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ゲームと違うここは、リアルだ。
滅多に着ないよそ行きの青いジャンパーの僕は、リアルの和室に来ていた。
薄暗い朝で、薄暗い和室の部屋。
本来なら、僕はこれを望んでいたはずだ。
僕に取りついていた幽霊が、いなくなった。
普段はやかましく叫ぶロゼの姿を、もう感じない。
ここに来る目的は、ただ一つ。
早朝に帰ってきた父は、作業着を脱いでいた。
シャツ姿で、少し汚れた腕。仕事を終えてくたびれた顔をしていた。
「今朝は早いな」
「うん」たわいもない会話で僕は父と話す。
しかし、次の言葉がなかなか言い出せない。
父が、制服を脱いでジャージに袖を通す。
「学校にしてはまだ早い時間だろう」
「いいや、学校にはいかない」
「休むのか?」
「僕は決めた。仙台に、真衣に、母さんに会いにいく」
僕の言葉に、父は眉をひそめた。
「どうしてそうなる?」
「僕は初めての離婚を、ほとんど覚えていなかった。
幼い頃の記憶が僕は覚えていなかった。だけど、知った。
知ったからには、会いに行きたい」
「お前が会いに行ったところで、それは邪魔でしかない。
向こうには向こうの家族がある、かかわらない方が身の為だぞ」
「邪魔でもいい、彼女が助けを求めているんだ」
僕の言葉に、父は首を横に振った。
「そうか、もう出来ているんだな覚悟」
「ああ」
「お前がなにかの目的をもって動くのは、喜ばしいことなのかもしれないな」
父はため息をつきながら、タンスの方に近づく。
そのタンスには、幼い僕と父の写真が飾ってあった。
「僕は夢を失った、だけどそれを真衣が気づかれてくれたんだ。
僕にとって、今や真衣は大事な人間だ。だからこそ助けたい」
「ふむ……」
「もう僕は行くよ、妹を助けに」
「そうか……すまない」
父は諦めたように、写真をタンスに置いた。
玄関前に置いた古いボストンバックを僕が担いで、玄関の扉を開けた。
その時、一人の背広を着た人間が笑顔で出迎えた。




