026
リアルに戻り、再び海に来ていた。
翌日、バイト終わりで学校の制服を着たまま夜の海を見ていた。
夜の海は、いつもどおり静寂で人もいない。
後ろの車道も殆ど車は通らない。
ベンチには僕しかいない、リアルではそう見えるだろう。
だけど隣には誰にも見えないロゼがいる。
アバターと同化した少女が、疲れた顔で座っていた。
「今回はロートに助けられたな」
「そうね、あんたのパーティはすごいわよ」
「すごい?何がだ?」
「あんな高価なものを平気でプレゼントするとか。ありえないんだけど」
「本当にびっくりだ。全部で3500万か、菜園って馬鹿にならないな」
僕はロートの持ってきたアイテムを、すべて売った。
そうしなければ、あの画像は見ることができなかった。
「だけど、あの子は価値をわかっていたわよ」
「まじか?」
「それを知っていた上であなたにあげたのだから、あなたはよほど好かれているのね」
「そうかな?僕は……」
「そうよ、この鈍感っ!」
なぜか幽霊のロゼは僕に怒ってきた。僕に平手打ちをするが、手がすり抜けた。
だけどちょっとだけ嬉しそうになって、海に視線を移す。
「また海、だな」
「海……そう。大事な話をしたの」
「思い出したのか?」
「ううん」ロゼが首を横に振った。
「そっか。せめてあそこに出てきたのが顔さえわかればな」
「顔?」
「ああ、顔まで確認できなかったから」
「そっか」
「大人の男と、大人の女、あと車椅子にいるのは」
「女よ」ロゼがきっぱりと言い放つ。
「そこはわかるのか?あの三人は何者なんだ?」
「わからないけど、あたしにとって一番大事な人よ」
「大事な人……そういえば真衣、あれは?」
「あたしの名前」
「ロゼの名前か……うーん」
「どうしたの?」
「いや、なんとなく聞いたことあるような名前だなって」
「まあ、そんなに珍しい名前じゃないから。
関係ないけどあなたにとって一番大事なものってなに?」
「僕はもちろん、パーティだ」
「あの、ほらナントカっていうパーティなの?」
「小黒鷲旅団だ」
「小黒鷲……なんなの?」
「鷲ってほら、鳥の王様だろ。無敵、最強の意味。
僕たちは黒鷲のように強くなる……そういう意味でつけたけど。
黒鷲旅団ってパーティが、既にあったからね、だから小を頭につけたんだ」
「へえ、そうなんだ」
「うん」僕は夜の海を見ていた。
「だけど、あの画像を見て確信したんだ」
「何を?」
「この海じゃないってことだ」
僕は夜の東京湾をじっと眺めていた。
それは工場の光が輝く夜の海。
人が多く、機械の音が遠くにいても聞こえるほどだ。
さらに、港らしきところに大きな工業用の船が接岸していた。
「でも、今も見ているこの海をあたしは嫌いじゃないわ」
「そうか、まあ僕も嫌いじゃない」
「ええ、そういうところがあんたはリーダーっぽいわね」
「僕がリーダーっぽい?」
「あなたはそういうのが向いているのよ、あまり波風立てずに淡々と周りを動かす。
あなたはそういう仕事が向いているみたいね」
「そんなんじゃない、僕は何にも向いていない。
だって、自分の夢でさえ決めることができないのだから……」
強く言い放った僕の声が響く。そのままずっと遠くの海の果てを見ていた。
それは工場のない、明かりのない闇の先。
そんな僕の横顔を、ロゼはしばらく見ていた。




