015
国道沿いにある、ガソリンスタンド。
そこが僕のアルバイト先だ。大きな声が飛び交う職場。
そこに働いているのは四人、今時珍しくもないセルフのガソリンスタンド。
夜の時間になって、人というか車の数が増えていた。
「オーライ、オーライストップ!」
帽子とスタンド用の制服を着ていた僕は、大きな声を出しながら車の先導。
忙しくなる夜七時頃、僕は青い制服で汗をかいていた。
セルフなので、客がガソリンを入れている間はほぼ暇なのだが。
しばらく先導を終えると、僕と同じぐらいの高校生の男がやってきた。
正確には浪人生で、一つ上なわけだが。
「ちょっとチーフ」
「どうした?」
「サービスステーションの方から……」
「そっか、今行く。こっちの先導を任せた」
「はい、チーフ」
そんなガソリンスタンドで、車の先導を終えるとサービスステーションから手招きされた。
明らかに年上の女性が手招きしていて、お客さんと何かレジでもめているようだ。
おっとりした女性は、四十代のお客さんに怒られているように見えた。
「はいはい」
駆け足で僕が向かうと、そこには困惑した女性スタッフ。
見た感じ三十代ぐらいの大人の女性だ。
「あの……レジ大こんら~ん」
「ちょっと待ってくださいね、生実さん」
レジ打ちに困惑した女性スタッフに変わって、僕がレジを見ていた。
「う~ん、こっちのデータで通るから。
そこのボタンを押すと、もう一回やり直しができるよ」
「ありがとうございます、チーフ」
女性スタッフの生実さんが、僕に丁寧に頭を下げた。
「そうじゃなくて、生実さん。お客さんの方へまず謝罪」
「はい、申し訳ありません」
僕に頭を下げた女性スタッフは、慌てた様子で待たせた客に頭を下げていた。
「ほんとうにすいません」
僕も客に謝って、今度は洗車場の方に小走りで向かう。
それを幽霊のロゼはじっと見ては、僕の前に顔を覗かせた。
暇そうな顔で、飽きたぞって顔を前面に出していた。
「ちょっと」
「なんだよ、洗車のお客さんが待っているんだ」
「そういえば、今日のバージョンアップ、楽しみね」
「ああ、ゲームの話か。今は忙しい、バイト中は話しかけるなって言っただろ」
幽霊少女ロゼよりも、僕はバイトに集中していた。
当然、無視されてロゼはムッと膨れた。
今、バイトの時間を利用してパソコンは『マジカル・クロニクル』のバージョンアップをしている。
昼間からメンテナンスだったし、順調に行けば夜にはログインできるだろう。
「ねえ、ねえねえ」
「なんだよ?」
「チーフって何?」再びからんでくるロゼ。
「そのままの意味だ」
「ブラウはなんでバイトしているの?遊び金欲しさ?」
「バカ言え、生きるためだよ。それにここでは蒼一だ、リアルなんだし」
「生きるため?」ロゼはさらに聞いてくる。
「親父の生活費だけじゃ生きていけないんだよ、文句あるか?」
「でも、ブラウは学生でしょ」
「離婚しておかしくなったからな、家族も、僕も……」
僕は言葉を濁していた。
その言葉を聞いて、ロゼも空気を読んだのか申し訳なさそうに僕から離れる。
「チーフ、こっちに来てくれるか?」再び洗車場から声。
「はい、今行きますっ!」
そう言いながら呼ばれて、洗車場の方に走っていた。
洗車を待たせていた客に、深々と僕は頭を下げて謝っていた。
「はい、誠に申し訳ありません」
窓を拭きながら、何度も頭を下げていた。




