059
~~サタルカンド・ウエスト三番街~~
――これは三年前の話、僕が駆け出しの冒険者だった頃の話。
マジック・クロニクルを始めて間もない僕は、サタルカンドのウエスト三番街を歩いていた。
今と比べるとずっと貧祖な格好で、持っているのは安物の剣だけ。
なにより、妖術師にすらなれずに戦士だった頃の話。
普通の町人と見た目に大差のない僕が、歩くウエスト三番街はリアルに近い都会だ。
「広いね」
レンガ造りの中世の街並みが広がった。
その一方で、アスファルトのような現代風の舗装された道もある。
だけどそれ以上に目を引くのが、カボチャの看板だ。
「これがマジック・クロニクルの世界『モルゲンロート』だ。
オンラインゲームはすごいだろ」
「すごいというか、広い」
僕の前を歩くのは、戦士風の格好をした男だ。
槍を背負っていて、黒っぽいが安物の金属鎧を着ていた。
「オランジュは詳しいね」
「オンラインゲームの先輩だからな」
「あれは何?」
「あれか、うーん……」
僕が指さしたのは奇妙な形をした建物だ。
黄色い小屋で、ほかの建物よりよく目立つ。
それを見るなり、オランジュは考え事をしていた。頬杖ついて、立ち止まっていた。
「うーん、あれは……」
「あれは、駄鳥ショップよ。あそこでラキアを買うことが出来るの」
そう言いながら、通りすがりの女性が親切に答えてくれた。
長い黒髪の女性は、やはり身の丈よりずっと大きい剣を背負っていた戦士だ。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、それよりあなたたちもイベントクエストに行くの?」
「はい、いまからゲートに向かうところです」
「でも、道に迷って」僕が口を挟むと、オランジュは情けない顔になった。
「こら、ブラウ。それを言うんじゃない」
「あらあら、ならば一緒に行きましょう。
私もハロウィンイベントに、いまから行くところだから」
黒髪の女性はニッコリと微笑んだ。
やはり、金属鎧を着ていた。オランジュのよりちょっとだけ豪華な鎧だ。
「ではお供させてください。
なにせ俺たちは正規盤からの参加で、コイツは今日デビューなもんで」
「そう、私はノイっていうの。よろしくね」
「俺……僕はオランジュ、こっちのがブラウ」
「よ、よろしく」手を差し出して握手をした。
そんな時、僕はなんとなく思ったんだ。
この人は、どんな人なんだろう。
どんなところでゲームをしているんだろう。
プレイヤーとして、リア友のオランジュは知っていた。
だけどリアルを知らないプレイヤーとは、会話をするのは初めてだったから。
僕がこのゲームでやったのは、リア友のオランジュと一緒に散歩ぐらいだった。
プレイ時間もわすか二時間あまりだし。
「オランジュ君に、ブラウ君ね。よろしく、あ……そうだ。せっかくだからパーティ組まない?」
「パーティ?」
「うん、パーティ。ハロウィンイベントはボスとの戦闘だから」
「わー、戦闘なんだ。僕はパーティ組むの、初めてだから」
「誰だって初めてはあるからね、このゲームのサービスが開始してから日も浅いし。
一緒に組みましょう、二人を誘うわね」
そして、僕たちは三人パーティを組んだ。
「さて、これからはパーティになったし、パーティ用のチャットで会話しましょ。
後は五人集めないとね」
「五人って……」
「いまから集めましょ、もしくは募集しているところと集まって八人で行くの。
マジック・クロニクルは、八人パーティまで可能だから」
「へえ、そんなことができるんだ」
「それがオンラインゲームの醍醐味じゃない。
ちょっとまってね、声をかけてくるから」
ノイは活発な女性だ、そして笑顔を絶やさない。
そんなノイを羨望というか、淡い恋心を抱いてみていたのがオランジュだ。
「いいな、ノイさんかぁ……」
「オランジュ、好きなのか?」
「ええっ、そんなことない」
だけど、どう見てもノイを好きなのが傍から見てもバレバレだ。
そんなオランジュの視線を気にしないで、行動しているノイ。
彼女は、あっという間に八人パーティを完成させた。
僕たちがなにかしたわけでもなく、八人パーティが出来ていた。
ほかの五人は、ノイの知り合いかどうかは今でもよくわからない。
「じゃあ、パーティもできたことだし行きましょ。
ついてきて、こっちに街の外に出る大きな門があるから」
「うん!」
僕とオランジュは、ノイに言われるままただついて行くだけだった。
そして、僕たちは初めてのパーティ戦をすることになった――




