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~~バイエル公国・小黒鷲旅団家~~
気がついたときは、僕は自分の部屋にいた。
自分の部屋といっても、マジック・クロニクルの自分の家だ。
目が覚めて、僕は驚いた。
「なんだ?目の前にHPが見えるぞ」
「ああ、起きたのね」
そう言いながら、僕の目の前には泣き出しそうなロゼがいた。
それにしても、ロゼの顔がやけにリアルだが。
パソコン画面で見ているのと違って、まるで本物がそこにあるかのようだ。
「あらあら、起きたのですかぁ」
「ゲルプさん、ロゼも……」
「リーダー、大丈夫?」
そこに小さな顔を見せてきたロートだ。
恥じらった顔で、こっちを見ていた。
「ロートも、もう大丈夫だよ」
「うん、よかった」ロートが笑顔を見せた。
だけどそんな中でも、ロゼは何故か険しい顔を見せた。
「じゃあ、スープを持ってきますね」
「いえ、ゲームの中ですからいいですよ」
「いえ、お気持ちですぅ」
ゲルプはそんなことを言いながら、部屋を出ていく。
僕は周囲を見回した。なんだかゲームの中の景色がやけにリアルだ。
僕が寝ているベッドも、家具屋で買ったタンスも。
なによりゲルプがリアルの人間のように見えた。
(部屋だよな、ゲーム内の)
パソコンの前でいつも見ているネットゲームではない。
なんというか、かなりリアルに近づいていた。
(どういうことだ?)
周囲があまりにもリアルだ、パソコンゲームをしている感じがしない。
さらに右下の方に、僕の視界にはメニューコマンドらしきものが見えた。
(なんだこれは?)
僕は指を動かして、そのコマンドをタップするといきなり目の前が画面で覆われた。
コマンド表が、目の前を埋め尽くす。
「前が……」
「どうしたの?」
「なんでもない」
ロートが心配そうな顔を見せて、僕は慌てて視界の上の方にある×ボタンに指を伸ばした。
やはり、変だ。なにかがおかしい。僕は冷や汗をかいていた。
「ねえ、お兄……ブラウ」
「なんだよ?」
そんな時、ロゼが僕の耳元に顔を近づけた。
そう、そこでロゼの体をはっきりと感じた。
人間のようなぬくもりを、幽霊として今まで感じていない一人の女の存在をはっきりと感じた。
それと同時に、ロゼの匂いもはっきりと感じてドキドキしていた。
「あなた、もしかしてあたし側になったの?」
「なんのことだ?」
『そうなってしまったか、ブラウ。ならば、いまからそちらに向かう』
そう言いながら、何故か僕の頭に強い言葉が響いた。
それは、紛れもなく目の前の視界にその言葉が文字となって出てきた。
僕は最後まで自分の体を理解できなかった。




