038
僕が来たのは、隣の部屋にある和室だ。
和室といっても立派なものではなく、六畳ほどの狭さだ。
そこにいたのは、テーブルで一人カップラーメンをすすっている人物がいた。
老けた顔で、静かにカップラーメンを食べる父だ。
仕事前の夕食時というところだろうか。
いつもどおりの光景に、僕は血相を変えて来ていた。
「親父っ!」
「蒼一か、どうした?」
「僕のことを知らないか?」
「蒼一の何についてだ?」
「僕の小さい時のこと……そうだ、アルバムとかは?」
僕が父親に詰め寄った、カップラーメンを食べる手を止めて僕を見ていた父親が再び箸を動かす。
「ない」
「ないって……」
「アルバムなんか捨てた」
「待てよっ、アルバムがなぜないんだ?」
「何度も引っ越したからな」
「引越し?」
僕は引越しの記憶があった。
小学五年だと思う、引越しの手伝いをした記憶がある。
引越しをすると、友達に言いまくったこともあった。
あの時は、結局学校が変わらなかった。ちょっと恥ずかしい思い出だ。
「過去はいい思い出がない、無理にぶり返す必要はないだろう」
「親父……それって?」
「残すものではない」
「捨てたというのか!なぜだ?」
「蒼一……いいか?」
カップラーメンを食べた親父の顔が、急に険しくなった。
「詮索はよせ、なにもいいことはない」
「親父はなぜ教えてくれない?幼少期の僕のこと」
「全てを捨てた、過去を振り返らないで生きていく。
過去を変えることはできない、これが世の中だ」
「だったらせめてこれを教えてくれ。真衣という名前を知っているか?」
親父は立ち上がってカップラーメンの汁を流しに捨てた。
だけど僕の言葉を聞いて、一瞬止まった。
「どこでその名を知った?いや思い出したのか?」
「ネットゲームで知った。真衣が同じゲームをしていた」
「そうか……家族の呪縛から逃れられないか」
「親父っ!」叫び声が響くが、父は動じない。
「その名前は忘れろ、お前の妹はアイツだけだ」
「アイツって誰?」
その言葉に反応したのは、上にいたロゼだった。




