きずられるように家を飛び出しひたすらに走った。腕を握る父親の力は強く、指先が赤く鬱血する。
その力強さをウジルは今でも容易に思い出すことができる。
湿気の多い曇り空の日だった。
村を襲った敵はアンバー・ピューポルを名乗るドラント人、ウジルと同じ国の人間である。
銃器を手にした大人たちの中に、同じ銃器を持つ年端もゆかぬ少年の姿をウジルは見た。
彼らは大国オルラルから国を守ることを大義名分とし、食料や金品を奪った。
大人も子供も一様に捕らえられ、抵抗する者はその場で殺される。
すぐ隣で射殺された父親の血がウジルに飛び、彼の頬を赤く染めた。
頬を伝う父の血液は生暖かい、そのリアルさがウジルを混沌へと落としていく。血がにおう。最後の呻きが耳朶に残った。
捕らえられた大人たちは、ブエルト山脈の中腹に連れていかれ、奴隷として使われる。レアメタルの採掘作業を永遠とさせ続けられるのだ。
ドラントでは数年前にレアメタルの採掘場が発見され、世界屈指のレアメタル産出国となっている。
現在起こっているオルラルとの戦争は、この権利を巡ってのものだった。
かつてドラントの象徴とされ国民に愛されたブエルト山脈は、奴隷とされた人々にとってまさに諸悪の根元だった。
大人たちが奴隷として使われる一方、子供たちは兵士として育てられる。
大人よりも力の劣る彼らが兵士として使われるのは、まだ成長しきっておらず頭が空っぽなため、扱い易いという理由からだった。
反乱を起こしても大人ほど脅威にならないという理由も多少なりともあったのだろう。
ウジルもまた、他の子らとともに兵士としての教育を受ける。
教育と言ってもその大半は、上下関係、つまり大人の兵士に逆らわないように服従させるのが目的のものだ。
服従しない者には、奴隷たちが拷問、処刑されるのを間近で見せ、また彼らにも奴隷を殺すように命じた。
拒絶する子供らに対し、さもなくばお前を殺すと銃口を向け恐怖を煽った。
そのあまりに厳しく悲惨な教育は、すでに教育とは呼べず、洗脳の部類に属している。
繰り返される洗脳の中で、まだ未発達の少年たちは人格すらも変わり、大人の兵士が望む従順な少年兵士となっていった。