063
僕は生実さんにつれられて、高層マンションの一室に通された。
そこは、僕がかつて住んでいた同じ部屋の間取りだ。
ただ、残念ながら階層だけが違う。
むしろ清潔感があって、明るい部屋だった。大人の女性の一人暮らしの部屋だろうか。
テーブルそばに、しゃがんだ僕は部屋を見ていると生実さんがやってきた。
「散らかっていますけどゆっくりしてください、ソウくん。
いやチーフかな、上司の接待ですぅ」
「チーフって、僕にはそんな権限はないですよ」
「いやですよぉ」生実さんはジュースを持ってテーブルに置く。
「意外と綺麗に片付いていますね」
「あら、そんなことないですぅ」
「まさか601の住人だったとは、最近ですか?」
「はい、二年前に結婚してこっちに来ましたよぉ」
「あ、すいません」僕は頭を下げた。
生実さんは、離婚して一人でここに住んでいる。
バイトの中でも、このことはタブーだ。
「それにしても、久しぶりに部屋に人を入れたからウキウキですぅ」
「ウキウキって……」生実さんが両肘をバタバタ動かして、苦笑いをした僕。
天然すぎるな、生実さん。
「今は、兄ぐらいしか入らないですから」
「兄?」
「わたしは兄がいますよぉ、妹なんですぅ。三人兄弟の末っ子ですよぉ」
その言葉を聞いて、僕はドキッとした。
周囲を見回すと、僕の妹幽霊アバターのロゼが物寂しそうにこちらを見ていた。
「それにしても、ゲームもしていたんですね」
「オンラインゲームぐらいですよぉ。
オンラインゲームのゲーム歴は長いですぅ、バイトもしていますよぉ」
奥には立派なパソコンが置かれていた、レジや機械が苦手なのにパソコンはあるのか。
しかも僕のパソコンよりずっと高性能だし。
「そういえば佐藤先生とも知り合いですね」
「はい、ソウくんの先生でしたねぇ。あれはビックリしました」
「なんでも恐れられているとか」
「GM業を、もともとやっていたんですよぉ。昔は」
「GM?」
「わたしは、GMだった。ストーンヘンジ・オンラインまでは。
というより、そこの運営に雇われていたんですよぉ」
「へえ、GMって公募していたんですか」
そういえば、GM募集の広告バナーがお知らせにあったのをぼんやり思い出した。
「はい、バイト感覚でしたし。
GMと言っても、いろいろいますから。
わたしたちは所詮、タダの電話苦情オペレーターと変わらないですよぉ」
「生実さんは、今もマジック・クロニクルをしているんですよね?」
「はい、やっていますよぉ」
「GMですか?」
「GMはやめました、ブラウリーダー」
そこはしっかりと否定した生実。
表情は穏やかだけど、深いため息をつく。
「なぜ、それを?」
「だって、わたしはゲルプですよぉ。小黒鷲旅団の一員ですぅ」
「へ?」一瞬戸惑ったが、すぐに僕は驚いた。
「ええっ!」
そこには、ゲルプこそ生実さんが大人の眼差しで僕を見ていた。




