075
僕の部屋には、今ロゼとメッセージの主だけだ。
ロートやゲルプには外してもらった、本来二人には関係のない話だ。
なんだかロートが部屋を出るとき、元気がなかったな。
メッセージの主は、いつも僕が入ることを知っていた。
いつもどおりの修道服に身を包んだ、耳の長い女が僕の部屋の椅子に勝手に座っていた。
僕もベッドから体を起こして、その女を見る。というか睨む。
「怖い顔だ、本当にリアルだろう」ゴモリが僕の顔を見ながらティーカップに口を付ける。
「ゴモリ、どういうことだ?」
「なんのことかしら?」
「この体はどうなっているんだ?僕の体がまるで……」
「アバターと同化した」ロゼがそのあとに続けた。
ゴモリはロゼと僕を交互に見比べた。
「やはり気づいていたのですか」
「ロゼから聞いた、同じだって」
「ゴモリ、なんでこんなことをするの?お兄ちゃんは関係ないでしょ!」
「まあ、待て。私は何もしていない」
「嘘よ!」感情的にロゼはすぐに否定した。
「嘘ではない、ならばこちらから非難を浴びに来ることもない」
「じゃあなんで僕の魂が、アバターと同化した?」
僕は、単純に聞きたかった。
ゴモリは僕の体をじっくり見ながら、口を開いた。
「それは手違いというもの」
「手違い?」
「アバター・インターフェイス、これがロゼをアバターに閉じ込める原理よ。
究極のネットゲームの完成、このマジック・クロニクルの最終形態。
リアルのようなネット世界、ネットの世界に入ることができるテクノロジー。
目の角膜に情報を屈折した形に与え、目から見た情報を脳に伝えて感覚を共有する。
アバターと同じ行動、感覚を有するわ」
「原理はいい、なぜ僕がそうなったかだ?」
「通常は同意をして行うものだ。これはまだ試作段階で、一部の開発者しか知らない。
公表すらしていないから、この世界だとGMぐらいだろうね」
「待って、それじゃああたしがアバターになったのは……」
ロゼが口を挟む。
「手続きがあった、君はある契約を同意してもらっているの」
ゴモリの言葉に、少なからずショックを顕にしたロゼ。
「それ以上に問題なのは君だ、ブラウ。
おそらく君は、同意していないだろう。なぜそうなったんだ?」
「宝箱を開けたら……ロートの前に煙が発生して赤い目が」
「トラップか?『呪いの目』」
「だね。でもあれにはたしか、移動速度を下げる効果だけしかなかったような。
まあ、解除は教会かアイテムを使うんだよね。呪いアイコンはあるけど」
「それでも、アバターと同化する理由にならないわ」
ゴモリが僕の髪の毛を一本引き抜いた。
僕はチクッと痛みを感じた。
「感じるだろう、痛みを」
「ゴモリ、これから僕はどうなる?」
「今の君は自分からログアウトできない。ロゼと同じだ。
つまり、リアルに帰ることができないわけ」
「マジか……」
「ついでに、ゲーム内で死ぬと君の魂も消滅する。やはりロゼと同じ」
「嘘だろ」
ゴモリの言葉に、やっぱり僕もショックを覚えた。
一緒に話を聞いていたロゼも、俯いていた。
「だけど君は記憶があり、こちらの手違いでアバター化になった。
今、君の体には状態異常のアイコンがあるはずだ」
「ああ、ある」
そこにはHPゲージの隣に呪いアイコンが見えた。
これをタップすると、呪いがかかっていると出ていた。
「呪いを解けば元に戻る、ロゼと同じだよ」
「そうか、でどうやって?」
「それは知らない」
ゴモリは優雅にティーカップですすっていた。
「そっちの手違いなら教えられるだろ」
「残念ながら、この呪いを仕掛けたのは別のGMだ。
『呪いの目』にこのアバター・インターフェイスを強制的に仕込んだのだろう。
そのGMも、目的もわからない」
「本当に解けるのか?」
「これはリアルじゃない、ゲームだからね。
運営が必ず解ける方法を用意しているものよ。ただ……」
「ただ?」
「この呪いには制限時間があることだ」
ゴモリの言葉に、僕ははっとしていた。
僕の視界に見える呪いのアイコンの隣には時計が見えて、ゆっくりと進んでいた。




