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とある少女がネトゲをやりまくった件(くだり)  作者: 葉月 優奈
九話:とある少女が取り合いに参加する件
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体を手に入れた僕はリアルに帰ってきた。

そのまま僕は、家にいた男の後ろに立っていた。

幽霊アバターのロゼも一緒だ。

いつもどおりの自分の家の狭いアパート。リビングといっても狭い畳の部屋。


その男は、いつもどおりカップラーメンを食べている男だ。

畳の部屋に座った猫背の男は、憔悴しきった顔で一目散に貴重な食事にありつく。

それは僕の父だ。夜の仕事前の食事を一心不乱にとっていた。

昼も仕事をしながら、夜も仕事。父は父で忙しいのだ。


「教えて欲しい」

「何をだ?」

立ったまま僕は、聞かずにはいられない。

いろんなものを見て、いろんなことを知った。


「十年前の離婚相手を、僕の母さんを」

「この件は話すことはない」

「教えて欲しい、どうして母さんのことを隠すのかを」

「話すことはない」

箸を置いた父は、二回目は強い口調で言ってきた。

そんな父のことをロゼも見ている。ロゼ……いや真衣の父親なのだ。

しかしロゼのことを父は見ることもできない。


「なんで何も教えてくれない?僕になぜ隠そうとする?」

「その話は飯の時にはするな!マズくなる」

「教えてくれ、どこにいるんだ?」

「本当に知らない、離婚して連絡をしていない。

向こうの家族からも絶縁状態だ、全部俺が悪いのだから仕方ないが」

「なにがあったんだ?離婚の時に」

「捨てたんだよ、俺はもともと商社の会社員だった。

しっかりした会社に入り、立派に働いていた。

桃生(ものう)、彼女と出会ったのは俺が会社で働き始めた頃だ。」

「桃生?」

「お前の母の名だ、生みの母親だ。

桃生はいい女だ、美術系の大学でこっちに来ていたんだ。

そこで俺は知り合った、一目惚れだ」

父は気まずそうな顔で、食べかけのカップラーメンを見ていた。


「では、なんで離婚をした?」

「俺が単にバカだったんだよ、ほかに好きな奴ができた」

「まさか……」

「浮気をした、しかもそいつが詐欺師ときたもんだからタチが悪い。

浮気をして、離婚すると仕事も失敗が続いた。

それでもそのときは好きだったんだ、詐欺師のことが」

「親父……」

「好きになっちまった馬鹿な俺だ、止められなかったんだろうよ。

だから家族を破滅させて、妻と娘がいなくなった。

抱えなくてもいい借金を抱えて、仕事も失った」

「まさか……」

「真衣は元気にしているか?」

不意に振り返って、父は穏やかな顔を見せていた。


「パパっ、あたしはここよ!」ロゼは叫んだ、叫んでも絶対に届かない。

こんなにも近くにいるのに、もどかしい。

ロゼは手を伸ばして父に触れるも、すり抜けた。


「親父、一つ聞きたいけど桃生……母さんの実家の連絡先を教えてくれないか?」

「聞いてどうするつもりだ?」

「僕がかける」

「やめておけ。向こうは忘れたい過去なのだ。

お前がいったところで何もできない。

だから一番正しいのは関わらないことだ」

「わからないのは親父の方だ!」

僕は強く言い放つ。父は立ち上がって僕のシャツの襟元を掴んだ。


「お前に何がわかる?蒼一は何を知っている?

世の中には知らなくてもいいことが多い、それを知るのは愚かだ!」

「昔の僕は……昔の僕は夢があった」

「蒼一……」

「でも、二回離婚して失った。自分というものを見失ったからだ」

「それは言い訳に過ぎない」

「いいわけじゃない、僕はわかったんだ。

新しいものを見たり、新しい出会いがあったりして、僕は変われることを。

僕が唯一許された贅沢、ネットゲームでそれを知った」

それはロゼと出会い、ロゼのいた世界で冒険をした。

新しいものには興奮も感動もあった。

だからこそ、僕は人間らしく笑ったり怒ったりできたのだ。

ゲームでできたのなら、リアルでも必ずできる。


「僕は母さんと妹に会いたい」

「そうか……何を言われても後悔しないか?

向こうの家族は、おそらく俺たちを嫌っているのだぞ」

「構わない、だって僕の母さんだから」

そう言いながら、親父は近くの古いタンスの前に立った。

タンスからメモ帳を取り出して、僕に手渡す。


「ここに住所と電話番号が書いてある」

「うん」僕はそう言いながら、受け取った。

「ただ、それは義理の兄さんだ」

「どういうことだ?」

「それだけ嫌われているということだよ。

やったことがやったことだからな。母さんのショックが計り知れないらしい」

その時の親父は、とても小さく感じた。



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