099
ズイーバーはロゼを倒した錬金術師だ。
こうして向かい合うと、灰色のローブのズイーバーは装備が全て優秀だ。
ミョミルハンマー自体最強のハンマーだし、手につけている黒い小手は強化魔法の時間を上げるものだ。
これもレア度が高い。だけど一番レア度が高いのはあの灰色のフードだ。
「ブラウなら、バイスのほうが良かったかな?」
「それはあるかもな」
そう言いながらも、すぐさまズイーバーは僕に向かってきた。
「相手が妖術師だとこれしかないからね、しかもブラウは弱体のスペシャリスト」
「警戒しているか」
僕に魔法を使わせないように、ズイーバーが攻撃を加えてきた。
ハンマーを振り回しながら襲って来る。
「『衝撃攻撃』で一気に行く」
「錬金は通常武器があるから、いいよな」
「錬金術師は闘技場だと一番だよ。攻撃も回復も、なにより強化もある」
ズイーバーのハンマーが僕を襲う。
「『衝撃攻撃』これで!」
「クソッ、範囲の外に……」
「無駄よっ、逃げられない」
ハンマーの先端が僕の目の前でスパークした。
衝撃が、僕の体を包み風圧で飛ばされた。
地面に叩きつけられた僕のHPは、既に20%まで減っていた。
妖術師は、決してHPの多いキャスパルではないのだ。
「お兄ちゃん!」エリゴスのそばにいるロゼが叫ぶ。
「ミョミル専用技か」
「そう、痛いだろう」ミョミルを肩に担ぎ、自慢げに僕を見下ろした。
だけど、僕は魔法の詠唱をしていた。
ズイーバーに、悟られないようにしながら。
「そろそろ諦めたらどうだ?物理勝負なら勝てない。
魔法を封じたところで、妖術師には火力はない。攻撃手段はその魔法剣ぐらいだろう」
「そうだな。だけど魔法なら妖術師は早い」
「魔法かっ」僕の魔法の詠唱に気づいたズイーバー。急いで間合いを詰めた。
だけど、僕は立ち上がって剣を片手に魔法を使う。
「ああ、コイツだけは詠唱が長くて困るんだよな。魔法封印っ!」
「くっ」ズイーバーの魔法を封じ込めた。
でもズイーバーの突進を、止めることはできない。
「だけど魔法を封じたぐらいじゃ、勝てない」
「そう。でも妖術師は魔法が早いんだ」
すぐさま次の魔法をかけた。鈍足時間だ。
「足が……」ズイーバーの動きが急にゆっくりになった。
それを見て、僕はズイーバーのハンマーを避けた。
すぐさま後ろに急いで下がった。あっという間に、魔法がぎりぎり届く距離まで離れた。
「ブラウっ、くそ!」
「ズイーバー悪いけど、妖術師相手に距離をとったら妖術師が一番強いんだ」
「どういう意味だ?」
「くらえっ、時間停止」
僕の魔法が成功すると、スローモーションで動くズイーバーの動きが完全に止まった。
「う、動かない」
「次はこれだ火毒っ!」
「しまった!」僕の魔法が成功し、ズイーバーの体が赤くなった。
火毒で、HPを徐々に削っていく。
「くそっ、魔法封印か時間停止が解ければ……」
「魔法封印解けるまでの時間二分半。
時間停止は一分半、精度が高いと持続時間が長い。
知っているか?火毒には他にも五属性の毒があるのを」
「まさか……」
「火、水、土、風、光と闇に猛毒の魔法……妖術師はこれで削る」
僕は次々と魔法を成功させ、六つの毒魔法がズイーバーのHPをどんどん削っていく。
「まさか……負けるのか?」
「ああ、僕はミスをしない」
時間停止が解けた瞬間、直ぐにズイーバーが一歩目を動こうとした。
だけど、僕はズイーバーの動きより早く魔法を完成させて、上書きをした。
ズイーバーはそれを受けて、動けない。
「僕は魔法のタイミングをミスしない」
「ブラウまさか……」
「ごめんな、僕も父も悪いやつなんだ」
そう言いながら、ズイーバーのHPを毒が全て奪っていった。




