077
~~デモニース・ポートマリナ区~~
デモニースの港湾区は、漁村だ。
魚市場や、釣竿店が軒を連ねる。
ここは釣りをする人は、訪れなければいけない場所だ。
潮のいい匂いもする、どうやらアバター・インターフェイスの効果だろう。
僕はロゼと二人きりで、海辺そばにある食堂に来ていた。
お腹は空かないが、テーブルにはからの食器が置かれていた。
食べるのはHPやMPの回復によるものだ。
無事に呪い解きのクエストを終わらせた。
コウモリも熊も、相手にならないほどの弱さだ。
敵を倒すだけなら、僕でもソロで出来るほどの相手だ。最もロゼより倒す時間がはるかにかかるが。
アイテムを出すには、盗賊の持つ『アイテムドロップアップ』が必要だが。
「結局ダメだったか」
「仕方ないわ、あの呪いは特殊みたいだから」
「でも、ロートはありがたいな」
「そうね、健気で可愛かったわね」
初めから結果はわかっていた。
この呪いは、普通に解くことができないことが。
わかっていたけど、ロートの心遣いが嬉しかった。
ロゼもしみじみとロートの行動を感じていた。顔がおっとりしているような。
だけど現状は変わらない。僕のカウントダウンは刻一刻と過ぎていく。
残りは2時間弱か、時間がないな。
「呪いを解く方法ってクエストだとあれぐらいだよな」
「そうねえ、素直にクエストとかじゃないでしょ」
「じゃあなんだと思う?」
「知るわけがないじゃない。もしかして記憶とか」
「記憶はあるし、体は……というよりリアルに出られないか」
「そういうことね」
ロゼもため息をついていた。
「くそっ、ロゼのクエストをクリアしたのに、これじゃあ何の意味もないじゃないか!」
「お兄ちゃん」僕はテーブルを叩く。
「ロゼは苦しんでいるだ、いやリアルの真衣は。
僕らはこんなところでゆっくりしているわけにはいかないのに」
「お兄ちゃん、変わったね」
「え?」ロゼがやはりしおらしい顔になっていた。
「変わっていない」
「いや、変わったよ。少し人間らしくなった。
これもアバター・インターフェイスのおかげかな?」
「違うだろ、それはない」
「ううん、でもお兄ちゃんちょっと明るくなった」
ロゼが、いきなり僕に対して上目遣いをしてきた。
それを見るなり、僕はドキッとしてしまう。
ロゼも僕も、今はアバター化している。
言ってしまえば、人間に限りなく近づいた状態で会話しているわけだ。
ロゼのぬくもりを感じて、ロゼも僕を感じているのだろうか。
「ねえ、お兄ちゃん。あたし……」
「なんだよ、ロゼ」
「あたしね……お兄ちゃんに」
「お前ら、知らないようだな」
そう言いながら、いきなり僕とロゼの間に一人の人物がやってきた。
それは灰色のフードをかぶった人間。
「お、お前は……」
「ズイーバーっ!」ロゼが眉間にシワを寄せて叫んだ。
灰色フードの人物は、フードから顔をのぞかせることなく顔だけをロゼに向けた。
「呪いの解き方を」
ズイーバーの言葉に、僕ははっとした。
「知っているのか?」
「それを教えに来た、いや協力しに来た」
「なんで、あんたがここにいるの?」
ロゼは僕を守るように間に入った。
いつでも剣が抜けるように手をかけていた。
「物騒だな、ロゼ」
「うるさいっ!あなたがこの前も裏口で趣味悪く張っていたりしたでしょ」
「あれは君のためだよ」
「嘘よ!あなたはあたしに恨みがあるのね」
「キマイラキングの話は、もう気にも止めていない。別に抜ける理由があったからだ」
「なぜ、あなたがあたしに付きまとうの?」
ロゼの険しい表情に、ズイーバーは首を横に振った。
「ある方に頼まれたんだよ、君は危険だから守るようにって。
俺は……力があるから」
「そんなのありえないわ」
「いいや、ありえる。現実に君の身には既に異変が起きている。
また、彼にも……残念ながら」
ズイーバーが僕を指差していた。
ロゼが、警戒心を強めたままズイーバーを見ていた。
「僕に?」
「ええ、君は助からないといけない。私は呪いの解き方を知っている。
アバター・インターフェイスの呪いを解く方法を」
「まさか……」
「この現状を変えたければ、己を変えてみよ。
そうでなければ、未来はないだろうな」
ズイーバーは、そう言いながら手を差し出してきた。




