037
窓の外は、夕方から夜になろうとしていた。
ロゼにとりつかれて三日目の夜を迎えようとしていた。
幽霊のロゼが、ログアウトと同時にリアルに出てくる。
このシステムにも、ようやくなれた。
自分の部屋は狭くてパソコンと、本棚ぐらいしかないとてもちっぽけな部屋。
それだけに、モノがあまりなくて散らかってもいない。
マジック・クロニクル内にある自分の部屋とは、全く違う。
実に狭くて汚い部屋だ、リアルはみすぼらしい。
今の僕はバイトまで、少し時間が空いていた。
だからパソコン画面に座ったまま、後ろのロゼをじっと見ていた。
幽霊になったロゼは、胸を押さえて僕に言ってきた。
「ブラウ……どう思う?」
「お前、何者だ?」
僕とロゼの言葉が交差した。
言った僕とロゼは少しの沈黙。パソコンの起動音が静かな部屋にかすかに聞こえた。
「わかっていたら、既に帰っているわよ」
「ロゼの中に僕が居る……」
「いたのね、あたしの中にもあなたが」
「ロゼは本当に何者だよ?なぜ僕を知っている?」
僕の言葉に、頭を抱えてロゼが苦しんでいた。
「ダメ……思い出せない」
「思い出せよ!」
「無理なものは無理よ、そんなに強要しなくてもいいじゃない!
あなただって何もわからないでしょ!」
しゃがみこんだロゼが叫んで、僕は頷くしかなかった。
僕はロゼと……いや真衣と会っていたんだ。
それでも全く知らないし、僕自身に覚えもない。
小さい頃の記憶は、大きくなると忘れるものだ。
記憶がハッキリするのは小学生あたりだろうか。
だとしたら、それ以前の僕と推測できた。
「でもひとつだけわかったことがある」
「何?」
「ロゼ……真衣と蒼一は会っているということだ」
「それはそうじゃない」
「そして、それは遠い過去だ」
「うん、過去」
「だとしたら一人聞ける人物がいる」
僕はパソコンの時計をちらりと見て、あることを思い出して立ち上がった。
「ちょっと聞いてくる」
「えっ?」
僕はそのまま部屋を出ていった。
いきなり動いた僕にロゼもついていった。




