目の前にある風景
何も変わらないことを退屈だと感じ、一方で、何かが変わることを恐れている。あぁ、こうして毎日が過ぎていくんだと、僕は、電車の窓から見える工場の煙を見ながらため息をついた。
日本史を専攻する僕は、通学に一時間かけて大学に通っている。それなりの成績だった高校時代、実家から通える範囲のところをという親の意見もあり、いくつか受験した中で今の大学だけ受かった。親は二人とも教師で、僕の成績のことはそこまで口うるさく言わなかったものの、生活態度にはとても厳しかった。「相手に迷惑をかけないようにね」と、まるで呪文のように言われたものだ。
僕が日本史を専攻しようと思ったのには僕のおばあちゃんの影響がある。幼稚園に通っていた頃、たまに遊びに行くおばあちゃんの家ではよくテレビで時代劇をつけていた。ちょんまげとか刀とか、当時はそういうものが真新しくて、なんてかっこいいんだと思った記憶がある。今思えば、これが結構影響していたに違いない。博物館や歴史館に行って展示品を見たり、ネットで調べて史跡なんかに行ってみたり。「昔はこんなふうだったんだなぁ」と、当時のことを想像してみては胸を弾ませる。
―次は海洋公園前、海洋公園前―
電車に揺られる。時は進んでいく。
試験期間もあと少し、これが終われば、夏休みだ。
海洋公園は僕の好きな場所だ。小さい頃に家族で何回か来たことはあったけれど、きっとその時とは違う価値観で今は好きなんだと思う。海が見えると、僕は太陽のことを考える。いつか太陽が地球を飲み込んでしまう日のことを想像する。その日、本当に何もかもなくなってしまうのだろうか。その時僕は、いや、僕の子孫は何を思っているんだろうか。
「龍介、明日の試験終わりに遊びに行かない?」と、慎二が言った。慎二は同じ学科で、見た目がチャラくてうちの学科ではとても目立つ。
「遊びに行くったって、またいつもの店でしょ?」
「わかってんじゃねぇか。俺あそこ好きなんだよ」
慎二は見た目に反して中身はオタク。はまったらとことんのタイプらしく、何度も同じ店に通い詰めている。その店は大学から電車で二駅先の繁華街の路地にある怪しげな店で、戦闘機マニア御用達のフィギュア専門店だ。僕も初めて連れられて行った時は驚いたのだが、世の中には僕の知らないこともたくさんあるんだなと思った。