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仙台に向かう新幹線、平日の朝はすいていた。
それでも僕は、あえてデッキにしゃがんでいた。
ボストンバック片手に、平日の朝新幹線に乗っていると家出少年にしか見えない。
デッキの窓は、見慣れない景色が流れていった。
朝、佐藤先生と会った。
佐藤先生は僕の担任教師だ。
だからこそ本来、僕が学校を休むのを止めるのが仕事だろう。
だけど、この件に関しては違っていた。
佐藤先生が朝に渡してくれた、住所のメモを見ていた。
昨日の夜、GMをしている佐藤先生に言われた。
仙台の『真壁 真衣』の住所を調べてもらった。
ゲーム運営上、本来なら他のプレイヤーの個人情報を流すのは禁止だ。
それは複数のGMの判断で、それを行うことが認められる。
エリゴスの佐藤先生は、複数のGMに許可をとって情報を教えてくれた。
(ありがとう、佐藤先生)
佐藤先生が、苦労して集めた真壁 真衣の情報が唯一の頼りだ。
先生は僕にこの情報を託してくれたんだ。
(お前にしかできない、真壁 真衣を救えるのは)
ゴモリに連れ去られた妹。
ゴモリに利用されている妹。
そして僕と唯一血を分けた妹。
僕は左の手のひらをじっと見ていた。
(ずっとロゼのことを、何も知らなかった僕……)
ロゼのことを忘れたまま、僕は生きてきた。
小学校入って、父が再婚して、祐里奈という妹ができた。
中学になって、父が詐欺に遭って、祐里奈と離れた。
そんな僕は、幼い頃の記憶が全くなかった。
ロゼと出会うまで、僕が真衣と兄妹だということさえ知らなかった。
(今度こそ、ロゼを助けたい)
今はその気持ちでいっぱいだ。
暗闇に、ロゼ……真衣が叫んだ日。
仙台に始めてきて、泣いたあの日。
何より僕と別れたあの日。真衣は全部泣いていた。
その涙を知らないで、僕はずっと生きていた。
僕たちが生きていくことに必死だった。
(だけど……僕に何ができるのだろうか)
わからない、その問い掛けはきっと愚問だろう。
だけど、僕とロゼには同じ血が流れていた。
もしかしたら、そのことこそ僕が忘れていたことなのではないか。
僕が忘れてしまった、置いていった夢。
(道だけはあるんだ、僕の目の前には)
それはロゼ……真壁 真衣の情報だ。
GMである佐藤先生が、僕に教えてくれた情報。
全てはここに行けば分かる、母もいるだろう。
ゴモリはロゼとつながっているのだから。
『次は終点、仙台』車内アナウンスが流れた。
(リアルのロゼに会うのは……十年ぶりだよな。
まあ眠っているみたいだよな、仮死状態か)
そんな僕の乗っている新幹線が、減速した。
仙台駅のホームへと新幹線が入っていく。僕の顔にも緊張が走った。
そして新幹線が、仙台駅のホームに到着した。
デッキにいた僕はボストンバックを片手に、新幹線を降りた。
平日の仙台駅は、サラリーマンが多かった。
駅のホームを歩くと、突然前から一人の人間がやってきた。
「君がブラウ君だね」
その言葉は少し大人びていた。
僕が振り返ると、白髪まじりの老けた大人がゆっくりとやってきた。
そしてその男は、真っ白なシャツを来ていた。




