046
~~サタルカンド・ウエスト一番街~~
ウエスト一番街はエリアに行くのに必要な場所だ。
そして、サタルカンド遺跡への門がここにある。
全員ここの天使像にお祈りしていたので、死ぬと自然とここに戻るようになっていた。
戻った僕は、すぐに確認しないといけないことがあった。
「ロゼは?」
すぐさま、僕は確認した。
ロゼは死んだら消滅する、ゴモリが言っていた言葉を思い出した。
「ごめんなさい」
パーティ会話でロゼが声を発した。それを聞いて、僕は少し安心した。
うつむいたロゼが、申し訳なさそうに道の前に佇んでいた。
「ロゼ、なんで逃げた?」一人が叫ぶ。第一パーティの万能戦士だ。
「あたしは死ねないから」
「死ねないって戦っているんだぞ!勝手に帰宅石を使って逃げやがって」
第一パーティの三人が、一斉にロゼを睨む。
「非難承知であたしは死ねないの!」
「君は火力だ。火力であるから、途中で逃げられると勝てるものも勝てなくなる。
まあ、負けたくないというのはわからなくもないが」
「ちょっと待ってください」
それを阻むのが僕だ。
「外野は引っ込んでいろ!」
「ロゼは逃げないといけないんです!」
「逃げないといけない?なぜ?」
「それは……難しいですけど」
僕の言葉に、首を横に振ったのが最初に不満を言った戦士だ。
「はい……」
「それなら俺は抜ける」一人の戦士が言い放った。
その後、すぐにパーティメンバーが離脱した。
それに追従するかのように、ほかのメンバーが離脱していく。
「待ってよ!」
「あたしだって、逃げたくないわよ。
だけど反応したのよ、あたしの意思が!」
「とりあえず一度落ち着いて、みんな」
そこでヴァイオレットが言葉を挟む。
ロゼに対する不満の声が、そこで途切れた。
ヴァイオレットが静寂の中、口を開く。
「ロゼ、いいかな?このゲームはネットゲームだ。
確かに死んだ時に、ペナルティがあるのはわかる。
だけどみんなも同じペナルティを受けているんだ、戦闘中に勝手に逃げるのはよくない」
「ごめんなさい、それでもあたしは倒さないといけないの。称号が欲しいから」
「『ジェノサイドブレス』が怖いのね」
第二パーティにいたシュバルツが口を開き、ロゼが頷いた。
「『ジェノサイドブレス』?」僕は聞き返す。
「グリフォンシグマの覚醒後の必殺技だ。
HP15000を一瞬にして削る、ほぼあの部屋全域を包む究極の攻撃だ」
「15000って、絶対死ぬだろ!」オランジュが叫ぶ。
僕らプレイヤーの中でも、HPが一番高いキャスパルの騎士が最高レベルで5000あれば優秀だ。
それを15000って、全ての強化魔法をかけてもカバーしきれないぞ。
「つまり、使われるまでに火力押ししないと負ける。
初めからそういう設計なのだろう。
覚醒するのは、グリフォンシグマのHPが半分以下だから」
「そうだったのか……」
僕は何かを考えていた。
説明したヴァイオレットが、うつむくロゼの方を振り向く。
「今度は絶対に逃げないようにしてくれるか?
グリフォンシグマは、短期の火力勝負だ。火力担当の君が抜けたら絶対に勝てない」
「それは……」
「それはできない」
僕はとうとう口を挟んだ。
「君は……ブラウ?」
「どうしてもロゼは死なせるわけには行かない」
「ではなぜ?」
「そういうルールなんだ、絶対にロゼを殺してはいけないルール」
「流石に意味がわからないよ、たかがネットゲームだ」
ヴァイオレットは首を横に振っていた。
「ロゼにとってはネットゲームではない、リアルなんだ!」
ゴモリの言葉をいったところで、信憑性はないだろう。
死ぬのを試したわけでもなく、それをゲームで起きたわけでもない。
だけど、今のロゼが置かれた状況は普通の状況ではない。異常だ。
異常だから、ゴモリの言葉もどこかに説得力があるかもしれない。
それが真実だとしたら、ロゼが死ぬということだ。
「ならば、君はどうするつもりだ?
君たちの戦力だって僕らよりはるかに装備は劣るだろう」
「確かにそうだ、だけど僕は弱体のスペシャリストだ。
必ずグリフォンシグマの弱点を暴く」
「ではブラウ、君に任せよう。一旦解散をしようか?」
「解散する必要もない、三十分あれば大丈夫だ」
ヴァイオレットがその場をしきるなか、ロゼがいつになく弱気の顔を見せていた。
そんな僕は、やることが決まっていたのだ。




