041
~~バイエル公国・小黒鷲旅団の家~~
あれから数匹、象を仕留めて僕たちは帰ってきていた。
いつもどおりのリビングでいつもどおりの位置についていた。
今は、ロートもゲルプもオランジュも揃う。いつもどおりのメンバーだ。
ゲルプは、満足そうに真っ黒な象牙を見ていた。
それをソファーに寝そべりながら、興味深そうに見ているロート。
「象牙、象牙……フンフンフン♪」
「すごい大量だね」
「ええ、これもロゼさんのおかげですぅ」
ゲルプがロゼににこやかに頭を下げた。
そのロゼは、床に座ったまま武器の手入れをしていた。
「あたしにかかればこんなもの、朝飯前よ」
「本当にすごいよね、ロゼさん。いやロゼ様」
「もっとあたしを褒めなさい」胸を張って威張るロゼ。
「すご~い、超スゴイ」
「でしょ、でしょ」
「何、調子に乗っているんだ?」
僕が言うと、ロゼが得意げな顔で僕の方を見てきた。
「あら、ヤキモチ?」
「違う、そんなものじゃない」
「じゃあなんなの?」
「別に……いいだろ」
「あら、それならいいじゃない。そんなことよりゲルプでいいかしら?」
「はい?」
ロゼが、不思議そうな顔でゲルプの持っている黒い象牙に目をやった。
「その象牙で何を作る気なの?」
「そうね、黒曜装備シリーズかな」
「黒曜って……闇属性の武器でしょ」
「ええ、剣とか斧とかの材料に使えるんですよぉ」
「あの武器ってそんなに需要あったっけ?光属性のイベントなら使えそうだけど」
「基本は原価そのままですよぉ」
ゲルプさんはにっこり笑っていた。
「うーわ、それってなんか無駄じゃない?
合成ってすごいお金かかるじゃない。お金とかか取らないの?」
「パーティメンバーには、サービスですよぉ」
「なんてお人好しなの?」
「それがウチのいいところだ」
オランジュが珍しく口を挟む。
「でも、合成は職人よ。手数料ぐらいとっても当たり前じゃない。
合成のレベルだって、簡単に上がらないでしょ」
「はいですぅ、でもみんなに使ってもらえればそれだけでいいですぅ」
「本当に感謝しているよ、ゲルプさんは」
「あら、それは無駄じゃない?だってお金稼ぎって効率がモノを言うでしょ。
前に2000万稼いだ時だってそうだったじゃない」
「でも合成は違うんですぅ」
「やっぱりあたしには、理解できない世界だわ」
首を横に振ってロゼは難しそうな顔を見せた。
そんなロゼに、ゲルプさんが黒い象牙を加工していた。
「あと、手伝ってくれたので今度はみなさんに黒曜の武器をあげますね」
「ロートね、黒曜ダガー欲しい」
「はい、ロートちゃんはダガーですね」
「わーい」
ロートが無邪気に喜んだ。
「しかもタダでしょ?普通ならお金を取るわ」
「そうですが?ロゼさんは何がいいですぅ?」
「あたしはいらないわよ、ゲイボルクもデットリーソードもあるし」
「うわっ、いいもの持っている奴は違うなぁ」
オランジュは素直に驚いていた。
確かにロゼは合成品なんかなくても、ウルトラモンスターのドロップアイテムがある。
ゲイボルクは、キマイラキングっていう最強のモンスターが落とす最強の槍だし。
「リーダーは何か欲しいですぅ?」
「僕は『黒天剣』が欲しいな」
「はい、『黒天剣』ですね。妖術師の魔剣ですかぁ」
「闇属性が上がると闇系統の弱体精度もあがるからね」
「まじか、そいつはすごいな」
オランジュがやや興奮気味に声を出した。
「だけど、魔術師のヤツはきついな。
一応『黒曜杖』ってアイテムあるけど、黒象牙の他にブラックダイヤモンドも必要なんだよな。
なにげに強い魔法に闇属性が多いのは、運営の仕様だぜ……」
「まあまあ、そのうち作れるようになったらつくりますよ」
「本当か、さすがゲルプ先生。ありがとうございますっ」
オランジュに言われて嬉しそうなゲルプ。
すぐさま、装備品で合成用の作業着に着替えていた。
「じゃあ、自分の部屋で……」
「邪魔する」
そんなとき、玄関の方から声が聞こえた。
声の方に振り返ると、そこには銀髪の女が優雅にティーカップ片手に佇んでいた。
白いシスター服のそいつは、一瞬にしてロゼの顔を赤くした。
その姿を見た瞬間、僕とロゼは一緒に声を上げた。
「お前は、ゴモリ」
そう、そこには赤い名前のゴモリの姿がいたのだ。
「さあ、クエストの時間よ。
今回のクエストは、最高難度のクエストだから」ゴモリの一言で空気が一変した。




