088
~~バイエル公国・小黒鷲旅団家~~
僕は家に戻っていた。
リビングでは、さっきパーティに参加していた七人全員がいた。
いや、一人だけいないか。
占有権さえ取れば、みんな強いから負けなかった。
そして、勝利と同時に僕たちは最後のクリアアイテム『ネクタル』を手に入れた。
ネクタルは百パーセント落とすのはありがたい。
ダイヤモンドも落とした、これは素材売りで一人1000万ゴルダの臨時収入。
お手伝いの駄賃として十分すぎる報酬も得た。
僕たちは、ようやく合成に必要なアイテムを手に入れた。
「ではゲルプさん、おねがいします」
「わかりましたぁ。大事な合成なので部屋で合成しますね」
この小黒鷲旅団の合成のスペシャリスト、ゲルプにすべてを渡した。
ゲルプは大事そうに合成品を抱えて、部屋に消えていった。
それを見ていたロゼは、相変わらず驚いていた。
「すごいわね、高レベルの合成をタダで頼めるんだから」
「それがきっと僕らのいいところだよ」
「ありえぬな」
隣にいたヴァイオレットも、険しい顔を見せていた。
「まあ、金だけで俺たちは動いているわけじゃない」とオランジュ。
「オランジュ、まだ落ちなかったのか?」
「ああ、教科書開きながらゲームしているさ」
「すごいな……」
「あれ、オランジュは学生さん?」
意外な反応を示したのは、ヴァイオレットだ。
金ピカのスーツのオランジュは、リビングの椅子に座ったまま髪をかきあげた。
「ああ、学生だよ。しかも受験生だ」
「いいなあ、学生。高校?それとも専門?」
「高校でしょ」
そこに突っ込んだのはロゼだ。ロゼの言葉に、オランジュは驚いた。
「なんで、わかる?」
「ロゼはもしかして知り合いか?」ヴァイオレットとオランジュが、一斉に突っ込む。
ふたりの視線を浴びて、ロゼが困った顔を見せた。
「え、え、違うわよ。ほら、お兄ちゃんが言っていたから」
「なんで僕が……」
「そういえば、最近ロゼさんがお兄ちゃんって言っているけど、どういうこと?」
ここで絡んできたのはシュバルツだ。
シュバルツの目は、ロゼではなくなぜか僕を見てくる。
なんかこの人、僕にやたら絡んでくるけど。
「え、え」
「兄っぽいからよ、ブラウはっ!」
「そう、そうなんだ」
ロゼの変なごまかしに、僕は苦笑いするしかなかった。
「でも、ヴァイオレットもシュバルツと夫婦でしょ」
「ああ、夫婦だ」
「えっ、そうなんですか?」僕が聞くと、シュバルツはじっと僕を見ていた。
「悲しい?」
「いえ、意外だったので。ヴァイオレットはロゼ好きそうだから」
「ロゼたんは大好きだぞ」
ヴァイオレットが堂々と胸を張った。
そんなヴァイオレットをシュバルツが流し目で見ていた。
「ロゼたんは、可愛いからな。全身好きだ。
顔も、目も、長い髪も、体も」
「な、なんかそんなに言われると、照れるじゃない」
ヴァイオレットにジロジロ見られて、ロゼは顔を赤らめていた。
「そうか、そうか。ロゼたんは可愛いからな」
「ヴァイオレット、あたしはおだてても何も出さないわよ」
「うんうん、ボクをお兄ちゃんって呼んでもいいんだぞ」
「それは……できないわ」
顔が赤いロゼの顔色が急に覚めた。
そのままロゼは僕の腕に無理やりしがみついた。
「あたしのお兄ちゃんはブラウだけ」
「ええっ、それは残念」
「ブラウお兄ちゃんも、あたしだけが妹だよね?」
ロゼが言うが、僕は「うん」と苦笑いするしかなかった。
僕の記憶の中には、小学校の時にいた母の連れ子だけだ。
もちろん血が繋がっていないが。
そんな時だった、ドスンっと強い音がした。
家が揺れる音だ、地震のように揺れていた。
「なんだ?」
「隣の部屋の方だ」
僕はすぐに揺れのあった部屋のほうに向かっていた。
それは、ゲルプの部屋の方だった。




