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とある少女がネトゲをやりまくった件(くだり)  作者: 葉月 優奈
一話:とある少女がいきなり現れた時の件
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009

出会った女性に僕とロゼは、高級そうでおしゃれなカフェに招かれた。

そこはNPCが運営しているが、プレイヤーの姿は少ない。

誰でも入ることが出来るが、イベントもないのでいるのは三人だ。

そこで待っていた聖女風の女は、僕たちをカフェに導いた。


互いに席に着き、さっきから女は優雅に紅茶を飲んでいた。

聖女服を着ていて、十字架……よりも女神のレリーフが胸元に書かれた服。

長く白いロングスカートは、清楚で優雅だった。

だけど、ひとつだけ気になったものがある。名前が赤い。


「初めまして、私はゴモリといいます。GMなのですよ、こう見えても」

まずは僕とロゼに、深々と頭を下げた。


「GM?」

「ええ、GMです。GM(ゲームマスター)のゴモリです」

「そうですか、あなたがロゼの言っていた……」

「よくもあたしを、こんな体にしたわね!」

僕が言う前に、立ち上がって怒り出したロゼ

それを穏やかな目で、冷静に見守るゴモリ。動じる様子は全く見せない。


「ええ、その通りです」

「何とかしなさい、あたしの体を返しなさい!」

「まあ、その前に状況をキチンと説明しましょう。

ブラウ君は、おそらく何もわからないでしょうから」

「ええ、よく理解できません。どうしてロゼが、僕なんかにとりついているのかを」

僕の言葉に、さらに不快指数を上昇させるロゼ。

腕を組んで、不安そうに椅子に座った。


「宝くじ特等が当たったのは知っていますよね」

「ええ、特等が当たっていろいろもらいました。

素材、装備、お金にパスポート、全部届きました……まさか特典が」

「そうです、彼女ロゼこそ、最高の特典です」

ゴモリが笑顔で僕に語りかけた。


「ではいりません、返します」

「ちょっとなにそれ」ロゼは不満を口にした。

「ですが、それができないのです」

「はい?」

「それは特典ですから」

「特典って、まるで押しつけじゃないですか」

「押しつけで悪かったわね」

怒りに任せてロゼが、僕の足を思いっきり踏んできた。


「いったぁ、何をする?」

リアルで痛くはないが、アバターで痛がるモーションを見せた僕。

「別に?あんたが変なことを言ったからよ!」

ロゼは不機嫌そうに、そっぽを向く。

それをなんだか微笑ましく見ているのが、GMのゴモリだ。


「仲がよろしいですのね」

「よくないですよ。さっさと説明してください」

「そうですね、ブラウさん。この特典の説明をまだ詳しくしていませんね。

では説明させていただきます。

まずロゼさん、あなたは何者でしょうか?」

「何者って、決まっているじゃない。ロゼよ、廃人ロゼ」

「そうじゃなくてリアルのあなたは、何者でしょうか?」

「えと……その」

ロゼは頭を抱えて、考えるが汗だけが吹き出てきた。

顔色がどんどん慌てている様子が見て取れた。


「どうした?」

「わからない……知らないわ」

「そう、君は君自身のリアルを知らない」

「そんなっ……」

ロゼは体を震わせて、目がうつろになっていく。

怖がっているようにも見えた。


「あたしは……」

「いくら考えてもロゼ、君は思い出せません。

そこで、君の出番というわけです。ブラウさん」

「そこで僕に何の関係がある?」

「特等の特典がそこにある、新しいイベントをまだ誰もやっていないゲームをやる権利が与えられる」

「言っている意味がわからない」

「これからゲーム(マジック・クロニクル)が新しい方向に向かおうとしている。

それはリアルとゲームの差をなくすもの。

ネットゲームの技術は日進月歩、日々進化している。

だからこそ、新しく刺激あるものを作らないとユーザーに飽きられてしまう。

そこで新しいゲームの形を作った。リアル連動ネットゲームというものを」

「リアル連動ネットゲーム?」

「これは、リアル連動のゲームの試験でもある。

その被験者第一号が、ロゼというわけ。

アバターにプレイヤーの魂を封じ込めて、リアルでアバターのようになれる実験」

ゴモリは淡々と語っていた。

中身の入っていないティーカップを置いて、僕の顔を見ていた。


「ロゼが被験者?アバターに自我を封じ込める?」

「そうよ、現にロゼはアバターと同化した。だけど……」

「失敗してこんな体になったのね」

「いいや、成功よ」ゴモリは笑顔でロゼを見ていた。

ロゼは胸に手を当てながら、怒りをゴモリにぶつける。


「何が成功よ?あたしは幽霊になったじゃない。

ブラウ以外とは会話もできないし、どういうことよ?」

「でもゲームの中ではみんなと会話できる。

ブラウくんが、リアルでゲームにログインできれば君は輝きを取り戻せる」

「ふざけないで、あたしをリアルに返して!」

「どこに帰るかわかるのかい?」

ゴモリの言葉に詰まってしまうロゼ。


「ロゼの帰る場所はどこなんですか?」

「それを教えるわけにはいかないね。これはネットゲームだし」

「ふざけないで、あたしにはリアルがあるの……」

「それは大丈夫。君は廃人だから」

「まさか……」

「そう、廃人はゲームの時間が普通よりはるかに長い。

ゲームサービス開始して三年、彼女こそ一番プレイ時間が長い。

つまり彼女はゲームをしている時間が長ければいなくなっても構わない。そんな人間だよ」

「……なんか違う」

ロゼは泣き出しそうな声で絞り出した。


「まあ、私もそこまで鬼じゃない。だからこそ、帰る方法があるわけよ」

「どうやって帰るんだ?」

「単純に、彼女の体を探し出すこと。君がリアルでロゼの体を導くこと」

「とは言っても、リアルの人間のことはネットゲームでやっていても知らない」

「そう、ネットゲーム内の人間関係なんてそんなものよ」

「だったら無理じゃない」ロゼが猛反発をした。


「言っておくけど、これはゲーム。だから運営が解き方の模範を必ず用意してある。

私のクエストを全部受ければ、ロゼのリアルがわかるようにしてあるわ。

クエストの報酬が、リアルのロゼに関係するものになっているから」

「本当か、それをクリアすれば……」

「ええ、そのクエストを発表するために私があなた方を呼んだのよ」

「何をすればいい?」

「このカフェの中にある豪邸に、『セレブの黄金像』のクエストがあるのを覚えている?」

「ああ、『セレブの黄金像』。たしか三年前の最初のバージョンアップ後からあるクエで……」

「セレブの家から黄金像を探して欲しいって依頼を受けるの。

でカフェにあって、カフェのNPCが返して欲しければアイテムを探すんでしょ。

この近辺に出てくる虎を倒して、『巨大虎の革』を集めて黄金像を取り返すやつ」

「そうね、さすがはロゼさん」

ゴモリはロゼに乾いた拍手をしてみせた。


「その像が、あそこのカウンターにあるでしょ」

「そうだよ、あそこからクエストを受けるんだから。それがどうした?」

「そこから出るミッションを受けてもらいます。

ただしクエストを受けられるのは、ブラウさんあなただけです」

「なぜ僕だけなんだ?」

「特等の特典ですから。ただし受けられるのは一回だけですよ」

「まさか、全く同じクエストとか?」

「さあ、それは受けてみてのお楽しみですよ」

ゴモリは、満足げに笑ってみせた。

ゴモリに促された僕は、すぐ近くにある黄金像の前に立った。


僕はカフェのカウンター前にある、黄金像を見ていた。

その黄金像は不格好な鶏に見えた。


正確には鶏ではなく、鶏が丸々と太った鳥。

ペットの駄鳥(ラキア)というのが正しい名前だ。

そして、僕は鶏っぽい駄鳥の黄金像をタッチした。


「ようこそ、我がクエストへ」

その声は、駄鳥の黄金像から聞こえた。なんとも機械的な声だ。


「しゃ、しゃべった」

「汝よ、お前はどんな時も諦めることなくロゼを救う事を誓うか?」

「はい?」

「誓うか?」

「ああ、誓う」

「そうか、ならば最初のミッションを与えよう。

最初のミッションは『ナラ材』を取って来い。期限はこれよりクロニクルタイム三日だ」

鶏の黄金像は、そう言いながら僕に一つのクエストを与えた。

クロニクルタイム三日、つまりリアルの時間換算することころ二十四時間だ。

それを不安そうに後ろで見ていたロゼがいた。



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