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ロゼ、『マジカル・クロニクル』のプレイヤーで、知らないものはいない有名人だ。
最強のプレイヤースキルと装備を誇る天才ゲーマー、それがロゼだ。
ネットでは『伝説の戦士』や、『月下の舞姫』などとキャッチコピーがつけられていた。
だけど本人は、それを全て否定して自らを『廃人』と名乗るおかしな女だ。
見た目は女だが、実際リアルの人間はどうかわからない。
リアルには興味もない。現実は、だいたいつまらないことに転がるものだ。
山岳地帯では、僕らを助けてくれたロゼがいなくなった。
ロゼが去ったあと、パーティメンバー四人とリンドブルムが宝箱しかない。
ロゼはそういえば、宝箱を持って行かなかったな。
「ロート、任せた」
「うん、なるね」
回収をするのは、ロートの仕事と決まっていた。
僕もできるが、ロートの方が専門でメインのキャスパルだ。レベルも高いし。
キャスパルを反転させる『反転能力』で、『盗賊』になった。
盗賊の特技は、アイテムのドロップ率を上げたり、罠を発見したり、扉を開ける。
盗賊が宝箱を上げるだけで、アイテムの質が良くなる。
逆に盗賊以外が開けると、罠にかかったりする仕組みだ。
ロートが宝箱の罠探し及び開錠作業中、オランジュが話しかけてきた。
「やっぱりかっこいいな、ロゼ様は」
「そうか?少し変わった人だと思うが」
「いいや、かっこいいよ。ロゼ……伝説の戦士。憧れるな」
「ですね、憧れちゃいますぅ」
「うんうん」
ロートもゲルプも、ロゼが好きなようだ。
飾らない性格で、強さも美しい見た目も超一級。
だけどリアルがどんな人間かは知らないが。
廃人というぐらいだから、大体が引きこもりだろう。
「それにしても、アイテムは取らなかったみたいですぅ。何がしたかったんでしょう?」
「俗に言う義賊じゃないか?」
ゲルプの質問に、カッコをつけるオランジュ。
「ただの暇つぶしじゃないのか?」
「リーダーは否定的だな、ブラウ」
「さすがは弱体のスペシャリスト。完璧なところに弱点を探す、お見事ですっ!」
「ロート、そんなことより開錠終わったのか?」
腕組みをしたまま僕が、宝箱の前にいるロートに声をかけた。
「うん、終わった。戦利品はロート預かりにするね」
「たのむ」
宝箱から僕たちの方に駆け寄る小さな体のロート。
パーティボックス内に出てきたアイテムの確認をしていた。
ロートは、戦利品回収の仕事をちゃんとやっていたらしい。
出てきた戦利品を、僕たちは見ていた。
「戦利品は、三周年宝くじ四枚」
「リン革は?」
「出ていないよ」
オランジュは残念、と悔しがった。
僕たちは、リンドブルム戦をしていたのにはワケがある。
リン革、正しくは『リンドブルムの革』という合成品を取りに来たわけだ。
だけど、目的の品がでなくて落胆の空気がパーティに流れた。
「まあまあ、三周年宝くじ手に入ったことだし」
「えー、宝くじって、そこそこ強い敵でも落とすじゃん!」
「まあ、ちょうど四枚出ているから。一人一枚ずつ。番号とか希望は?」
「適当でいいとおもう」
「じゃあ、一枚ずつってことで」
僕は適当に宝くじを渡していった。そして、僕は最後に残った宝くじを受け取った。
だけどその何気ない行動が、僕の運命を大きく変えるとはそのときはまだ思わなかった。




