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とある少女がネトゲをやりまくった件(くだり)  作者: 葉月 優奈
六話:とある少女が祭りに参加する件
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昼下がり僕は、駅近くの歩道を歩いていた。

街はオレンジ一色、かぼちゃとコウモリをどれほど見ただろうか。

駅周辺の店も、デパートも、街の飾りも、ハロウィン一色だ。


ロゼに言われて夜中の四時半から爆睡したのは言うまでもない。

朝の五時に寝て、昼の十二時に起きることができる。

これができるのは日曜日の特権だろう。


僕の散歩は一人ではない。

上を浮いているロゼともう一人、そいつに呼ばれて僕は起こされていた。

見た目は二人共男で、僕が私服姿で会うのは久しぶりだ。


「にしても、猿楽場が僕を珍しくさそうとは。

受験生なのに、昼間っから遊んでいていいのか?」

「ああ、構わないさ。昨日は興奮したから夜寝るのが遅くなって……」

「あれか、グリフォンシグマ戦」

「そう、ロゼさんがきてだいぶ面白くなった。マジック・クロニクルが」

猿楽場こそオランジュは、嬉しそうな顔を見せていた。

背の高い同級生は、ちょっとだけ寝不足だ。


僕も猿楽場に同意できた。

今頃は真上にいるロゼが、さぞかし胸を張っているだろう。


「新しい敵は、やっぱり倒しがいがあるな」

「廃人じゃなければ戦うことはないと思っていたから、ウルトラモンスター」

「廃人も、プレイ時間の違いをのぞけば普通の人間だよ」

「まあ、そうだな。

よくあの作戦で、グリフォンシグマ倒せたよ。サーバーで初なんてすごいし」

「だね、僕も興奮した」

僕も昨日のあの出来事を思い出すと、それだけで胸が熱くなる。

あれはサーバー内では、初めて倒したパーティになった。

すぐにネットに広まって、朝にゲームインした時に見知らぬプレイヤーに声かけられた。

ちょっとした有名人気分だ。


「さすがはリーダー」

「やだな、よせよ」

「本当に感謝している、ありがとう」

猿楽場は、手を差し出してきた。僕はそれをがっしりと握った。


「でも、周りのみんなが本当に強かったからね」

「確かに、盾役のヴァイオレットもHP6000あるし。

なにより、ロゼさんの攻撃とかヤバすぎ。

ダメージ、一人三連携で一万削るし。

あの人の攻撃は……格が違うな」

「ロゼは、確かに最強クラスの廃人だからな。

たくさんネットでさらされるほどの」

「でも悪い人じゃないと思う」

「そんな気がする。ちょっと太めだけど」

話が二人で弾む。賑やかな町並みに、僕と猿楽場の声が興奮で少し大きい。

上で聞いているロゼは、「太めって何よ」などと不満を漏らしていた。


「だけどな……」

「どうした?」

「俺はやめようと思う」

「やめる?」

猿楽場の言葉に、僕はさっきまでの笑顔が消えた。


「マジック・クロニクルを引退しようと思うんだ」

その言葉に、僕は一瞬にして時が止まったような感覚になった。


昼下がりに賑わう街中で、僕は驚きを隠せなかった。

だけど猿楽場の顔は、どこか強い覚悟があった。

上のロゼは、なんだか退屈そうにこちらを覗き込んでいた。


「引退って、急だな」

「急じゃないさ、受験生だからだよ」

そう言いながら、持っていたメガネをかけた。

なるほど、私服の猿楽場も知的に見えるぞ。


「受験生?」

「こう見えても弁護士になる男だからな」

「そうか、寂しくなるな」

「進路指導で言われたんだ、このままではいけないって

だから断腸の思いだが、俺はゲームを絶つことにした」

「……そっか、決意が固いんだな」

そんな僕たちは、ハロウィンの街中にいた。


街はハロウィンイベントで盛り上がっていた。

実際のハロウィンは来週なのに、既に街中をコスプレしている人もいた。

周りの大半が、コスプレなんかしていないが。


「なあ、思い出すな。ハロウィンを見ていると」

「ああ、始めた頃を」

そんな僕たちは、三年前のことを思い出していた。


「今日は入れるのか?」

「ああ、今日は入る」

猿楽場はメガネをかけたまま、静かに言っていた。



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