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とある少女がネトゲをやりまくった件(くだり)  作者: 葉月 優奈
三話:とある少女が敵地に潜入する件
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~~バイエル公国・小黒鷲旅団の家~~


ゲームの中に入ると、僕は打墨 蒼一ではなくなる。

ブラウになった僕は、背がリアルと違って高く美形になった立派な男だ。

ゲームのアバターは、全部美男美女で描かれるからだ。

豪邸のソファーで僕は、足を組んで書類を読んでいた。


そんな僕には、リアルでとりついたロゼがいた。

「あらぁ、ブラウはなんだか不機嫌そうね」

「知っているんだろ、不機嫌の原因」

「まあね、あたしとあんたは一心同体だからね」

ロゼの言葉に、僕は身震いをして顔を歪めた。


「最悪だ。プライバシーもへったくれもない」

「なんでそんなに嫌そうな顔をするのよ、あたしは美少女よ」

「美少女ねぇ、信用できないな。アバターは全部を美化するし」

「なんなら脱いでみる?体に自信があるわ」

「露出狂か?」

「ウソに決まっているでしょ、バーカ」

ロゼに茶化されて僕は、ふてくされたまま書類に視線を落とす。


「だいたい、ここで何を読んでいるのよ」

「攻略本だ」

「ふーん、攻略本ねぇ」

「自作だけどな、一応ここにデータ転送している」

「このゲームの攻略って、ネットでアチコチに落ちているからな」

「そうだな、まとめサイトもあるけど、あまりまとまっていないし。

なによりこの前バージョンアップあったから、戦い方の変更点を知らないといけない」

僕はロゼを無視して書類を見ていた。

僕が無視したのを見てロゼは、僕のほっぺをつねったり、髪をかきむしったりしていた。

どうやらロゼは僕にかまって欲しいらしい。

だけどロゼを相手する程機嫌が良くない僕は、パソコンから書類を出してみていた。

飽きたロゼがソファーに転がって、足をバタバタさせていた。


「タイクツぅ~」

「ロゼもパソコンで情報見たら?」

「出来るわけないじゃない。ねえ、何か変わったの?」

「ん~、ウルトラモンスターの能力が変化したってことぐらいかな。

僕らにはあまり関係ないな」

「なんだ、それね」

「やったことあるのか?」

「あるに決まっているでしょ、レッドドレイクにキマイラキングは倒したわよ」

「なんだ、自慢か」

「そうよ、自慢。あなたには自慢してあげてもいいわよ」

「そこの記憶はあるんだな」

僕の言葉に、ソファーから起き上がってじっと見ていた。


「記憶じゃないわ、称号があるの」

「ウルトラモンスターっていうぐらいだから、ソロでは倒していないよな。

パーティでも組んでいたのか?」

「多分……ね。だけどゲームの中の記憶も曖昧なの」

「そこがわかれば……もしかしたらロゼのこともわかるかも知れない」

「ただ、別れたから」

「別れた?」

「あたしは、前のパーティを抜けたのよ」

しゃがみながら、ロゼが僕に体を向けた。


「なんで?」

「アイテムのことでもめたと思う。

アイテム獲得権のことでもめて……抜けざるを得なかった」

「なにかの活動をしていたのか?メンバーは?」

「覚えていない」

「そっか。まあこの小黒鷲旅団はレアモンスターやウルトラモンスター討伐とかやらないから。

ロゼも廃人なら、規模は大きそうだな」

「そういえば、なんか静かだと思ったけどほかの人は?」

「ああ、ロートはログインが夜からだよ、ゲルプさんは夜からログインだと思う。

それからオランジュは……」

「おい、夫婦二人何騒いでいるんだ?」

そう言うと、言葉の主たるオランジュが姿を見せた。


「夫婦じゃないって!」

「違うに決まっているでしょ!」

僕とロゼは、ほぼ同時に否定した。

それを派手なスーツのオランジュは笑っていた。

相変わらずの金ピカに光るスーツがオランジュの私服だ。

スーツが古臭くダサい、昭和のスターではないのだろうか。


「オランジュ、相変わらずその格好なんとかならないか?」

「いいんだよ、かっこいいんだし。正義のヒーローはこうでないとな」

「その割に、ジョブは魔術師だろ」

「魔法を使える火力役、派手好きな俺にはぴったりだ」

なんだか矛盾しているぞ、オランジュよ。


「へえ、なかなかかっこいいわよ」

「おお、さすがロゼ様。お目が高い」かしこまったように膝まずくオランジュ。

「ふふん」

ロゼとオランジュは、変な感性同士なのか意気投合していた。

この二人の変なテンションに、僕はついていけそうもないな。


僕は立ち上がって、オランジュのそばで小さな声で囁いた。

「オランジュ、そんなことより今日はあったんだろ」

「何がだ?」

「お前はどうなんだ?進路指導」

僕の言葉に、オランジュの顔が一瞬にして曇った。


「ブラウはまだ決まっていないのか?この時期に」

「今日呼ばれた、親父と一緒に。最悪な一日だ」

「そうか……佐藤先生も相当苦労しているんだな」

「なになに、佐藤先生がどうしたの?」

オランジュの言葉に、ロゼがなぜか反応した。

こっちの方に顔を覗かせていた。


「ロゼ……」僕は一瞬にして固まった。

「なんでオランジュが佐藤先生を知っているの?」

「ええっ、なんでロゼが……」

ロゼの言葉にオランジュもまた驚く。

二人の事情を知っているだけに、ここは僕が言うしかないか。


「ロゼとは僕のリアルの知り合いなんだよ」

「へえ、なら俺と同じか。まさかロゼさんと同じ知り合いだったとは」

「全くだ、猿楽場。この会話はあまりするのは禁止だろ」

「そうだった、ゴメン」

オランジュこそ猿楽場は、素直に僕に平謝りをした。

逆にロゼは、さらに驚いてオランジュを見ていた。


「猿楽場ってあの……」

「ロゼ、落ち着け」言いたそうなことがわかったのでロゼの口を僕は防ぐ。


「あの……なんだよ?」

「いや、なんでもない」僕は苦笑いで誤魔化す。

きっとロゼは生実さんの事を言うだろう、そしたらますますややこしくなる。


「でもまあいいか、オランジュ。じゃなくて猿楽場、お前は進路指導どうしたんだ?

まさか、魔術師なんて書いていないだろうな」

「もちろん、決まっているさ。まあ魔術師が選択可能なら、是非やってみたいが」

「できない、非科学的だ」

「ウチのリーダーは本当に夢がないなぁ」

「うるさい」似たようなことを言われて僕はムッとしていた。


「まあ、俺の進路は……リアルの方は弁護士志望だ。

東京の有名大学を受験する、法学部な。どうだ、かっこいいだろ」

オランジュの言葉に、反応したのはロゼだ。


「弁護士?もしかして、頭いいの?」

「俺たちの学校は、千葉……いやいや周辺でも名の知れた進学校だ。

もちろん蒼一……いやいやリーダーも本当は頭がいいんだぞ」

「そんなことはない」

「そういえば……つかぬこと聞くけどロゼさんのリアルはどうなの?」

「う~ん、あたしもよくわからない」

ロゼはなぜか笑顔で、オランジュの質問を濁した。

それはそうだ。僕がロゼと一緒にいるのは、ロゼのリアル探しだ。

ロゼのリアルの体がどこにあるか、それを探さないとこの幽霊は永遠に離れない。

まったくもって迷惑な話だ。


「こんちわですぅ」

と、部屋のドアがあいて声が聞こえた。

そして出てきたのはゲルプだった。いつもどおりのネコミミと真っ白な鎧を着ていた。

すると、オランジュがロゼの方に近づいて何かコソコソ話していた。

だけど僕には聞こえない喋りで話していた。だから僕がゲルプを出迎えた。


「ゲルプさん、今日はやたら早いインですね。

いつもは、夕方五時半以降にインするはずですが……」

「今日はブラウさんにお渡ししたいものが、ありましてきたの」

「渡したいもの?」

「はい、そのまえにオランジュさん」

「ゲルプさん?」オランジュが名前を呼ばれて、ゲルプの方を見る。


「ちょっと席を外してもらえます?」

「どうしたんだい?」

「外してください、でないとロゼが困りますよ」

「え、おう。分かった」少し戸惑ったが、オランジュはリビングを出ていこうとした。


「なんかおかしくないか?」

「ああ、任せろ」

オランジュが一言、そう残して家から出て行った。

ロゼもそれに気づいたのか、立ち上がって警戒をしていた。


「お前はゴモリか?」

「正解です」

そう言いながら、ゲルプの体が突然包まれて出てきたのがゴモリ。

真っ白なシスター服に、尖った耳の女だ。手には何やら枯葉がついた杖を右手に持っていた。


「いかがかしら?今回の出現方法?」

「最低の演出だわ」ロゼが明らかに怒っていた。

「そう、それは残念」

「新しい武器か?」

「そう、ポリモルフスタッフよ。実装されたけど、まだあまり取れる人はいないみたい。

それもそうね、キマイラキングが落とすのだから」

「なんの自慢だ?自慢ならロゼだけで間に合っている」

「ちょっと!」僕の言葉に、ロゼが叫んだ。


「あらあら、それは残念ね。

次回は、ロートやオランジュに変身して登場してあげようかしら?」

「そんなことするな!」僕は魔法剣の柄に手をかけた。


「ブラウ、やる気じゃない」

「当たり前だ!僕には構わないけど、パーティメンバーの迷惑になることはするな」

「なにか勘違いしていませんか?そんなに彼女に迷惑をかけていませんよ」

「それでもだ!この件は僕とロゼの間の話にしてくれ。

ほかのパーティメンバーは何も関係ない!」

「だから彼を追い払ったのでしょう。

そろそろ本題を話さないといけませんから。あなた方は『騎士』クエストを覚えていますか?」

その言葉に、僕とロゼは懐かしさと同時に思い出した。



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