034
ドレイクに見つかって、五分後僕の目の前は真っ暗になった。
走りながら逃げた僕は、ドレイクの攻撃を二発まで耐えて死んだ。
死ぬとキャラクターはクリスタルになった。
クリスタルになった僕は、全く身動きがとれない。
薄暗い岩穴の中で、クリスタルだけがぼんやり明るく照らす。
ここはグラ・ホールの奥地、誰も人が来ない場所だ。
ドレイクの討伐隊でもない限り、こんな危険な場所に人が来るのはありえない。
クリスタルになったプレイヤーは、マジック・クロニクル時間の三時間(リアル1時間)で強制的に転移ポイントに返されるのだ。ちなみに死んだ時のペナルティは、それまで入手したアイテムが手に入らなくなること。
昔のRPGと違い、所持金が無条件で半分にはならないのはありがたい。
(さて、この時間にトイレとか済ませておくか)
などとパソコンから離れようとしたとき、僕のそばに突然一人の人間が見えた。
それは、灰色のフードを被っていて顔が見えない。
男か女かもはっきりわからない。
「無様な姿だな、ブラウ」
クリスタルの姿の僕に話しかけてきた。
僕の名前を知っている、いや名前表示が出ているからわかるか。
でもこの人物は、名前表示を非表示だ。
(誰だ、こいつは?)
僕はパソコン画面を見ながら、推理を開始した。
前の狩場で一緒になったやつか、それとも野良パーティで恨みを買ったやつとか。
いずれにしてもこんな危険な場所に一人で来るのは……GMか。
「これ以上、ロゼに近づくな。お前は彼女の助けにならない。
あなたは何も知らない。知ってはいけない」
(一体何のつもりだ?)
死体の僕には喋る権利はない。
クリスタルの僕は、チャットもできないからただ黙って聞いているしかない。
「ちょっと、なにしているのよ?」
すると、灰色フードの後ろから出てきたのがロゼだ。
その姿を見るなり、いきなり魔法の詠唱を始めた灰色フードの人物。
「ロゼ、どうしてここに?」
「あんた、どこかで見たことあるのよね」
「そう、忘れたようね。あの人の言ったとおり」
「言ったとおり?あの人?わけわからないけど」
「ロゼが全部忘れても、俺は忘れない。
絶対にお前はそこにいてはいけない」
「なによ、あたしに指図をしないで」
あんたみたいな胡散臭いのを信用しないわよ」
「そうか、忘れたのか」
「忘れたって……」
「ならゴモリから離れろ。永遠に出られなくなるぞ、眠り姫」
「何わけのわからないことを言っているのよ」
「お前はリアルを知らないといけない」
「え?」ロゼは眉をひそめた。
それを見るなり、灰色フードの人物は首を横に振った。
そのまま魔法の詠唱を始めていた。
(脱出だ)
「ロゼ、戻ってこい!待っているぞ、我が旧友」
最後に一言言い残して、目の前にいた灰色フードの人物が消えた。
それを見るなり、ロゼは不機嫌な顔を見せた。
舌を出して、不満を顔に出す。そのあと、すぐ僕のクリスタルを見つけた。
そのまま僕のクリスタルに近づいて撫でていた。
「全くかっこつけすぎよ」
ロゼが、僕のクリスタルを優しく撫でていた。
「ちゃんとクリアしたから……ありがと。
それからさっきは……からまれてごめんね」
ロゼが最後に僕にそう言っていた。
その時のロゼは、泣いているようにさえ見えた。




