#1:学校の帰り道
図書室が好きだ。
古い本の香りに包まれていたい。
そんな想いで図書委員になった_______私、三日月 愛子。
「まったく・・・本が好きなわけでもないのに」
後ろから不意打ちでコツンと叩かれる。
「・・・・・痛い」
後頭部を軽く撫でて、私は振り返った。
「図書室・・・少し怒った 先輩が 本を片手に 仁王立ち也」
思わず口から出てきた言葉。
・・・何故か、短歌?
如月先輩は深く溜息をついた。
「あのなぁ・・・なんで怒ってるか、分かってるか?」
「・・・えっと・・・あ、もう外暗くなってますよ・・・あ、もうこんな時間?」
この前の誕生日に親に買ってもらったお気に入りの腕時計に目をやる。
「・・・三日月!図書委員なのに、こんな時間までグウグウと図書室で眠りこけるってどういうつもりだ?」
如月先輩の口調が・・・本当に怒ってる。
・・・怖い。
如月先輩って、図書委員になった理由がわからない。
怒りっぽく、喧嘩っ早い・・・そして私同様、本が好きなわけでもないのに。
私は無言でうつむくしかなかった。
「しかも寝惚けて・・・なんか短歌っぽいの言ってるし!」
変なやつ______そう言って如月先輩はプッと笑った。
良かった・・・笑うと可愛い感じで、とっつきやすい人なんだ。
「如月先輩、すいませんでした。私・・・いつの間にか寝てしまって・・・」
「もういいよ。今後、委員の仕事はサボんないよう気をつけろよ。
・・・じゃ、もうカギかけて帰るぞ!」
如月先輩と私は本日の当番だった。
すでに他の生徒の姿なく、本の整理も先輩がしてくれてあった。
つまり、先輩の言うとおり私は委員の仕事をサボったわけだ。
途端に私は申し訳ない気持ちになり、せめて・・・せめて鍵を返すことくらいは一人でやると言った。
「いいよ。俺、先輩だし。カギの取り扱い責任は俺の方にあるはずだ。
それにさ・・・アレ、嫌じゃねぇ?」
「アレ?」
「カギとか重要な物って、キチンと返したつもりでも後になって『え、本当に返したかな?』って不安になってくるヤツ!」
「・・・ああ。強迫観念ですね!」
「・・・そうだっけ?脅迫?・・・なんか怖いだろ。だから俺が返しておく!」
「でも・・・。じゃ、二人で返しに行きましょう」
そして私達は鍵を返しに行ったついでに途中まで一緒に帰ることになった。
案外、如月先輩は話の面白い人で楽しい下校時間だった。
あの時までは____________
他愛ない話をしていた時だった。
そう、数学教師の頭は鬘だとか・・・英語教師は化粧が濃いとかいう話題だった。
ざざざざざっ
ざざざざざ・・・
暗い空を覆っていた何かが大きく動いた・・・気がした。
「風が強いな・・・」
先輩はそう言って空を見上げた。
つられて私も見上げる。
ざざざざざっ
薄黒い雲の中で二つ光るものを見つけた。
飛行機?
ギョロ
二つ光るものは大きな目だった。
はるか上空から此方を見ていた。
声が・・・出ない。
「・・・三日月っ大丈夫か!?」
如月先輩が大きく私を揺さぶる。
「先輩っ・・・空っ!」
私は上空の目を指差した_______しかし目などなかった。
「目の・・・錯覚?」
「三日月・・・お前・・・疲れてんだよ、きっと」
心配そうな先輩は、その日私を家まで送ってくれた。
_______________それがはじまりだった。