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とある少女がネトゲをやりまくった件(くだり)  作者: 葉月 優奈
十二話:とある少女がネトゲをやりまくった件
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そこはこの家の中でも、一番異様な部屋だった。

中央にはベッドが置かれていた。が、周りの壁は赤い。血だ。

匂いもこの部屋は、きついものに変わっていた。

何かが腐ったような匂いは、鼻を覆いたくなるほどだ。


ベッドに縛り付けたれた女性がいた。

憔悴しきった顔に、長く乱れた髪。

ホラー映画に出てきそうな出で立ちで、異様なオーラを放つ。


「死んでいるのか?」

僕はその部屋に入って愕然とした。

だけど突然、ベッドの上の女性が僕の姿を見るなり大きく目を見開いた。


「アアッオオッ!」

いきなり叫び出して、静寂が切り裂かれた。

ベッドの上で暴れだしたのだ。だけど、ベッドには大きな紐のようなものでその女性は縛られていた。

その女の叫びは、震えさえあった。


「なんだ、これは……母さんなのか?」

「ひどい事を言うね、君を生んだのに」

伯父さんも入ってきて、静かにベッドのそばに歩いていく。

そのまま暴れる母の頭を優しく撫でた。


「母さん……なぜ?」

「これが残酷なリアル、ロゼ……真壁 真衣のリアルだ」

「残酷なリアル?」

僕も母親のそばに近づく。

でもさっきというか錯乱状態の母は、まだ暴れていた。


「そう、真衣は私の妹と二人暮らしだ。

症状が出たのは、五年ほど前だ。末期の若年性アルツハイマー病だ。

こうやって縛り付けないと、暴れてしまう。娘である真衣を殺そうとしていたからな」

母はそう言われたのか、再び暴れてしまう。

だけど体を縛りつけるベッドが、激しく揺れた。


「しかし、妹は絶対に治らない。

もう彼女は長くはない。もうすぐこの時間も終わる」

「終わるって……」

「真衣は、懸命に看病をしたのにな」

伯父は難しい顔を見せていた。


「看病って?」

「彼女は人生の全てを捨てて、母の介護をした。

だけど真衣はまだ若い、小学生だ。健気にずっと真衣は頑張っていた」

「そうか……そうだったんだ」

「おかげで、彼女は中学にはほとんど行けなかった。

父もいないからな、わたしが稼がないといけない。真衣は徐々に弱っていった。

介護というのは、思った以上にストレスを感じる。ましてや真衣はまだ幼い。

いつしか、真衣は無感情になってしまった。そこで」

「マジック・クロニクル?」

「そう『マジック・クロニクル』というゲームを、真衣に勧めた。

このゲームの開発を終えた私は、次の開発班ではなく運営班に異動した。

GMゴモリになった」

そう言いながら、散らかった部屋にあるティーカップを伯父さんは拾い上げた。


「これで分かっただろう、彼女は、真衣はゲームの中で生きていればいい。

リアルの残酷さに耐える必要はない。もうすぐ一人になるのだから」

伯父さんが、しみじみとした顔で話す。


「それは間違っている」

「何が間違っている、ゲームの中の方で生きたほうがよっぽど幸せだろう。

人間は幸せになる権利があるのだ」

「ならばリアルで幸せに……」

「ロゼは決めているさ。真衣には、リアルに未練がない。

彼女のリアルは決まっていて、彼女は悲しみしか経験していない。

それならば、ゲームの中で彼女は生き続ける方が幸せだよ」

伯父さんは、両手を広げて笑っていた。


「それは違う!真衣はそんなことを望んでいない」

「なぜそんなことが言える?」

「そうだとしたら、真衣は悲しいだけだ」

「お前だってリアルが嫌いではないのか?」

伯父さんの言葉に、僕ははっとしていた。


「そうだよ、離婚して父も恨んだ。だけど今の僕にはそれはない」

「なんだと?」

「僕はロゼと会って変われた。リアルが好きになった。

その気持ちを、僕はロゼに伝えたいんだ」

僕は叔父に対して、自分の気持ちを伝えた。



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